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    nayutanl

    @nayutanl

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    nayutanl

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    愛弟子の世話を焼きたい衝動にかられた双子と、巻き込まれた愛弟子の話
    平たく言うと、手料理振る舞いたい双子と付き合わされる愛弟子 かも
    あたりまえのように昔四人で暮らしてた設定が採用されています。
    時が流れていろんなことがあって、もうあの頃と同じではないけど、あの味は(作り方は)忘れてないっていう。今回も文末に妄言が書いてあります。

    #まほやく
    mahayanaMahaparinirvanaSutra
    ##北師弟

    愛の原型 料理なら、ちょっとくらいはできる。不自由せず、作りたいと思ったものを概ね想像したとおりに作れる程度の腕はあると自負している。
     その気になれば魔法でなんとでもできることのひとつではあるのだが、時間を持て余したり気が向いたりしたときには暇潰しにふたりしてあれこれ作っていた。多少手間はかかるが、それはそれでいいのだ。調理や皿洗いをしていると、集中力が高まる。魔法は消費だが、自分の手でやることによって癒しになりうる。
     スノウもホワイトも、自分達の手でなにか作る時間とそれを食べる時間を日常としてそれなりに大切にしていた。ふたりきりの食卓に、ひとり、もうひとりと増えても。増えたことでより大切に、そして楽しんでいた節もある。
     何だか、よかったのだ。
     子どものために食事を用意してやる親のようなかんじがして。
     
     時は流れていろんなことがあったけれども、また弟子たちとひとつ屋根のした―大きな屋根だが、この際同じことだ。共に暮らすようになったが、魔法舎には自分達よりもずっと料理上手の魔法使いがいて面倒をみてくれるから、手料理を振る舞う機会はめっきりなくなって久しい。……気がする。
     そのうえ、おねだりをすれば賢者が魔法の調理器具で好きなものを作ってくれる。ほぼ、料理をする理由が失われていた。料理することはそれなりに楽しいが、自分達で作ったものが好きかというと可もなく不可もなく程度なので、切実にやりたいというわけではないのである。
     それに、フィガロやオズから求められてもいない。あの頃もあの頃で別段求められてはいなかったかもしれないが、ずっと昔に過ぎたことは考えっこなしだ。
    「「はあ……」」
     スノウとホワイトはどちらからともなくため息をつく。そうして顔を見合わせて、同時に口を開いた。
    「「世話焼きたぁい」」
     それからは交互に、どちらかが言ったことに対して相槌でも打つような調子で言いたいことを並べ続けた。同じ夢を見るほどのふたりでも思っていることが食い違うことはあるが、今日は完全一致らしい。
    「無責任に可愛がりたい」
    「嫌な顔されてもぜーんぜん構わぬ」
    「寧ろその反応までが世話じゃから」
    「嫌な顔とちょっっっっっと嬉しそうな顔どっちが出るかな~みたいな」
    「どっちが出ても当たり。はずれなし」
    「というかそろそろ腕が鈍ってないか心配になってきたのじゃ」
    「できていたことができなくなると老け込むからのう」
    「やるか」
    「うむ。では行くとするか」
    「「栗とりに!!」」
     思い立ったそのときが始め時と言わんばかりに意気込むふたりを止める者は、このときは生憎というべきか幸いというべきか、いなかったのだった。
     
     
     ◆◇◆
     
     
     双子の考えることは、よく分からない。何となく分かっているつもりではあるが、予知ができるわけではないので、彼らの思いつきや気まぐれには幾度となく振り回されてきた。当時のことを振り返れば、いまでもまだ渋いような苦いような気分になる。
     時は流れて実にいろんなことがあったけれども、ここまで生きてきて彼らのことは『よく分からないなりに分かる』という着地点を見つけたつもりだ。
     しかし、予期しない出来事に対してにはあまり強くないと感じる。昔から変わらない。少し考え込む癖があるなと自分に言ってきたのは誰だったか―と思っているうちにホワイトに引っ張られて食堂前までやって来たオズは、そこでスノウにしがみつかれているフィガロを見て諦めたように息をついた。
     
