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    akiajisigh

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    akiajisigh

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    ニートカラ一(一奈?)
    ※某有名愛のシンガーソングライター様の曲から書いたものですが、原型は無いです。
    タイトルと冒頭2行で何の歌かは分かる方には分かるはず。
    こりゃまずいと思ったら回避願います。

    ※前編は一奈ちゃん視点、一松のキャラと一人称が崩壊してます。
    ※後編が前編の雰囲気をぶち壊す、カラ松視点の解説編。
    ※Twitterで前編は投稿済みです。

    #BL松
    #カラ一
    chineseAllspice
    #一奈(一松)
    ichinae

    桜散る時前編:一奈後編:カラ松視点〜雰囲気ぶち壊し解説編〜前編:一奈



     目蓋のうえに、あお
     うすい唇には、あか

     色づいて
              偽って
     着飾った
              装った
     わたしを
              おれを
     見つけて



              忘れて






     *¨*•.。*・゚•*¨*•.。*・゚•*¨*•.。



     桜舞い散る中、肩を並べて歩く。
     横を見れば、同じ高さの黒い肩、黒い髪、こちらに気づいて、はにかむ顔。
     見慣れた風景。

     たった一週間で、見慣れてしまった風景。



     一週間前。
     この橋の上で、欄干にもたれる背中を見て。
     待っている。
     直感した。
     誰を、なんて分からない。
     そもそもその背中自体が誰なのかを知らない。
     そんなわたしに、関係などあるはずがないのだ。
     分かっているはずなのに、吸い寄せられる様に足は向かい、声をかけていた。
     吹き抜ける風。
     舞い散る花びらの向こうに。
     振り向いた顔、目を大きく開き驚いたその顔に
     やっぱり、見覚えなどはなく。
    「あ、の…す、すみません!人違いで…」
    「ああ、いや、待ってくれ!」
     慌てて逃げようとした手を引き止められる。
    「じろじろ見てすまなかった。…その、君が。そう、花吹雪越しに見た君があまりに綺麗で、儚くて、桜の精かと思った」
    「そんな…」
    「どうして、声をかけてくれたんだ?」
    「…分からないんです。ただ、あなたの背中から目が離せなくなって…つい」
    「そうか」
    「すみません、初めて会った人にこんな、訳の分からない事…」
    「……いや、いいんだ。こうして巡り会えたのも何かの縁さ。もう少し話がしたいんだが、構わないか?ああ、でもその前に…名前を、聞いてもいいかい?」

     わたしの、名前。
     頭の中に残る、わずかな記憶を辿る。
     目が覚めた時、そばにいてくれた人。何もないわたしにたくさん与えて教えてくれて、気の済むまでここで暮らして良いと言ってくれた人。まるで『家族』のようなその人が、わたしに向けた言葉を、思い出す。
    『可愛い一奈。君は世界中から愛される』

    「…いちな。わたしの名前は…一奈」

    「…一奈、か。いい名前だな」
     そう言ってくれた彼の笑顔はしかしどこか歪で、泣いているようにも見えた。



     それから2人で、ただ歩いて話をして。次の日も、その次の日も、気づけば毎日会っていた。とりとめのない話でも、その優しい声と笑顔に触れるだけで、胸に暖かいものが満ちていく。この時間がずっと続けば。彼と、ずっとこうしていられたなら、どんなに幸せだろう。
     でもその一方で、冷たく責める自分の声が胸を刺し続けていた。早く、言わなければ、本当のことを。

     わたしは彼を、欺いている。

     今の姿は偽りのものだ。
     目覚めた時、自分が何者かも分からず、不安から一歩も外に出られなかったわたしに『家族』がくれたもの。そのひとつに、化粧道具があった。それを塗るだけで、誰からも愛される存在になる、魔法の道具だという。
     効果は明らかだった。普段から優しい『家族』だが、これを塗ったわたしには格別な愛を示した。『可愛い一奈』そんな言葉を何度かけられただろう。愛される自信。それを貰えて初めて、空っぽの不安定なわたしでも自分を保つことができたし、外の世界へ踏み出し、何より初めて会う彼にも声をかける事ができたのだ。
     そう、この化粧は、鎧だ。何も持たないわたしが自分を守る唯一の、鎧。
     今この人が隣にいてくれるのも、この姿だからこそだ。本来のわたしであればきっと…
     彼への好意が募るほど、同じだけの罪悪感が増し。でもそれ以上にこの時間を失う恐怖に抗えず、あと少しだけ、もう1日だけと、ここまで来てしまった。

