ジョジョと結晶の王国【仮】 昔、スティヴァーリ王国に、ナープラというそれは美しい街がありました。火を噴く雄々しい山に見守られる青い港の美しさといったら世界に並ぶものがないほどですし、海の幸にも山の幸にも恵まれた美食の街でもありました。うんと昔から栄えてきた街でもありますから、それはそれは大きくて立派な美術館もあれば、百年かかっても読みきれないくらい、たくさんの本を納める図書館だってあります。そして、みごとな彫刻で飾られた壮大な神殿といったら! スティヴァーリ中の名うての彫刻家たちによって何百年もかけて彫られた彫刻は、大きいものと小さいものをあわせて何千体もあります。目が百個ある大鬼だって、その全ての彫刻を一度にすっかりみてしまう事はできないでしょう! そんな素晴らしい宝物の数々が、ナープラの街ひとつにすっかりおさまっているのです。まるで、街そのものが宝箱のようでした。
そのため、ナープラには王国中から大勢の観光客が訪れます。ナープラを訪れた人々はみんな口々に言うのでした――
「ナープラの街は、人生の価値そのものだ!」
「ナープラの景色を見たかどうかで、その人の人生の価値が決まる!」
それほど素晴らしい街だということは、みなさんももうおわかりでしょうね。ナープラの人々は、自分の街を誇らしく思っていました。
そんな美しきナープラで生まれ育った十五歳の少年、ジョジョも街を愛する一人でした。ジョジョの本当の名前はジョルジョーネというのですが、みんなからジョジョ、ジョジョ、と呼ばれています。ですから、このお話でもジョジョと呼ぶことにしましょう。
ジョジョは光り輝くような美しい若者でした。髪は朝日の輝きを束ねたような見事な金色ですし、ぱっちりと開いた目は朝露に濡れた若葉のような瑞々しい緑色をしています。その目にはいつも、夜の一番輝く星を映したような明るい光が宿っています。顔は風牡丹の精のように甘やかで、体は芸術神の彫刻像のようでした。彼を知る乙女は皆彼に憧れたものですが、誰一人彼に愛を告白しようとはしませんでした。なぜって、一人でいることが好きな彼に付き纏って、嫌われたくありませんからね。
さて、ジョジョにはある秘密の力があるのですが、それについてはあとでまたお話しするとして、美しきナープラの街にお話を戻しましょう。光があれば影があるように、美しいものは美しい『だけ』ではないものです。かならず、掃き溜めや淀みが生まれるものであります。この美しきナープラも例外ではありません。
ナープラは宝箱のような街ですが、そこに住む人々のなかには貧しい人も多くいました。家を持たず、路上で眠るしかない人々や、まっとうな仕事に就けなくて、犯罪まがいのことをしてやっと暮らす人々もいました。役人の中にさえ、エコ贔屓をしたり、賄賂を受け取る者がいます。もともとお金を持っている人ばかりがますます豊かになっていき、貧しい人々の暮らしはちっともよくなりません。人々の心はどんどんすさんでいき、口には出さずとも、みんなこう思うようになりました――
「どうせ、真面目に頑張ったって豊かにはなれないんだ」
「むしろ、真面目で正しい者は損をするんだ」
そんな行き詰まりのような重い『ほこり』が宝箱の底に溜まっているのです。
その上悪いことに、この数年、ナープラの街に奇妙な病が広がっていました。この病というのは、主に若者がかかり、人が変わったように凶暴になったり、逆に無気力になったりします。しかも、その病は学校に通うこどもたちにも広まりつつありました。
大切な子供達や、未来を担う若者たちがみんな病にかかってしまったら、ナープラの街はいよいよどうなってしまうのでしょう? 美しさも、豊かさも、きっと消えてしまうでしょう。街に溢れる笑顔も、未来も、失われるに違いありません。
ジョジョは危機感を覚えていました。ジョジョはこの街を愛していましたので、いつか偉くなって――たとえ『正しくない』やり方であろうとも――この街を守る存在になりたいと思っていました。そんな彼の日課は、学校や仕事の合間に街を見回ることでした。
そんなある日、彼は気づきました――病を引き起こすのは、薬であることに! そして、ああ、なんと言うことでしょう――薬を密かに売っているのは、スティヴァーリ王の役人だったのです!
