バースデーナイトパーティの名残をまとわりつかせたまま自室に戻って、ふたりでベッドに倒れこんだ。夜通し騒いでみたいという願いはさすがに叶わなかったが、それでも多忙な毎日のことを思えば存分に楽しみ、羽目もはずしたように思う。
時計の針はじきに天井をさして日付が変わる。今日という日が終わろうとするのをふたりでぼんやりと見ていたが、その心の内にはそれぞれ違ったものを抱いていた。
「カイン、そちらを向いてもいいか」
「まだ駄目だ」
「……どうして?」
アーサーは、カインに後ろから抱き込まれたまま尋ねた。やっとふたりになれたから、うっすらとその気でいたのに。不服というわけではないけれども、なにか思うことがあるのなら聞いてみたかった。それに、駄目だと言うにしてはその声はあまりにも優しく、甘い。抱きしめる腕の力も、眠たくなるほどやわらかい。
「まだ誕生日だから」
ややあって、カインが答える。寝入り端にも似た声が紡いだ言葉をなぞりながら、アーサーはその意味について考える。『まだ』。すぐに訊き返したくなってしまうが、そんなことをせずとも、カインは話してくれる。そういう性質だと信じて促すように腕や手を撫でたり握ったりしていると、耳元で吐息がほどけた。
「今日のあんたは、たくさんのものを抱いてる。だから……まだ待ってる」
二回目の『まだ』を聞いて腑に落ちて思わず振り向こうとしたアーサーだったが、耐えてカインの腕を両手で握りしめた。カインがこう言っているのに、自分がその思いを尊重しないでどうする。疾りだしそうな衝動を押し止めようとして指先に覚えず力がこもる。
「……っていうのと、背中を許されてるんだって噛み締めてたいんだ。あんたの誕生日なのに、おかしいよな」
「いいんだ。おまえのその思いを、私もいましばらく噛み締めるよ。誕生日とは、周囲の人間に感謝する日でもあるのだから……まだ誕生日なら、今日の終わりに私のことを思ってくれたおまえに感謝したい」
あの時計の針が12を指すまでは、今日のこと、いままでのことを振り返り見つめて、抱いていよう。今日自分が受け取ったたくさんのものを大切に思ってくれたカインの気持ちごと抱きしめながら―。アーサーは満ちみたりて、それでいて惜しむような表情で目を伏せた。