    「おお、来たか。思ったより早かったのう」
    「丁度いいくらいじゃろう」
    「自分達だけ分かってる話を進めないでくれません?」
    「サプライズの説明なんかするやつがどこにおるのじゃ」
    「あ~。スノウちゃん、サプライズって言っちゃったらサプライズにならないじゃん」
    「……」
     
     またか、と思ったが余計なことを言って不必要に絡まれたくはないので、オズはおとなしくホワイトに押されながら食堂のなかに入った。
     今日は東と西の魔法使いたちは賢者と共に魔法舎を空けていて、食事は各自ということになっていた。はじめのうちはネロ魔法舎を空けるときは発つ前日のうちに下準備だけはしていってくれていたが、魔法舎に残る全員分をとなると負担になるので、いつからかこういった形になったのである。しかし皆特に不満などは言わず、誘い合わせて作ったり食べに外へ出掛けたり、食べずに過ごしたりと各々気の向くまま好きにしていた。
     今日のオズはというと、若い魔法使いたちは皆で話題の店に行ってみるのだといって出掛けてしまったので、それを案じつつ自分の食事についてはあまり考えてはいなかった。そこへホワイトがやってきたのである。
     そのとき「お腹空いてない?」と言ったホワイトの表情は、不思議と懐かしく見えた。だから判断が鈍ったのかもしれない。気がつけば腕をしっかりと掴まれ立たされて、部屋から引っ張り出されていた。
     
    「強引にもほどがありますよ。せっかくゆっくりしてたのに」
    「ゆっくりはよいが、食事抜いたら弱くなるじゃろ」
    「スノウ様、そんな暑苦しいこと言う方でしたっけ? 適当な時間に食べるし、大丈夫ですよ」
    「そなたの大丈夫を信用するの、南の国の人間くらいじゃからな」
    「それはさすがに酷くないですか!?」
     
     スノウとフィガロはなにやら会話が弾んでいるが、それに対してホワイトは静かなものだった。五階から階下へやって来るまでの間はどちらでもよさそうな世間話を繰り出していたが、飽きたのかやめてしまった。
     沈黙を気まずく思うわけでもなければ、無駄な話に付き合う趣味もないのでそれはそれで構わないし、本題が世間話にあるわけではないことは分かるし、その本題については何となくあたりがついていた。
     ホワイトがああいう言い方で誘ってくるときは、経験上『いいもの』が出てくる。気が遠くなるほど昔の出来事だというのに、心のどこかに刻まれているのか思い出されるのだ。あんな表情で誘われてついていくと、自分の好物やとっておきのものを口にできたことを。
     口にするもの―飲食物が自分の中の重要なところにかかっていることは自覚しているので、無理矢理引っ張り出されたもののそこまで嫌というわけではなかったし、食堂付近までやってきたところで漂ってきた香りには、不覚ながら期待してしまった。
     
     促されてフィガロとふたりで席につくと、スノウとホワイトは揃って厨房へ入っていき程なくして戻ってきた。どちらもトレイに皿をのせている、それを見てオズはフィガロと目配せしあった。彼ももう何が出てくるのか分かっているようだった。
     席まで戻ってきた双子たちは、トレイにのせてきた皿を気取った仕草でテーブルの上に置いた。見慣れた皿に、ふたりにとっては懐かしいスープが盛られている。淡くやわらかい黄色のスープ―思った通りだった。
     
    「ああ、栗のスープだ。懐かしい。おふたりの手料理のなかでは、かなり好きな方ですね。でもどうして急に?」
    「ちょっと思いついて南の方の山に栗をとりに行ってきたのじゃ」
     