ジョジョは注意深く、薬を買った若者のあとをつけて、観察することにしました。若者はキョロキョロと辺りを見回すと、隠れるようにして薬を飲みます。すると若者はとても楽しそうに、いえ、幸せそうな笑顔を浮かべました。まるで春祭りの王様に選ばれたかのように。ですが、少しして異変が現れました。恐ろしい顔つきになって、ぶるぶると震え出したのです。寒いのでしょうか? いいえ! 街にはすでに暖かい春風が吹いています。寒いはずがありません。そのうち若者は唸り声をあげ、涎をたらしながら、けだもののように暴れ始めました。
ジョジョはみんなに知らせないといけないと思いました。しかし、街のみんなは王様を信じていますし、王様の役人のことも、自分たちを守ってくれる存在だと思っています。一体、誰がジョジョの言葉を信じるでしょうか? むやみに言いふらせばかえってジョジョの身が危なくなってしまいます。ジョジョは自分に力がないことを悔しく思っていました。
ですが一方で、ジョジョは大変大胆なところもある少年なので、こうも考えていました。
「力がないのなら、つければいい。そして僕がのしあがって王様になれば、きっと僕の故郷は本当の輝きを取り戻すぞ!」
それは途方もない夢です。だって、ジョジョが王様になるという事は、今の王様を蹴落とすということなのですから。けれど、その夢は人魚の守る黄金よりもなお輝かしく、いつしか少年の胸の中で大きくなっていったのです。
天気のとっても良い日でした。ニポネという国からやってきた観光客の荷物を売っぱらう『仕事』を終えて、お昼を過ぎた頃、ふいにジョジョは声をかけられます。振り返ってみれば、王様の役人でした。しかも、この前、若者に薬を売っていた男だったのです。
「君、何か悩み事はないかい? 勉強や、仕事で疲れていないかい? 疲れが取れて頭もスッキリする、最新の薬が王様から下賜されたんだ。街の年寄りが売ってる薬草なんかとは、比べ物にならないね。君にもわけてあげようと思うんだ」
それはまさに悪魔の誘いでした。薬を買ってしまった若者は、みんなこの甘い言葉に乗ってしまったに違いありません。
「いりません。僕は、そんな薬には頼りません。そんな薬に頼って成功しても、僕は虚しくなるだけですから。無駄な誘いです」
ジョジョはきっぱりと断りました。
すると役人は怒り出しました。そして、手に持っていた鋭いツルハシを振り上げます。役人の目は以前見た若者と同じように狂っていました。そう、この役人も、あの薬を飲んでおかしくなっているのです。
「なんだと。王様の新薬を『そんな薬』と言ったな! 不敬だ、死刑だ!」
ジョジョは持ち前の身のこなしでひらりとツルハシを避けました。薬のせいで足元がおぼつかない役人は勢い余ってスッ転んでしまい、そのはずみで額にツルハシの先端が突き刺さってしまいました。役人は陸に放り出された魚のようにビクリと大きく体を震わせると、そのまま、永遠に動かなくなりました。
――まずいことになりました。王様の役人を殺すと縛り首です。ジョジョが殺したわけではなく不幸な事故、もっといえば自業自得の結末ですが、事故だという明確な証拠はありません。それに、たとえ事故だと認められても、何年も牢屋にいれられるかもしれません。ジョジョはあたりを見回します。周囲はひっそりして、誰もいません。彼はそのままそうっと立ち去りました。
ジョジョが立ち去ってから十分後、額を真っ二つに割った死体を見た気の毒な通行人の悲鳴が、街にこだましました。
こんな大事件の後も、ジョジョはいつもと同じように、街を見回ります。肝の据わった少年なので取り乱したり、恐怖を感じることはありませんでした。ただ、ジョジョはどこかでわかっていました。「始まってしまった」のだと。あの役人の死によって自分の運命が大きく動き始めたのを、確かに感じていました。
ジョジョはケーブルカーに乗り、街の高台に向かいました。ケーブルカーはぐんぐんと力一杯坂道を登ります。ジョジョが窓の景色を見ていると、窓ガラスに見知らぬ人が映りました。車内は空いているのに、その人はわざわざジョジョの真向かいに座ります。