     初めて会った時には満開だった桜も、もうほとんど散ってしまっている。いつまでも、綺麗なままではいられない。
     取り返しの付かなくなる前に。終わりにしなければ。



    「…終わりだな」
    「っ」
     心を読まれたような言葉に、どきりとする。しかし彼の寂しげな笑みは枝葉を見上げている。
    「ずいぶん散ってしまった。今年の桜も、もう終わりだな」
    「あ、ああ…桜」
     ほっとする。ほっと、してしまう。今日こそ、ぼくの方から、終わらせなければならないのに。彼がこちらを振り向いて、言う。
    「桜は終わってしまうけど、なあ。オレたちは、終わらないよな?」
    「え…」
     そっと両手をとられる。正面から、真っ直ぐな目で、告げられる。
    「桜の季節が終わっても、夏が来て秋から冬になっても。次の年も、その次もずっと…これから迎える満開の桜は、オレの隣で見てくれないか?」
    「っ…」



       嬉しい。
              夢にまで見た。
       ずっと待ち望んで
              この上なく恐れて
       それを受ければ、わたしは
              その愛は、おれにではない。



    「…ありがとう。嬉しい。でもごめんなさい。できない、わたしには…」
     両手を強く握られる。
    「どうして」
     強く、握り返す。手が、声が震える。
    「好きだから。あなたの事が、好きになってしまったから、だからもう、嘘はつけない。ごめんなさい。わたしのこの姿は、偽物なんです。」
     振りほどいた手で、顔を拭う。塗り重ねた嘘を、鎧を、脱ぎ捨てる。
    「こんなわたし、愛されるはずがない。綺麗なんかじゃない。何よりも、本当はわたし、いや…ぼくは……男なんだ」
     顔は、見れない。逃げる事も出来ない。ただ責める声を待つ。
     俯いた頭に落とされた言葉は。
    「なんだそんな事か。全然かまわない。そんなの問題じゃないさ」
    「っ嘘!」
    「ウソじゃない。ていうか、実は知ってた」
    「え…気づいてたの?いつから…?」
    「気づいたんじゃない、知ってたんだ。最初から。君の本当の姿も、本当の名前も」
    「どういう、事…」
    「そうだな。君が望んだのだから、もう終わりにしようか。呪いを解いてあげよう一奈…いや、



     一松。

     お前は、オレの弟だよ」



     風が吹く。
     花が舞う。
     白く霞んだ視界が、晴れる。
     記憶が、晴れる。
     呪いが、もう一つの鎧が、解ける。
     見える。正面で晴れやかに笑う男。
     ああ。
     知っている。
     わたしは、ぼくは、この男を。
     知っている。
     この男は、そして、おれの名前は



    「どうだ、一松。オレの勝ちだな!」





    後編:カラ松視点〜雰囲気ぶち壊し解説編〜


     あの時は流石のオレも思ったのさ。

     こんな事ってあるか?!



     ずっと密かな想いを寄せていた相手、2番目の弟から告白された。
     奇跡だと思った。いや、これこそ運命に違いないと、すぐに思い直した。だってそうだろう!絶対かなわないと思っていたんだ、それがまさかの相思相愛!これはもう、神が引き合わせているとしか思えない!もちろん即答でOKした。突然すぎて花束も何も用意できなかったがせめてもと、ありったけの愛を思いつく限りの言葉にして贈った。
     それに対してラヴァーになったばかりの、我が愛しのハニーの反応は。

     ガチギレだった。

     めちゃくそ怒られた。

     こっちは真剣に話してるんだ空気を読めふざけるのも大概にしろお前のそういう所が大嫌いだ軽率軽薄頭空っぽその長ったらしい言葉にどれだけお前の本心が入っているものか勢いとその場のノリだけで喋るんじゃねぇ何ひとつ信じるに足るものが無いお前がおれを好きだなんてそんな馬鹿なことある訳がない普通に考えたら分かるだろうここは断る以外の選択肢など存在しないお前のそのイエスマンな優しさが本当に