     ちょっと思いついてとりに行くものではないような気がするが、彼らの考えていることのなかのいくつが果たして理解の及ぶものだろう。オズは細かいことを考えるのをやめた。そういったことはきっと、気になればフィガロが訊くだろうから任せておけばいいのだ。
     
    「ちょっと思いついて行くところじゃないですよ。そんなに食べたかったんですか?」
    「そなたらに食べさせたかったのじゃ」
    「え?」
    「ほら、最近……というかもうずっと手料理食べさせてなかったし。たまには世話焼きたくなってしまってのう」
    「それに、我らまだ自分の手でちゃんと料理できる? って思ったら心配になっちゃって……」
    「何が……」
     
     任せておこうと思ったそばから口を出さずにいられなかったが、スノウもホワイトもきゃあきゃあ言っていて答えは曖昧に濁している。きっと些末なことなのだろう。そう結論付けて、オズは遠い昔の自分がそうしていたように両手を組んで「いただきます」と静かに言った。
     
     時は流れていろんなことがあった後だと、あのころのことは概ねままごとのような、スノウとホワイトの自己満足であったように感じる。けれども、その自己満足のなかには四人で作った歪な原型があるのだ。歪で、後味の悪い。それでもどうしてか捨てられない。でも、それで構わなかった。それも、自分を構成するものである。それを認めているのだ。
     
    「若い魔法使いと関わるようになって、世話したい欲は満たせているんじゃないんですか?」
    「そなた分かっておらんな。誰でもいいっていうわけじゃないの!」
    「えー……。気に入ったおもちゃを手放さない子どもじゃあるまいし。なあオズ」
    「知らん。食事の邪魔をするな」
    「そうそう。そなたも人聞きの悪いことばっかり言っておらんと、冷めないうちに召し上がれ」
     
     スープの味は変わらない。魔法でおおよそのことができるというのに、わざわざ彼らが手ずから作っていたあのころのそれと同じ味だ。こっくりと甘く、ほっくりとあたたかい。
     
     
     
    <おわり>
     
     
     
     
     
     以下
     今回の
     隠しテーマ
     と雑談
     
     
     
     
     
     
     
     最近少しはまっていることに、星読みからキャラの解釈に対するアプローチをすることというのがありまして、それを今回はオズ(我々の世界での牡牛座)でしてみました。
     ものすごくざっくりと書くと『飯が不味いのと即レス要求が地雷』らしいんですが、つまり美味しいご飯と自分のペースがすごい大事ってことで
     そこから昔のオズを想像してみたら、なんかかわいくてですね
     ごはんが不味いとやる気や調子を下げる子オズとか……
     好物食べさせてもらって、分かりにくいけどテンションとやる気をあげる子オズとか……
     返事ゆっくりでいいよって言われて本当にゆっくりずっと考えてる子オズ……他にも考えましたが割愛します
     
     あと、今回の話は以前書いた【焼き鮭◎、オムレツ×】の系列の話です。食卓シリーズというか。弟子二人の好きなもの嫌いなものがまあまあ一致してて可愛いなっていう話なんですが、オズってあの四人のなかだとちょっと好きなものがどちらかというとわんぱく傾向でかわいいですよね。……ではなくて、どこかのエピかなにかで栗が複数回出てきてた気がして今回は栗のスープになりました。
     私は北師弟に大変強い幻覚をみているので、この栗のスープもオズはアーサーに作ってあげようとしたけど、栗以外に何が使われてるのか知らなくて、味うっす……みたいなのが出来上がってしまい……。まずフィガロ呼んで味見させて聞いてみたけど「うわっ不味っでも俺も分からないから直接スノウ様とホワイト様に聞けよ」って言われて双子に聞きに行ったまで頭のなかでストーリーができてます。かわいい。
     フィガロは双子の作るものはどれもほどほど、嫌いなものは嫌いで、でも好きなものは大好きっていうのがないのかな……嫌いじゃないですよ(まあ好き)くらいだと私はにっこりですが、でも好きとは言えないけど好きだなって思ってたりしててもいいですよね。
     
