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    nayutanl

    @nayutanl

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    nayutanl

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    パラロイのフィガスノ
    前回(https://poipiku.com/3138344/6911602.html)の続きらしい話で、こちらはスノ→フィの気持ちの話です。
    書きたかったのはフィガロが寝てからスリープモードに入ることにしてるスノウだったんですが、フィガロのお世話したり色々になりました。

    寝ても覚めてもスリープモードは負担がかかるというのは、完全に眠っているのではなくてうたた寝程度の状態だからである。
    人間でいえば、うつらうつらとしている状態のことだ―とファウストが言っていたのを思い出しながら、スノウは椅子の上で寝かけているフィガロをつついた。
    とっくに退勤していまは自宅だが、忙しいフィガロは家でもラボにいるときと大して変わらないことをしている。かろうじて、食事と入浴は済ませて人間的生活は保ったにしても、いただけない。

    「うわっ……なんですか、ちょっと」
    「我にシャットダウンを迫る前に、自分がちゃんと寝てみせて欲しいのう」
    「……この間のこと、根にもってるんですか」
    「別に?」

    フィガロが言っていたことは理解しているし、あの日はフィガロの手によって何事もなく目覚めて、おはようからおやすみまでスケジュール通りの一日を過ごした。不安に思っていたことなど、なにも起こらなかったのだ。
    シャットダウンしたらそれきりかもしれないとか、目覚めたとき自分が自分でなくなっているかもしれないとか、そんなことは一切なく、疑いようないほど自分は自分だった。
    けれども、それとこれとは話が違う。スノウは、目をしょぼつかせながらも笑みを浮かべているフィガロを呆れたまなざしで見た。

    「覚えておれと言ったじゃろう」
    「いまから仕返しされるのは嫌だな……」
    「我、そんな性悪じゃありませーん」
    「え……?」
    「えっ?」
    「いえ、何でも?」

    フィガロの声なら聞き漏らすはずがないし、フィガロもまたそれくらいのことは知っているので、聞き返すということに意味らしい意味はない。会話のなかでの遊び。その程度のことである。
    しかし、涼しい顔でそんなことができるのもアシストロイド相手に限られる。人間相手でもできないことはないのだが、メンタルの消耗が激しくなるので直後のパフォーマンスが著しく低下するのだ。そのケアやフォローをするのが彼のアシストロイドたる自分と、ホワイトの役目だった。いまも、そしてこれからもそれは変わらない。
    変わっていくのは役目ではなく、心と関係だ。スノウはフィガロの真似をした微苦笑を浮かべてみせる。

    「そなたはいいのう。寝ても覚めてもそなたはそなたじゃ」
    「あなただって、寝ても覚めてもあなたでしょ」
    「それは分からぬぞ。目覚めたら違う我になっておるかもしれぬ」
    「ありえませんよ。それは……俺があなたの基礎の部分をどうこうしたり、メモリーを飛ばしたりデータを壊したりしない限り」

    ―もし自分が人であったなら、自分の自我や意識に不安や疑いをもたずに済んだだろうか
    そう考えることはしばしばあるが、いまのところ毎回僅差で『現状が最適解』という答えに落ち着いている。その『現状』さえいつ何がきっかけで変わってしまうか分からないけれども、人間同士ではこうして向き合うことはおろか、出会うことすらないかもしれないのだ。出会ったところで関係が構築できるとも限らない。そう思えば、自我に対する不安が多少あろうともどうということはない。……かもしれない。わからないのだ。わからないことは考えても仕方がない。スノウは思考の展開を止めてまたフィガロをつつきだした。

    「とにかく、そなたが寝ないなら我も寝るつもりはないからの」
    「そういうプログラムにしてありますしね」
    「なにその言い方~可愛くなーい」
    「いい歳の人間に可愛さなんて期待しないでくださいよ」
    「でも可愛げって必要じゃろ。人間もアシストロイドも」

    可愛さと可愛げは違うのだが、いまのフィガロに説明しても同じことだと言うだけだろう。スノウは両手をフィガロの頭にやって「むむっ」と険しい顔をした。

    「眠いときの脳波じゃ。というかほとんど寝ておる。寝ろ寝ろ」
    「うわ~すごい。俺のアシストロイドは脳波までとれちゃう」
    「痛み入りますぅ。作ったひとが天才なんですぅ」