     殺したいほど大嫌いだいっそ死ね



     何が起きたのか、すぐには分からなかった。
     呆然と固まって、呼吸も荒く涙目でこちらを睨んでくる、相思相愛だと、思ったはずの相手をただ見つめて。ようやく内容が頭に染み込んできた。

     大嫌いだと、言われた。

     2回も。

     好きだと言われた、その回数以上に言われた。
     好きだと言ってくれた、その直後にだ。
     多分、時間にして1分ちょっとだ。



     こんな事ってあるか?!



     ここに至ってようやく、事態の異常さに気づいたオレは慌てて否定した。
    「っちがう!その場のノリと勢いなんかじゃない!どうしてそんな事言うんだ!オレは本当にお前の事が」
    「んな訳ねぇって言ってんだろ!いいか、お前が好きなのはおれじゃない、お前を好きなヤツだ!頭使ってないからお前自身が自分に騙されてんだ、そんな奴の言う事なんて信じられるかよ!」
    「いくら何でも酷い!お前こそホントにオレの事好きなのか?!」
    「少なくともお前よりは分かってるしお前の事も分かってる!分かってるから信じられないんだよ!この前の唐突に出てきたドブスとの結婚騒動も!ノリと勢いで生きてなきゃあんな事にはならないだろ!」
    「う…それを言われると」
    「ほら見ろ!」
    「でもあの時とは違う!一松と両思いだって知ってたらあんな事にはならなかった!」
    「なる!今でもおれなんかより可愛い女子に告白されたら絶対そっちを取る!」
    「取らない!何で決めつけるんだ!一松がいてくれるなら他に誰もいらない!」
    「嘘つけ!」
    「っだからあ!何でウソって言うんだ!どうしたら信じてくれるんだぁあ!」

     何だこの展開。

     告白されて、OKしたんだぞ?誰が見てもハッピーエンドだろう!その後には薔薇色の人生が待つのみなんじゃないのか?!
     いやそりゃあ付き合っていけば多少の痴話ゲンカはあるだろうさ、でもこれは無い。流石に無い。早すぎるだろう、付き合って1分て。最短記録でギネス狙えるんじゃないか?
     とか考え悲しくなって叫んだオレをじっと見て、ひとつ大きなため息をついた一松は
    「分かった」
    「?!分かってくれたか一松ぁつ!」
     一松の中でどういう思考が展開されたのかは分からないが、とにかく誤解は解けたようだ。こうして愛を確かめ合った2人はしっかと抱きしめ合…うかと思えば。一松はくるりと身をひるがえし、オレの両手は見事に空振った。
    「え?」
     オレの熱い抱擁を躱した一松はさらにくるりと半回転、こちらに向きなおりビシッと指を突きつけて言った。
    「テストをしてやる!」
    「は?」
     また分からない。
    「お前がこれからどんな美人に誘われてもなびかないか、あと本当におれ個人を見てるのか、テストしてやるっつってんだ!これからおれは身を隠す!それと、お前はお前を好きなヤツが大好きだから、お前への好意も消してやる!それでも、そんなおれでもお前は見つけられるのか?!」
    「当たり前だ!」
    「言ったな、その言葉忘れんなよ!お前が忘れてもおれが覚えてるからな!」
     正直その時は一松が何を考えているのかまるで分からなかったが、男ならここは即答するしか無いだろう。そんなオレに一松は念を押し、そこまでならまだアクの強いツンデレで済んだのだが。
    「見てろよカラ松!お前のその空っぽな自信、木っ端みじんに砕いてやる!そんでお前に負けを認めさせたらおれの勝ちだ!そうなったら慰謝料として何でも言う事聞いてもらうからな!覚えてろ!」
     もはや着地点を完全に見失った捨て台詞を吐いて、走り去ってしまった。
    「えええ…?どういう事…?」
     置き去りにされたオレは、ただ混乱するしかない。しれっと物凄く久しぶりに名前を呼ばれた気がするが、それを喜ぶ余裕もない。

