春の昼下がりの定義ただいま戻りましたというわたくしの声に返事はなかった。出かける前は廊下の向こう側、突き当たりの椅子に座っていた彼女の姿はない。
どこかへ出掛けているのかしら、携帯に連絡はなかったのだけれど。
ひとまずは訓練服を着替えてしまおう。クローゼットへ向かいかけた足が止まったのは、二段ベッドの下、つまり雨嘉さんのベッドに人がいるのを見つけたからだった。
レースカーテン越しに誰かがいることに気がついて、なるほどと得心した。
それでも、万が一予想が外れていては良くないからと、レースカーテンに手を伸ばす。他意なんてどこにもない。
音を立てないよう、慎重に開いたカーテンの中。雨嘉さんは壁にもたれかかって座っていた。綺麗な緑の目は閉じられていて、予想通り彼女が眠っていると分かる。
1679