ルルワの綱(仮)ロスリック兄弟
寝台
兄の身体に触れていく弟

兄上。本当にいいのですか。
強くて綺麗な身体、美しい声。
それらをみんな私に下さると。

本当はあなたが継ぐべきだった。
萎びた私などではなく。
あなたは私を憐れんでいらっしゃる。兄上。

私の強さは、貴方がいてこそなんです。我が王よ。
貴方は私が何でも持っていると思っているのでしょう？
でも違うんですよ。
あなたがお生まれになった時、私の半身が現れたと思い、涙しました。
それまではずっと、足りなかったのです。
私の指を掴んだこの小さな手を、この身に代えても守るとあの日幼き胸に誓ったのです。
でも。それだけでは世界が許さないのなら。
私は喜んで、文字通り貴方の一部となる。
…赦して欲しい、ロスリック。
これは騎士の忠誠だとか、兄としての親愛とも違う。
私がそうしたいから、そうするのです。
それだけなのですよ。

さぁ、愛しの我が王よ。
欲しいものを、何でも持っておいき。
この脚も、手も、瞳も、声も、魂も、愛も全て御身のものに。

兄上。兄上。私を見て下さい。
あぁ、なんと美しい瞳。
この瞳が世界の窓だったならどんなに良かったか。
世界が斯様にも美しかったなら、この不肖の骨を喜んで火に焚べることだってできただろうに。

我が王よ。たとえ火が絶えた闇の中でも、貴方がそこに居るだけで、世界は美しい。
いずれ貴方も見えましょう。

……最期に名前を呼んで。兄上
その声で、もう一度だけ。

ロスリック

その音を吸うように唇を重ねる。
喉が焼け、足が腐る。
理性を奪い、意のままにする。

兄上。ローリアン兄上。
私は時々夢に見るのです。
花吹雪の中で輝く真鍮の凱旋を。
神の威光に相応わしい兄上の横顔を。
その光景が今、真に私のものとなる。
その誇りと愛は私だけのものとなる。
いずれ語る民が失われても、私は覚えていましょう。