     なんで。
     なんでこうなったんだ。
     勝ちとか負けとか、そんな話だったか?
     最初は甘酸っぱい少女漫画みたいな話だったじゃないか、どうして別れ際の台詞が『覚えてろ』になるんだ。これじゃあ告白というよりまるで、そう、宣戦布告?しかもオレに負けを認めさせたらお前は失恋じゃないのか?どういう事なんだ。
     あいつの望みは何だ?オレと両思いになる事なのか、それとも実は回りくどい嫌がらせで、結局は最後に言い放った、勝負に勝ってオレに言う事聞かせたいだけなのか?
     それに美人に誘われたらとか、身を隠すとか好意を消すとか、どういう事だ?アイツ何をするつもりなんだ。

     あまりに分からない事が多すぎて、悲しみも怒りもどこかに行ってしまった。何をしたらいいのかも分からないし問い正したい相手ももう見えない。
     とりあえず、向こうからまた何かアクションがあるだろうと混乱した頭のまま家で待っていたオレの元に。日も傾いた頃ようやく訪ねてきたのは、一松ではなく半裸のオッサンだった。それだけでも分からないのに、その口から出た言葉がまた分からない。言うに事欠いて一松をしばらく預かる、とは。

    「…今、なんて言った?」
    「一松くんは家に帰りたくないそうダス。特にカラ松くん、君とは二度と会いたくないと」
    「………………は?」
     聞き返しても分からないし、分かりたくない言葉を聞かされ、キレそうになるのを必死で抑えたが。何故か相手が勝ち誇った悪どい顔で挑発してくるものだから
    「もっとも、今はワスの発明品で全くの別人になっているから、例え街中ですれ違っても気づかないと思うダスがねぇ。ぐふふふふっングホェ」
     抑えられなかった。
     言い終わる前に白衣の襟首を掴みそんな訳ないだろう本当の事を言えと締め上げてしまった。騒ぎを聞きつけ居間から出てきたトド松に
    「何してんのカラ松兄さん?!玄関先で警察沙汰はヤメテ!」
     と止められた。オレとしたことが少々取り乱してしまったが、追加でいくつかの情報を得たので結果オーライだ。
     とは言え、最初の話に嘘偽りはないらしい。つまりまとめると。

     一松は今、見た目が完全な別人になっている。それだけではない。一松としての記憶もほとんど失っているので、こちらのアクションに対する反応で本人かを確かめることもできない。
     この状況で、この街なかに紛れている一松を見つけ出したら、オレの勝ち。見つけ出せなければ、あるいはオレが他の相手を好きになれば負け、だそうだ。
     当然これは一松の発案で、デカパン博士はそれに応える薬や道具を与えただけだという。
     ちなみに見抜かなければ意味がないので、博士の家の前で待ち伏せとかも禁止。

    「そういう訳ダスから、一松くんの記憶を戻すカギはただ一つ、カラ松くんが正体を見破って、名前を呼ぶ事ダス。どうしても分からなければワスの家に来ればいいダス。でもそれはつまり降参って事ダスよ」
    「…なるほど」
     何故ずっとデカパンが得意げでちょっと悪どいのか気になるものの、理解はできた。つまりこれこそが、一松の言っていたテストなのだ。
    「いいだろう。そんな事でオレの愛が証明できるのならば安いもの!この勝負、オレがもらったぜ一松!」
     拳を掲げ高らかに宣言するオレの後ろで

    「それにしてもデカパン、よくこんな茶番に付き合うね?」
    「ホエ…あんなに記憶をまるっと失うとは思わなかったんダス。だからそこは責任持って預かるダスが…正直早くカタ付けて帰って欲しいダス」
     というトド松と博士の会話が聞こえた。