その人はすらりとした長身で、艶やかな黒髪を顎の長さで切りそろえ、涼やかな目鼻をした二十歳くらいの青年でした。誰が見ても一目で彼のことを好きになるような、海風のように爽やかな空気をまとった青年です。ですが、ジョジョはその青年のことを怪しむように、こう言いました。
「あなたは誰です?」
「おれはブルーノだ。王の役人でね。同じ役人のリュッカが額をツルハシで割られて死んでいるのが発見されて、そのことを調べているんだ。現場の近くを、ジョジョ、君が歩いているのを見かけた人がいてね。君、リュッカに会わなかったかい? 何か声や物音を聞かなかったかな?」
「リュッカさんですか」ジョジョは気のない様子で言いました。「いえ、会っていません。声や物音も、気になるようなものは聞いていません。それより、ええと、現場ってどの辺りですか?」
ジョジョは迷いなく何も知らないかのように答えました。
ブルーノという青年は、ジョジョの手首を掴むと、まつ毛が触れそうなほど顔を近づけてジョジョを見つめます。ジョジョは平然と、ブルーノの海のように青い目を見つめ返しました。
しばらくして、ブルーノはニッコリと笑いました。
「やあ、君は、嘘を言ってないようだね。嘘をつくと、脈が速くなったり、瞳孔が大きくなったり、汗をかいて顔がてかったりするものさ。俺は汗の味を確かめれば確実にウソかどうかわかるけどね。けど、君の顔はちっとも変化しなかった。君を信じよう。突然話しかけて悪かったね」
「いえ。お仕事ご苦労様です。リュッカさんはお気の毒なことでした」
ケーブルカーが次の駅に止まると、客車のドアが開きました。さっそうと下車して行くブルーノの背中を、ジョジョは目で追っていました。
その時、握った手の中に何かぬるりとしたものがあるのを感じました。手を開いてみると、それは、人間の目玉だったのです!
流石のジョジョもこれには驚いて、窓の方にのけぞりながら目玉を振り払うと、まだ弾力を持った目玉が、ゴム玉のような鈍い音を立てて小さく跳ねました。そして窓の外では、いつのまにかブルーノが、鼻息がかかるくらいの至近距離でジョジョを睨みつけていました。
「リュッカの目玉だ。どうせ死んでいるから、持ってきたんだよ」
ブルーノはお腹の底が冷えるような恐ろしい声音で言いました。
ジョジョのこめかみから、一筋冷たい汗がくだりました。いったい全体、どうやってリュッカの目玉をジョジョの握りこぶしに入れたのでしょうか?
「汗をかいたね」と、ブルーノは言いました。
そして、なんとブルーノはジョジョの汗が伝ったほっぺたをべろりと舐めたのです!
「この味は、嘘をついている味だぜ! なぜ嘘をついたのか、教えてもらわなくっちゃあならなくなったぞ!」
ブルーノはそう叫んで、再びケーブルカーに乗り込んだかと思うと、拳でジョジョの頬を殴りつけました。すると、不思議なことに口の中に何か鉄臭い生のソーセージのようなものが急に湧いてきたのです。ジョジョはたまらず吐き出すと、それは本物の人の指でした。
「さあ、答えろよ。質問は既に拷問に変わってるんだぜ」
ジョジョは恐ろしさを感じるよりも、ブルーノがどうやって目玉を握りこぶしに入れたり、指を口の中に入れたりできたのかと考えていました。恐らく、何か秘密の力を持っているのでしょう。ジョジョと同じように――。
「汗の味でウソを見分ける以外にも、俺はこんな特技があるんだ。なんだってお前の口に入れられる。あの消火器だろうとね」
ブルーノはケーブルカーに備え付けられた消火器を見て得意げに言いました。ワインボトルよりもずっと大きい消火器を口の中に入れられたら、きっと顎がちぎれて死んでしまうでしょう。ふいに、ジョジョの頬からチキチキと小さな金属がふれあう音が聞こえてきました。そして、ブルーノはもう一度ジョルジョの首の辺りを殴りつけます。またチキチキと音がして、首から骨が抜けてしまったように頭がガクガクと揺れ始めました。しかし頭がガクガクになったおかげで、ジョジョはブルーノの秘密の力の正体を知ることが出来ました。ジョジョの首から肩にかけて、ジッパーがぽっかりと口を開けているのが見えたのです。
ブルーノの秘密の力とは、「触ったものにジッパーを取り付けること」でした。こっそりジッパーを取り付けて、目玉や指を入れていたのです。
