ひねもすカイアサ《10時》 朝方は曇っていたが、時間が経つにつれ晴れ間が出てきて訓練が始まる頃にはすっかり晴れた。曇りのち晴れだったようだ。
「いい天気になってよかったです」
アーサーの隣に座るリケは、何日ぶりになるかわからない四人揃っての訓練を喜んでいた。どうしても不在になりがちなアーサー本人と同じくらいこうして四人で訓練できる日を待ち望んでいて、日頃からどうにかならないかとオズに詰め寄ってはいい答えが返ってこないことにしょげていたが、望みが叶ったからか今日はすこぶる調子がいい。
「アーサーは久しぶりの訓練になるもんな。あのまま雨になったら座学に……いや、オズが晴れにしてくれたかな」
「どうだろう。でも、どんな訓練でも私は楽しみだったよ」
アーサーは一国の王子であると同時にひとりの魔法使いでもある。まだ成長の途上ゆえ、訓練はできる限り欠かしたくないと以前言っていたのが思い出されるが、彼には自分達ほどの自由はない。
彼の人生は彼のものであるが、そうではない側面もあるのだ。それは生まれによって決定づけられてしまっているものなので、現状の彼の立場などを考えれば勝手なことは言えない。歯がゆく感じることもあるが、仕方がない。
言葉少なにしているオズも、カインの目からは今日はいつもより気遣わしげな指導をしているように見えた。具体的にどうと言葉にはし難いが、そういった感じがする。
とにかく、自分を含めてみんながアーサーのいる今日の訓練を少なからず楽しみにしていたのだ。そのことが嬉しくなって、カインは覚えず笑みを浮かべた。
「カイン、外での訓練になったのが嬉しいのですか?」
「それもあるけど、こうしてみんな揃って訓練をやるのは久しぶりだろ? 嬉しくなっちまってさ」
「僕も、やっとアーサー様と一緒に訓練ができて嬉しいです。アーサー様がいない日は、やっぱり寂しかったから……」
「寂しい思いをさせてすまない、リケ。もう少し顔をみせられたらいいとは思っているのだが、なかなか上手くいかなくて」
笑顔を見せながらも寂しかったという気持ちを隠さずにみせてしまうリケに、アーサーは申し訳なさそうにほほ笑み返す。しかたがないことなら皆知っていて分かってはいるのだが、ままならなさに感情が追いつかない日もある。
そういうときに、大丈夫だという顔をしてやり過ごさないように気を付けようと若い魔法使いたち皆で話したことがあった。魔法は心で使うものだから自分の気持ちを自分で認めてあげようと聞いてからは、少し精神の持ちようが変わった気がしていた。
「アーサー様が元気でいることが何よりです。会えない日も、そうお祈りしてきました」
「ありがとう、リケ。私も離れていてもおまえを思っているよ」
何にせよ、よかった。会えない間も皆元気でいてくれて、自分のことを待っていてくれて、思ってくれていて、そしてこうして変わらない様子で接してくれる。
「……再開する」
「はい、オズ様!」
「よし! 昼までもうひと頑張りするか!」
「カイン、あまり張り切りすぎないでください」
特別なことではないかもしれなくても、いまの自分にとっては代わりのない、ありがたいことだ。アーサーは正午に向かって高くなる太陽に目をすがめ、屈託なく笑った。