     *¨*•.。*・゚•*¨*•.。*・゚•*¨*•.。



    「…という訳で!見事に正体を見抜いたオレの勝ちだ!どうだぁ一松!オレの愛が本物だと、これでようやく分かっただろう!」
    「いやいや待って待ってちょっと待って…待てって言ってんだろ離れろ!待てもできねぇ犬以下かお前は!」
    「ひどい!愛の力で呪いを解いた王子に対する態度じゃない!本来ならここで愛と感謝の口づけの一つも…」
    「やめ!くんな!てか自分で王子とか言うな!ツッコミどころ増やすな!それ以前にツッコミ満載なんだよ、そこをまず説明しやがれ!」
    「えー、もう良くないかそんな事どうでも」
    「良くない!納得いかない!」
    「…チッ。面倒臭ぇ」
    「お、お前急にキャラ捨てんな怖えよ」
    「なんだ何が納得いかないんださっさと片付けるぞ早く言え」
    「怖あ」
    「早く」
    「…お前最近強気なの何なの…分かった言うって!近い!」
     叫ぶ一松の掌底に顎を押されて仕方なく引く。「ー」と濁音のため息をついた一松は気を取り直し。
    「じゃあまず、おれの正体にどこで気づいたの?絶対バレないと思ってたのに」
     引き気味ながらもこちらを不満げに睨んでくる上目遣いが可愛いし、言い方も可愛い。そんなこと、答えは決まっている。
    「それはもちろん!愛のちかッんグ」
    「そーいう事は聞いてねぇよ実のある会話をしようぜお兄ちゃん?」
    「すみません…ううっ」
    「途中でおれの癖とか無意識の仕草が出てたとか?」
    「フッ…甘いな。そんな些細なものじゃない、最初に出会ったあの瞬間から確信があった!だからこそ愛の力だグム」
    「やめろっつったろ!具体的に言え!」
     2回も。喋ってる間に両のほっぺ挟みつぶしてくるのやめて欲しい。口の内側噛むから。
    「ううう…でも、そうとしか言えないんだ!だってオレには一松に見えたんだから」
    「んな訳ないだろ!事前にちゃんと試してみたんだよ!本人には効かないって言うから鏡で見たおれには自分にしか見えなかったけど、街歩いても皆が振り向くし、何より作ったデカパン本人が引くほどベタ惚れしたんだぞ!