さて、ブルーノの秘密の力がわかったのはいいのですが、ジョジョとしては悠長にしていられません。ジョジョも自分の秘密の力を使うことにしました。
さっき、ジョジョには秘密の力があると言いましたね。いつからか、ジョジョは金色の精霊をまるで自分の手足のように操ることができるようになっていました。精霊は人間と同じような体つきですが、姿そのものは人間離れしています。何しろ全身が金色なわけですから。頭はみぞの入ったヘルメットのようですし、胸や手の甲にはてんとう虫の飾りがくっついています。ジョジョはこの精霊を「ゴールド・エクスペリエンス」と名付けました。
ジョジョはゴールド・エクスペリエンスを呼び出しました。ブルーノは一瞬、あっけにとられます。ジョジョに自分と同じような精霊がいるだなんてこれっぽっちも思っていませんでしたから。ですがブルーノがギリギリのところで身をかわしたので、ゴールド・エクスペリエンスの拳は近くの椅子に当たりました。
「お前にも精霊がいるのか。じゃあ、やっぱりリュッカを殺したのはお前なんだな? なぜそんなことをした?」
「『事故』だったと言っても、信じてくれないんでしょう。それで今から僕を始末しようってわけですね。でも、人を始末しようとするってことは、逆に自分が返り討ちにされるかもしれないって危険を覚悟しているんですよね?」
ジョジョの十五歳とは思えない冷徹な言葉に、ブルーノは気圧されます。嘘でも、苦し紛れにでた言葉でもなんでもありません。嘘を見抜くのが得意なブルーノにはそれがわかるのです。役人相手でも、きっとやりきるというスゴ味がジョジョにはありました。
「お前の拳の間合いもパンチの速さも、こっちはもうわかってるんだ。お前は、ジッパーでバラバラになった後のことを心配するんだな」
その時、ブルーノの足に何かが絡まりました。手首にもです。それは、つるでした。藤の枝のようなものがしっかりと手足に巻き付いています。
「な、なんだ、これは?」
ブルーノはあたりを見回します。ケーブルカーの中で、どうして木に巻き付かれるのか、不思議でなりませんでした。ブルーノは木が生えているのがさっきゴールド・エクスペリエンスの拳があたった椅子のあたりだということに気がつきました。椅子が、木に変化しているのです。
ゴールド・エクスペリエンスは、手で触れたものに生命を与えることが出来ます。といっても、小石に足が生えて動き回るわけではありません。小石をネズミにしたり、一輪の花にすることができるのです。そして、ある程度、その産まれた生物に命令をすることができるのです。
さっきは拳が当たらなかったのではなく、ブルーノに当てる振りをして、本当ははじめから椅子を狙っていたのです。
「スティッキィ・フィンガーズ!」
ブルーノが叫ぶと、夏空のような青と白の精霊が現れました。そして、つるにジッパーを取り付け、開いてブルーノを脱出させます。そしてケーブルカーの壁にジッパーをつけ、まるでカーテンをくぐるようにするりと車体を通り抜け外に出ました。
「まずい、ブルーノに逃げられるわけにはいかないぞ」
もし、ブルーノを見失ったらこれから毎日、一日中王の役人からの報復に警戒しなければならなくなります。命の保証などあったもんじゃありません。ジョジョはケーブルカーの窓から飛び出しブルーノを追いかけようとします。ですが、このあたりは路地が入り組んでいて、ブルーノの姿はもう見えません。
ですが、ジョジョにはまだ奥の手があります。さっきブルーノがつるから脱出したときに、引っかけてちぎれたボタンを拾っておいたのでした。ジョジョはボタンに命を与え、白い蝶々に変えました。蝶々はヒラヒラと飛んでゆきます。もとはブルーノの服の一部だったため、元の場所に戻ろうとしているのです。ジョジョは蝶々を追いかけます。そして、曲がりくねった路地の先に、ブルーノはいました。ですが、うずくまっていて様子が変です。ジョジョは足音をたてず、気配を消して、そっと近づきました。
「あっ!」
ブルーノが気づいたときには、ジョジョはすぐそばにいました。身を守ろうにも、もう間に合わないでしょう。自分の命を絶つ痛みを覚悟して、ブルーノは歯を食いしばりました。