    自分のすべては、フィガロの手によってなるべくしてなっている。プログラム、機能、ボディに容姿、何から何まで―。フィガロによって作られた、彼だけのアシストロイド。それでいいのだ。たとえ人でなくとも、本当のぬくもりをもっていなくとも、彼の最高の『理解者』でいることはできるのだから。
    スノウはフィガロに寝支度をさせると、寝室へと追い立ててさっさとベッドの中に入れてしまった。自発的に動くのを待っていたら早朝のニュースが始まってしまうからである。

    「ありがとうございます。風呂と寝る準備って本当面倒で……」
    「人間は大変じゃな。今日もよく頑張りました」

    生きにくい世界を、生きにくいなりに生きるフィガロの前髪を額からそっとよけるように撫でてやりながら、スノウは微笑む。気休めのような言葉でも、寝入り端なら嬉しいのだろうか。フィガロは安心したように瞼をおろすとすぐに規則正しい寝息をたて始めたので、スノウはそれをしばらく見守った後上掛けをそっと持ち上げると自分の体をフィガロの隣に横たえた。
    スリープモードに切り替えるならクレイドルに入ってもいいのだが、今夜はそういう気分ではなかったのだ。それに、隣で休んでいればフィガロになにかあったときもすぐに対応できる。理由はこれで充分だ。

    「……おやすみ」

    そう口にすれば、応えるように胸が発光し始めたので慌ててフィガロに背を向けたが、光がもれないよう手をやるスノウの表情は穏やかでどこか楽しげだった。





    <おわり>
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    Replies from the creator

    nayutanl

    DONE月花Webオンリー展示
    年長者と強絆のゆるめの話です。
    アーサーの疑問から始まる四人のあれやこれやです。アーサーが外見年齢12~13歳くらいのイメージ。自分が絵で見たい話を書いた形かも。
    公式にない設定が一部ありますが、雰囲気でふんわり読んでください。書いた本人も雰囲気で押し切りました。
    9/9追記:追録書きました(https://poipiku.com/3138344/7470500.html)
    和やかな城 ある日の桜雲街、竜の住まう城の一室で青い目をした天狗の子どもが尋ねた。
     
    「スノウ様、ホワイト様。おふたりは大人なのにどうしてこのようなお姿なのですか?」
     
     この城でそのようなことを尋ねるのはこの子―アーサーだけであろう。スノウとホワイトは一度顔を見合わせてからふたりしてにっこり笑った。
     もう随分長く生きている彼らはこの城の主である。今でこそオズに譲るが強い力をもち、気が遠くなるほど昔からずっと竜族の頂点に君臨している。ここ近年は「早く隠居したい」が口癖で、どうにかオズかフィガロを後継者にしようとしているものの、ふたりにその意志はなく聞き流されてばかりだった。そんなものだから、このところはオズが助けて以来この城にホームステイしているアーサーが後継者になってくれたら……とオズに牽制をかけているが、本気ではないと思われているようである。とはいえ、アーサーが後継者に向いているという直感と竜の住まう城の主が天狗でよいかどうか、そしてアーサーの実家である天狗の一族の事情はそれぞれ別の問題なので、スノウもホワイトも食い下がったり押し付けようとしたりといったことはしない。ただ、隙さえあれば隠居したいと思っているだけで。
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    nayutanl

    DONE紫陽花見ながら話してるホワイトとフィガロの話
    ホワイトから見たスノウとフィガロのこととか、フィガロから見たホワイトのこととか
    ほんの少し生きた心地がしないけど、気のせいかと思うくらいのあったかさはある つもり
    あと、文末に話に関するちょっとしたことが書いてあります。
    ハイドランジアの幽霊師匠と植物園を散策―などといえば聞こえはいいが、実のところは連れ回しの刑である。フィガロは曇り空のもと美しく物憂げな色彩の花を咲かせるハイドランジアに目をやりながらこっそりとため息をついた。
    ホワイトがやってきて「ハイドランジアの花が見頃だから出掛けよう」と誘われたのだが、あまり良い予感がしなかったので一度は断ったのだ。断ったのだが、今回の誘いはこちらに選択権がないものだったらしい。有無を言わさず連れてこられてこのとおりである。

    「そなたら、また喧嘩したじゃろう」
    「喧嘩とはいえませんよ、あんなの」

    少し先をいっていたホワイトが戻ってきて、ごく自然に手を繋いできた。こんなことをしなくても今さら逃走なんてしないのにと思ったが、これは心配性なのではなくて物理的な束縛だ。都合の悪い話をするつもりなのであろうことは断った後の出方で何となく察していたが、切り出されるとやはり身構えてしまう。いいことでも悪いことでも、心に叩き込むようなやり方はホワイトの得意とするところなので、分かっていてもわずかに寒気がした。
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