    『ホエホエ!超可愛いダスよ一奈ちゃあん!間違いなくこれは世紀の大発明!キミはもう世界中から愛される事間違いないダス!』

    って!」
    「待て、前編でのお前の回想ってまさかそれか?切取りの悪意が酷い」
    「何でお前がおれの回想知ってんだよ、急にメタな発言すんな。それにお前だって最初に会った時『綺麗だ』とか何とか言ってたじゃねぇか!誘いに乗ったのもどうせ美人だったからだろ!」
    「いやそれはだから…っていうか、ん?ちょっと待て、ウェイトだ一松」
    「何だよ!」
    「お前あの道具の説明、デカパンからなんて聞いてた?」
    「え?そりゃあさっきも言ったろ。誰からも愛されるようになるって。だからきっとすごい美人に」
    「いやいや、美人が嫌いな人間だって世の中にはいるだろう?オレはちゃんとデカパンを締め上げて詳細を聞いたんだ。正確には『相手の理想の姿に見える』道具だそうだ」
    「ん?」
    「つまり、美人が好きな奴には美人に見え、イケメンが好きなレディには超絶イケメンに見えるらしい。その証拠に、男女問わずお前のこと見てただろう?」
    「言われてみれば…え?じゃあお前にはどう見えてたの?」
    「フッ…知りたいか?」
    「レンタル彼女のイヤミみたいな美女じゃないの?」
    「やめろいらん事思い出させるな。そうじゃない!さっき言っただろう、一松にしか見えなかったと」
    「は?」
    「そのまんまの意味だ、そしてこれこそがオレの愛の証明!そう、つまりオレの理想はズバリ!…一松、お前ってことさ」
    「……んん?」
    「あれ?いまいち響いてないな?」
    「いや待って、ちょっと何言ってるか分かんない。っていうか、何だろう、脳が理解を拒否している…?」
    「なかなか焦らすじゃないかイタズラキティめ。しょうがないなぁ。つまりはっきり言うとだな。オレには最初から最後まで、ただの女装したお前にしか見えてなかったって事だ」
    「?!」
    「初めて会ったあの時は、そりゃあ驚いたさ。勝負が始まって次の日だぞ。橋の上でさあこれからどうやって探そうって考えてたら、女装しただけのお前が声かけてきたんだから」
    「え、あ?」
    「でも様子はおかしいし、話してみれば確かに記憶を失ってるから、どうも間違いじゃないらしいと思って」
    「いや、え、待って、じゃあ、何?最初からって本当に、最初っから?バレてたの…?は?マジで?お前の返答次第では即座に死ねるんだけど」
    「んー。厳密に言うとな、最初の一瞬は流石に何かの間違いかと思った。似合ってたし可愛かったし。言っただろう、『桜の精かと思った』って。アレは嘘じゃないぞ、舞い散る花びらの向こうに霞むお前が儚くも美しく、まさに桜に攫われそうな」
    「黙れ」
    「ええー…」
    「じ、じゃあ何でそのまま知らない振りしたの?何で名前なんて聞いたんだよ」
    「いや単純に気になって。何て呼ばれてんのかなあって」
    「…じゃあ名乗った時の、あの泣きそうな表情は?」
    「泣きそう…?あの時はただ、笑うの必死で堪えてた」
    「っっっーーーーー!!死ぬ!殺せ!ここで殺せ!」
    「ちょ、落ち着け一松!」
     即座に頭を抱えて桜の木に打ち付け始めた一松を羽交い絞めで止める。上目の涙目、よりも目を引かれる額から流血した顔で振り向き叫ぶ。
    「つかさあ!分かってたんならさっさと言えよ!その時に!そしたら一週間もかからず終わってただろ!何で引っ張った!復讐か?!そんなにおれが憎いか?!」
    「だって!」
     また変な曲解をし始めた弟の被害妄想を止めるべく、できるだけ大声で遮ると、びくりと跳ねて動きを止める。その隙に畳みかける。
    「だって、せっかく可愛いしおらしい一松が目の前にいるんだぞ!桜舞い散る最高のロケーションでだ!そりゃデートのひとつも誘うだろう!お前は全部忘れてるから逃げる気もないみたいだし、素直に笑ってくれるの可愛いし、いつでも元に戻せるんだったら明日でいっかー…って」
    「思って延ばして一週間か。大したモラトリアムだなコノヤロウ!」
     あれ、やっぱり怒られた。
     いやでも仕方ないだろ?オレそんなに悪くないと思うんだけど?!お前の仕打ちに比べたら!思い出したら止まらなくなってそのまま叫ぶ。
    「いいだろこれくらいしたって!
     オレなんてお前に何回嫌いって言われたと思う?!死ねとも言われた!告白された直後にだ!お前から告白してきたのに!さすがに酷いと思った!
     そんで『会いたくない』とか人づてに聞かされて、次に会った時には全部忘れてるし『初めて会った人』とか言うしデカパンに変な名前勝手につけられてるし!」
    「へ、変な名前って」
    「変な名前だ!一奈なんて!一子でいいだろ何でちょっと今風にシャレたんだ恰好に似合ってて可愛いなんて思ってないからなぁあああ腹立つ殺したい!しかも誰からも愛されるみたいな危険な道具使ってあんな服でノコノコ出歩いて!どころか!他の男と!デカパンと一緒に住むとか!!あり得ない許せない何かあったらどうするつもりだったんだ!てかもし何かあってたら、オレが何するか分からないからなぁ!!」
    「お、お前そんなおれみたいな事」
    「事実だ!お前どれだけオレの事振り回したか自覚ないだろ!ちょっとは思い知ってくれ!あの日はホント生きた心地しなかったし夜も寝れなかったし!デカパン相手には大口叩いたけど見つけるアテがある訳じゃないし、何よりオレの事忘れてる、とか…考えただけで…心折れ……っうわぁあああああああ」
    「からの号泣?!えええ…嘘でしょ…?」
    「嘘じゃないオレの方が嘘だろって思った!一松がオレに会いたくないとかぁあああああ」
    「ああもう分かった悪かったから!泣くな!お前が落ち着け!」



