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    時緒🍴自家通販実施中

    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
    無断転載禁止。

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    POIPOI 192

    時緒🍴自家通販実施中

    TRAINING時間がない中で愛し合おうとする狡噛さんの話。
    800文字チャレンジ100日目。
    お付き合いありがとうございました!
    タイムリミット(あなたを愛する時間) 時間がない。だからといって手抜きはしたくない。たっぷりいつものように時間がかけられないとはいえ、彼を愛するのに手を抜きたくはない。そんなことを思いながら俺はギノに口付けを落とす。キスだけで終わっておく? あとは夜にとっておく? それとも短い時間を共にしてから出勤する? 俺は悩みながら、静かに身を寄せるギノを抱きしめた。彼は俺にされるがままにされている。少しくらい出勤が遅れてもかまわないとでも思っているのだろうか? 俺はそんなことを思って、そんなことあるはずがないとも思った。彼は仕事に関してはストイックで真面目だ。こんなことが許されるはずがない。以前だってこんな時に始めようとしたら、左で殴られたことがあった。彼は少し性欲が淡白で、キスだけで満足できるところがあるのだ。ただ触れられたらそれでいい、そう考えるところが。だからこうやってキスをしているのも、大した意味はないんだろう。セックスに繋げようなんて、そんなこと絶対に考えていない。セックスなんて夜にする深い営みくらいにしか思っていない。俺はそれを悔しく思う。急げば出勤までに間に合うのに、彼はそれをしてくれないと。
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    TRAININGお墓参りをする宜野座さんのお話。何かが変わってゆく様子。
    800文字チャレンジ99日目。
    ただ、君を待つ(二度と離さない) 狡噛がいなくなって数年が経った。だというのに俺はまだ彼を待っていて、自分から別れを告げたくせにまだ待っていて、海外に派遣されることはないかとか、共同捜査にあたることはないかとか、そんなことばかりを考えていた。そんな俺を常守は見ていられないようだった。考えてみれば、彼女が別れの時間を俺に渡したのだから、そう思うのも仕方がないのかもしれない。彼女は俺が撃てないことを、狡噛を殺せないことを知っていた。そしてその代わりに別れを告げることも。だから俺は彼女についてゆこうと決めたのだが、それでも彼女にはひどい役目を課していると思う。俺が知らない何かを知っている彼女は、今日だって局長室に呼ばれて行った。何かが動いているのは分かっていた。先日は外務省から花城フレデリカがやって来たし、口の堅い須郷を口説き音して聞けば、外務省に新しい部署を作るにあたって求められた、とのことだった。何かが動き出していた。俺が何も知らない何かが。俺が何も知らないのは、いつだって同じことだった。いつだって俺はただ転がる球で、跳ねては物事の本質を知る人々に笑われていた。出世が見込めるときはそれでも満足していたが、それがなくなった今ではどうしていいのか分からない。執行官が下手に動けば上司である監視官が処罰される。だから俺は、ゴム毬のように、ずっと跳ねているしかないのだろう。
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    TRAININGくだらない喧嘩をしちゃった二人の仲直りのお話です。
    800文字チャレンジ88日目。
    他愛のない喧嘩(仲直りの方法) 別に大した理由があったわけじゃない。そんな大した理由があっての喧嘩じゃない。かといって、他愛のない喧嘩と言われればそうじゃない。それなりに真剣に喧嘩をしたと思う。狡噛は哲学書を引用して俺を責め、俺は過去の彼の不出来を持ち出して責めた。どちらも本気の喧嘩だった。喧嘩の原因はそうだ、多分食事後の皿をそのままにしていた狡噛を俺が注意したのが始まりだったのだけれども。あぁ、これじゃあ他愛のない喧嘩か。
     