ですが、ジョジョはこの絶好の機会に、ブルーノをやっつけようとはしませんでした。なぜなら、ブルーノの影には小さな子供が倒れていたからです。口から泡を吹いて、手足は傷だらけです。顔はほてっていて、息苦しそうに胸を大きく上下させていました。ブルーノはその子供を介抱していたのでした。
ジョジョは地面に手をつくと、そこから木を作ってやりました。子供の身体を涼しい木陰が覆ったので、ちょっぴり苦しさが紛れた様子です。
「なぜだ? どうして俺をやっつけないんだ?」ブルーノはききました。
「あなたはいい人だからです。途中で見つけたこの子供を、どうしても放っておけなかったんでしょう?」
ジョジョは子供の手を見ました。手の中には、小さな四角い紙がくしゃくしゃになっています。薬の包み紙のようでした。
「この紙、リュッカさんが僕にくれようとした薬の包み紙と同じ紙です。王が密かに広めている薬のね。この薬こそ、この街に広がる奇妙な病気の正体です。この子は、この薬で中毒症状を起こし、そこの石段を転んで怪我をしたのでしょう」
「この薬の秘密を知っていたのか!」
ブルーノは信じられないといった様子で叫びました。街に広がる病の正体を知る者はほんの一握りの役人です。ブルーノだって、薬の売買は任されていないので、本来なら知らないはずなのです。では、なぜブルーノが薬のことを知っているのか、それはあとでお話することにいたしましょう。
ジョジョは注意深く、ブルーノのことを観察していました。ブルーノは唇を赤黒くなるほど噛みしめ、青い目は、怒りでいっそう青白くなっていました。けれど、その怒りはジョジョに対するものではありませんでした。ジョジョは、ブルーノに手を差し伸べるように口を開きます。
「あなたは王の役人でありながら、王が広めようとしているこの薬を許すことができない。こんな薬、存在してはいけないと思っている。あなたはこの街と人々を愛しているから。でも、王の役人として、あなたは何もできない。そのことに、あなたは苦しんでいるのではありませんか?」
「だからって、それとリュッカが殺されたことは話が別だ。お前を殺さなくてはいけないことに、変わりは無いんだぞ」ブルーノは声を張り上げました。
「いいえ。あなたが僕を殺すことはありません。なぜって、あなたは僕の仲間になるからです」
ブルーノは目を丸くして、
「なんだって?」と、ききました。
「僕は王様を倒して、この街を救うつもりです。薬を消し去るためには、役人として入り込み、出世して今の王様を蹴落とすしかありません」
大胆なジョジョの言葉に、ブルーノはぎょっとした顔で息をのみました。そしてジョジョに顔を寄せて、声を低くして言いました。
「気は確かか? そんな考えが知れれば、たちまち殺されてしまうぞ。そうなったら、誰もお前を助けられない」
「覚悟の上です。でも、僕はやり遂げます。この街と、この国を救います」
ブルーノはジョジョの目を見ます。ジョジョの目はまっすぐ前だけを見つめているようでした。そしてその目の中に、黄金色の太陽のように、すべてを照らすようなまばゆい光が宿っているのを見ました。ブルーノはすでに、ジョジョのことをすっかり気に入っていましたので、
「いいだろう。リュッカのことは事故として処理しておく。いいや、本当に事故だったのだろう?」と言いました。
「信じてくれるんですね」
ジョジョが言うと、ブルーノは彼の本当の、優しい顔になって言いました。
「信じるさ。お前がそんなつまらない殺しをする男じゃあないことは十分わかった。それに、やるならもっとうまくやるだろう?」
ジョジョもほほえんで頷きました。ジョジョもまた、ブルーノのことをすっかり好きになっていたのです。二人は海を眺めました。そこは街の高台になっていましたので、ずっと遠くまでよく見えます。ラピスラズリのような真っ青な海が、太陽の光できらきらと輝き、小さな舟が港の近くを行き来しています。爽やかな海風が、ブルーノの髪を撫でました。ブルーノはジョジョの方を振り返りました。
「ジョジョ、お前の覚悟はわかった。リュッカの穴埋めとして、お前を推薦しておく。俺は、お前の気高い覚悟と、黄金のように輝く夢にかけよう」