    「ううう…」
    「どう、落ち着いた?」
     …少々、取り乱してしまった。
     こんな情けない姿を見せても呆れず頭を撫でてくれる一松はやっぱり優しい。好きだぁ。欲を言えばもうちょっと密着してぎゅってハグしてくれたらもうちょっと落ち着けるし元気出ると思うんだけど、それを言ったらまた怒られる気がするから黙って我慢する。
     代わりにもう一つ、言いたかったことを話す事にする。
    「それとな」
    「ん?」
    「もう一つ、あるんだ。すぐに名前を呼ばなかった理由」
    「…何?」
     根気強く聞いてくれる、いつもの低い声が、落ち着く。鼻をすすって目尻に残った涙を拭って、息を吸いなおして。
    「やり直したかったんだ」
    「え?」
    「お前から、告白されたのがな。嬉しかったんだけど、悔しかった。お前がどんなつもりだったのかは分からないが、先を越されたのには違いないだろ。何を言おうともオレは結局…あきらめてたんだ。元の関係を壊すのが怖くて、本心から逃げて言い出せなかった自分が、情けなくて。
     だから、記憶を失った姿を見た時、これはチャンスなんじゃないかと思った。たとえ仮の名前、仮の姿だとしても。兄として、男として、オレから言いたかった。」
    「…」
    「なあ、本当に好きなんだ、一松。どうしたら信じてくれる?」
    「……」
     顔を伺っても俯けてしまって、覆い隠す長い髪が今はとても邪魔に見えて。これ以上何を言うべきか分からないまま口を開き、その隠された頬に手を伸ばしかけた所で
    「…たよ」
    「え?」
    「さっきの。お前にあんな大声で、泣き喚きながら怒られたの、おれ初めてだよ」
    「いや、そこは忘れて欲しいんだが…」
    「忘れられる訳ない。あんなの、見ちゃったらさ…信じちゃうじゃん」
    「え」
    「そっか…お前、おれに、振り回されたんだ…へへ…」
    「っっっいちまぁあつ!」
     じわじわと沸き上がる嬉しさを嚙みしめるような、はにかんだ笑みが初めて見た可愛さで。思わず飛びついて抱きしめてしまったが今度は、逃げも押し返しもされなかった。



     さて。
     一週間ほど遠回りしてようやくハッピーエンドを迎えた訳だが、オレの方でも聞きたい事がない訳じゃない。
    「それにしても、お前はオレの返事に何であんなに怒ったんだ?照れ隠しにしても酷い」
    「照れ隠しじゃないわ!…おれ、本気で付き合う気なんてなかったんだ。あれはフラれるつもりで、引導渡してもらおうと思って言ったんだよ」
    「ええー?」
    「そしたらお前、まさかのOKだし、しかもいつもの感じだし。ああこれは本気に取られてないんだなと思ったら無性に腹立って」
    「えええええ」
    「なんだよ」
    「いや、だって。やっぱり酷くないか?何だろう…お前ホントに、オレの事信じてないんだなぁ…」
    「いやお前っていうか、おれなんかを好きだなんて言う奴の言動が信じられない。正気を疑う」
    「…お前の方が重症じゃないか?」
    「…うるさい。嫌ならやめれば?こんな面倒くさい奴」
     ちょっと気に食わなければすぐ不貞腐れて、尖らせた口から逃げの言葉だけはスラスラ流れ出る。そんな困ったハニーにはやっぱり、はっきり分からせておかなければならないな。
    「だからすぐそういう事言う。オレは絶対やめないからな!それにオレはお前の愛を疑う事もない!」
    「…お前のその自信、どこから来るの?」
    「ッフーン!それはもう、この一週間の試練を乗り越えたオレたちだぞ?!」
    「試練…いやただの無駄な遠回りでしょ」
    「無駄じゃない!この一週間があったからこそオレは、お前からの熱い告白を2回も貰えたからなぁ!」
    「は?!何それ?!」
    「覚えてないとは言わせないぜぇ?一松から1回、そして一奈になってから1回だ!
     『好きだから。あなたの事が、好きになってしまったから』なんて必死な顔で言う一松、可愛かったなぁ」
    「…あああああ?!」
    「その前もだ!記憶が無いはずのお前から声かけてきたってのがもう!ラブ!アーンド、ディスティニー!惹かれ合う運命!ってかお前オレの事好きすぎるだろう!」
    「ぎゃああ違う!それはきっと!むつごとしての記憶が微妙に残ってたとかそういう奴だって!違うから!」
    「それもだ!」
    「何が?!まだ何かあんの?!」
    「ある!デカパンから聞いたんだ!お前があんなに記憶を失ったのは計算外だったと!」
    「っまさか!…そこまで聞いたの?」
    「聞いた!お前、元々はオレへのラヴだけを消すつもりだったんだろう?だがその為には、関連する記憶を消さなきゃならない。デカパンが全部話してくれたぞ、記憶を消しても消しても好意が残って大変だった、やっと完全に消したと思って気づいたら、名前も素性も何も覚えてない完全な記憶喪失になってしまったってなぁ!」
    「あああああああああ、ち、ちが」
    「つまりは、お前の記憶のほぼ全部がオレに繋がっているという事!そうお前は、オレがお前の全てだと、身をもって証明してくれたのさぁ!こんなに熱烈な告白は他にない!お前の渾身のトゥルー・ラァヴ…しかと受け止めたぜ一松ぁあつ!」
    「もぉおおお前黙れぇえええええええ!!」
     今度こそ正真正銘照れ隠しの、可愛いラヴァーの叫び声で、最後に残っていた桜の花が舞い落ちた。