     あと、書き始めにタイトルが決まってなかったときの仮題が【栗くりマロン】でした。そのままでもよかったかもしれないけどさすがに……と思って、オズ主体ということで以前書いた話から連作みたいな感じのタイトルになりました。
     あとはなんだろう、栗とりに行った山で熊に遭遇してスノウがタイマンはって倒したとかも書きたかったけど終わらなくなるので割愛しました。無念。というのと、タイトルに『愛』って書いたけど本文には書かなかったことは自分なりのこだわりです。
     
     以上です。こんなところまで読んでくださってありがとうございました。北師弟はいいぞ
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    Replies from the creator

    nayutanl

    DONE月花Webオンリー展示
    年長者と強絆のゆるめの話です。
    アーサーの疑問から始まる四人のあれやこれやです。アーサーが外見年齢12~13歳くらいのイメージ。自分が絵で見たい話を書いた形かも。
    公式にない設定が一部ありますが、雰囲気でふんわり読んでください。書いた本人も雰囲気で押し切りました。
    9/9追記:追録書きました(https://poipiku.com/3138344/7470500.html)
    和やかな城 ある日の桜雲街、竜の住まう城の一室で青い目をした天狗の子どもが尋ねた。
     
    「スノウ様、ホワイト様。おふたりは大人なのにどうしてこのようなお姿なのですか?」
     
     この城でそのようなことを尋ねるのはこの子―アーサーだけであろう。スノウとホワイトは一度顔を見合わせてからふたりしてにっこり笑った。
     もう随分長く生きている彼らはこの城の主である。今でこそオズに譲るが強い力をもち、気が遠くなるほど昔からずっと竜族の頂点に君臨している。ここ近年は「早く隠居したい」が口癖で、どうにかオズかフィガロを後継者にしようとしているものの、ふたりにその意志はなく聞き流されてばかりだった。そんなものだから、このところはオズが助けて以来この城にホームステイしているアーサーが後継者になってくれたら……とオズに牽制をかけているが、本気ではないと思われているようである。とはいえ、アーサーが後継者に向いているという直感と竜の住まう城の主が天狗でよいかどうか、そしてアーサーの実家である天狗の一族の事情はそれぞれ別の問題なので、スノウもホワイトも食い下がったり押し付けようとしたりといったことはしない。ただ、隙さえあれば隠居したいと思っているだけで。
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    nayutanl

    DONE紫陽花見ながら話してるホワイトとフィガロの話
    ホワイトから見たスノウとフィガロのこととか、フィガロから見たホワイトのこととか
    ほんの少し生きた心地がしないけど、気のせいかと思うくらいのあったかさはある つもり
    あと、文末に話に関するちょっとしたことが書いてあります。
    ハイドランジアの幽霊師匠と植物園を散策―などといえば聞こえはいいが、実のところは連れ回しの刑である。フィガロは曇り空のもと美しく物憂げな色彩の花を咲かせるハイドランジアに目をやりながらこっそりとため息をついた。
    ホワイトがやってきて「ハイドランジアの花が見頃だから出掛けよう」と誘われたのだが、あまり良い予感がしなかったので一度は断ったのだ。断ったのだが、今回の誘いはこちらに選択権がないものだったらしい。有無を言わさず連れてこられてこのとおりである。

    「そなたら、また喧嘩したじゃろう」
    「喧嘩とはいえませんよ、あんなの」

    少し先をいっていたホワイトが戻ってきて、ごく自然に手を繋いできた。こんなことをしなくても今さら逃走なんてしないのにと思ったが、これは心配性なのではなくて物理的な束縛だ。都合の悪い話をするつもりなのであろうことは断った後の出方で何となく察していたが、切り出されるとやはり身構えてしまう。いいことでも悪いことでも、心に叩き込むようなやり方はホワイトの得意とするところなので、分かっていてもわずかに寒気がした。
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