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    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
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    POIPOI 192

    うなされる狡噛さんのお話。
    800文字チャレンジ41日目。

    #PSYCHO-PASS
    ##800文字チャレンジ

    ナーサリーライム(子守唄をあなたに) 狡噛は時折うなされることがある。何を夢見ているのか知らないが、眉間に深い皺を寄せて、苦しそうにうめいている。最初のうちは起こしていてやったが、そうすると彼は俺から離れてシャワールームに消えるか、リビングで水を飲んで顰めつらしい顔をするかだった。だから最近はじっと寄り添うことに決めている。狡噛が苦しんでいるのなら、俺も一緒に苦しもうと手を繋ぎ、朝まで一睡もせず夜を過ごす。それを狡噛に言ったことはない。目の下にクマを作った狡噛に、酷い顔だなと言われることはあっても、彼が自分の酷い顔に気づくまでは、俺は知らないふりをするのだ。
     
    「あなたたち、揃いも揃ってひどい顔。出勤してすぐだけど、ちょっと仮眠でもしてきたら? 幸い仕事はないし」
     そんなある日の朝、ともにちゃんと眠れず出勤すると、花城にそんなことを言われてしまった。俺はともかく狡噛は仮眠が必要だろう。あんなにうなされて、仕事に支障が出ないわけがない。
    「俺は大丈夫だ。煙草を吹かしてりゃすぐに……」
    「それじゃあそうさせてもらおうかな。何かあったらすぐに呼んでくれ」
     だから俺は狡噛の腕を引っ張って、仮眠室に行ったのだった。
     
     仮眠室では狡噛は機嫌が悪かった。仕事が出来ると思ったのに、それを否定された気分で嫌なのだろう。でも俺はこいつに子守唄を歌ってやりたい気分で、簡易ベッドに寝転んでデバイスを見つめる狡噛に毛布をかけてやった。
    「なぁ、そんなに俺は眠れてないか」
     狡噛が尋ねる。俺は真実を言っていいものかどうか悩んで、「目の下にクマが出来るくらいには」とぼやかした。狡噛はどう感じているのだろう、俺には分からない。
    「眠ると地雷で吹っ飛んだ子供や、脳漿を吹き飛ばされた子供の夢を見るんだ。どうやっても治らない。サプリにも頼ったが駄目だった」
     俺は狡噛がサプリに頼ったことに少し驚いた。あんなにシビュラを嫌っていたのに。けれどそれも彼なりに必死になっての方法だったのだろう。守ってやりたい。こいつを抱きしめてやりたい。
    「仕事が終わったら一緒に寝よう、狡噛。それまでは俺が見ていてやるから。な、おやすみ……」
     俺は彼の手を掴んで、小さくささやいた。狡噛はデバイスを閉じ目を閉じる。俺たちは暗い仮眠室の中で、お互いだけを感じている。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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