     桜は終わっても到底尽きなさそうなビッグラァブをサンクス一松!
     今度はオレの番だな!
     灼熱の夏の様に熱い愛、しかと受け取ってくれよ!



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    akiajisigh

    PROGRESSこちら、鋭意製作中に付き途中まで。
    ひょんなことから知った『温め鳥』というワードに滾って勢いで書き始めた、
    鷹次男と雀四男の話

    *今後の展開で死ネタが入ります。
    *作者が強火のハピエン厨なのでご都合無理やりトンデモ展開でハピエンに持ち込みます
    いずれにしろまだ冒頭…完成時期も未定。
    それでも良ければご覧くださいm(_ _)m

    17:00追記。やっと温め鳥スタイルに漕ぎ着けた。
    温め鳥と諦め雀もう駄目だ。

    自分では来た事もない高い空の上。耳元には凍えるほど冷たい風がびゅうびゅうと吹きつける。所々の羽が逆立って気持ち悪いが、それを嘴で直す事もできない。何故ならおれは今、自分の脚より太い枝のような物で体中をがんじがらめにされている。背中に三本と腹側に一本、絡みついたそれに抑えつけられ、右の翼が変な形で伸びている。もう一本に挟まれた尾羽が抜けそうで尻もピリピリ痛む。さらに首を右側から一本、左から一本ガッチリ挟まれて身動きを完全に封じられ、最後の一本は茶色い頭にかかっている、その『枝』の先についた鋭利な爪が目の端にキラリと光り、思わず生唾を飲み込んだ。飲み込んだだけ、他は全く動けない。抵抗などできるはずもない。早々に諦めて斜めに傾いだ首のまま、見た事もないほど小さな景色が右から左に流れていくのを見送りながら、頭の中では自分のこれまでを見送り始めた。
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    ゆう月

    TRAINING内容も続きも無いです。
    カラ松が家を出て一人暮らしを始めてから数年たった頃の独り言です。
    (ポイピク練習です。)
    2021/1/5
    オレたち兄弟の中に筆まめな奴がいるとは思わなかった。

    実家を出てからずっと、正月は時給が良いからと帰らないオレの元へ、一松は毎年年賀状を送ってくる。型通りの挨拶に、干支とは関係のない猫の絵と足跡。それがサインのつもりなのか、いつも名前は書いてない。猫の絵は流石にすごく可愛いのだが、白い紙に黒一色の、ある意味色気のない葉書は、想い人に出すにしては書き手の不器用さを表しているようで微笑ましい。

    そう、あいつはオレが家を出る数日前に、やっとオレに告白したんだ。オレに冷たく、いや暴力的に振る舞ったのは、実はオレの事を好きだった愛情の裏返しだったのだと。兄弟の枠に収まらないほどの、過ぎた愛情の裏返しだったのだと。そしてその日、オレは血の繋がった実の弟を抱いた。

    いくら「最後なのだから。」「一度でいいから。」と、泣いて懇願されたからと言って、普通ならそんな事出来るわけがない。やはり自覚がなかったとは言え、オレの方も一松のことを、ずっと好きだったのだと今なら分かる。分かってしまうと、安易に会いには行けなくなってしまつた。

    世界的に伝染病の流行った今年、いや去年か。新春のイベ 574