    「あなたたち、喧嘩をするのはいいけど、オフィスにまで持ち込まないでよね」
     喧嘩の当日、花城はそう言った。そんなに剣呑さが顔に出ていただろうかと思うが、ここで素直に謝るのも少し違う気がして黙っていると、「そういうのをやめなさいって言ってるのよ」とたたみかけられた。狡噛はこうなるのが分かっていたのか煙草休憩で、さっきからずっと姿が見えない。すると花城は言った。「追いかけて謝りなさいよ」でも、皿を出しっぱなしにしたのは狡噛が悪いんじゃないか? そう言いかけると、「先に謝るとこれから立場が上になるわよ」との花城の提案が追いかけてくる。それならいい。上の立場に立てるなら、謝ってやってもいい。でも、どうやって謝る。すまなかったって、どんなふうに?
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    TRAINING青っぽい学生時代狡宜。
    800文字チャレンジ83日目。
    鼓動が限界(ある夏の日に) 初めてギノと口づけをした時、心臓が痛すぎて病気になったと思った。不恰好にも手の汗がびしょびしょだったし、それで嫌われやしないかまた心臓の鼓動が早くなった。何回も歯磨きした、歯磨きしすぎて血が出るくらい歯磨きした。ガムも噛んだしミント味のラムネも食べた。そうして俺はやっとギノと先送りにしていたキスをして、恥ずかしそうに笑う彼にもう一度キスがしたくなった。でももう鼓動が限界だ! これ以上キスしたら死んでしまうかもしれない。死因、キスをしたこと、愛する人とキスをしたこと、少しロマンチックだけれど、もっとしたいことがたくさんある。海に行きたい、山に行きたい、俺が好きなところ全てにギノを連れて行きたい。廃棄区画にある古本屋とか、やっぱり廃棄区画にあるジャンキーなハンバーガーショップとか、そんなところにギノを連れて行きたい。ギノは嫌がるだろうな。でも俺を知って欲しいんだ。俺はまだ童貞でデートの仕方も知らなくて、だから自分の好きなものを教えるくらいしか思いつかない。でもそれだって充分だろう? 俺の好きなものは、俺を構成するものなんだから。それを差し出すってことは、俺を差し出すってことなんだから。
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    TRAINING愛しているとどうやって言ったらいいんだろうというお話。
    800文字チャレンジ77日目。
    ひゃくまんつぶの涙(愛している) 誰かを愛して泣くことがあるなんて知らなかった。それも自分の前から去られるのじゃなく、愛していると言われて泣いてしまうなんて。
     
     狡噛はよく俺のことを愛していると言う。朝起きてキスをした時、出勤前、休憩中、仕事が終わって官舎に戻ってから。俺はその度に泣きそうになって、自分の気持ちを引き締める。この男は自分を一度捨てたやつだって思い出せって、そんなことを繰り返しながら。
    「ギノ、愛してる」
     セックスの最中も、彼はよく愛をささやく。俺はその度に泣きそうになる。身体をつなげているだけで幸せなのに、愛を伝えてもらえるなんてと泣きそうになる。言葉は嘘が多い。それでも狡噛の言葉は本当だ。重なった手のひらや、繋げた身体や、重なった唇が俺にそれが真実だと伝える。でも、俺は愛していると言えない。自信がなくて、彼を愛しているのに言葉に出来ない。だからただ泣く。愛していると、俺も愛していると、それを伝えたくて彼にしがみついて泣く。すると狡噛は分かったと背中を撫でてくれて、俺は彼にとびきり愛されるのだ。
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    TRAININGcase3あたりの話。
    800文字チャレンジ74日目。
    迷い込んだ風(あなたのこと) 風が吹いていた。ここ高山地方では、珍しくもない風が。七色の旗がはためくごつごつとした道を歩いていると、外で編み物をしていた老婆が、「あれは、仏様の生まれ変わりの合図だよ」と言った。いつか旅立って行った家族がそろそろ帰ると、風を吹かせていることで合図をしているらしい。頭の中の槙島が言う。僕はまだ生まれ変わりたくないな、君の頭の中で遊んでいたいよ。馬鹿、出てくるな。死人はじっとしていろ。灰になって帰ってくるな。「誰が帰ってくるかは分かるのか?」俺はまだ編み物を続ける老婆に尋ねる。すると、皺の寄った顔でくしゃりと笑った老婆は、「今回はうちのじゃないね、あんたのだよ」と言った。誰だろう。俺が失った人々。とっぁんに、縢に、槙島。狡噛慎也、それは間違ってるよ、僕はまだここにいるじゃないか。それから、ギノ。もう会えないのなら、死んだのと同じだ。「あんたと縁の深い人が帰ってくると出てる。それに会いたい人にももうすぐ会えるよ。ほら、拝んで行きな」老婆はそう言うと小さな手持ちのマニ車を取り出して、しゃんしゃん、と鳴らした。俺はどう反応していいか分からず、ただ感謝の意を示すために、ここいらで流通する銅貨を何枚か彼女の前に置いた。ここに来て、しばらく経ってのことだった。
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    TRAINING1期後の狡宜。ずっと狡噛さんのことを思っている宜野座さん。
    800文字チャレンジ71日目。
    報われない努力(あなたという人) 狡噛を忘れられたらと思ったことは数え切れない。彼を愛さなかったら、きっと俺はもう少し上手くやれたんじゃないだろうか? 上司からもたらされる見合いの写真を断ることもなく、執行官たちの立場を思って腹芸をすることもなく、狡噛が少しでも自由に動けるよう青柳に彼を託すこともなかった。でも、彼は俺の手を離れて、遠い所へ行ってしまった。行方は知れない。シビュラの範疇外ということくらいしか俺には分からず、俺の上司となった常森が知るのもそれくらいだった。監視官の強力な権限があってもそれなのだから、きっと今頃は自由に野良犬として生きているのだろう。
     狡噛を忘れられたら、そう思って学生時代から撮り溜めていた写真のメモリーを消そうとしたことは数知れない。けれど俺はみっともなくそれに縋ってしまい、記憶の中で薄れつつある彼の声や、肌や、熱を思い出そうと努力するのだった。でも駄目だ、それも最近は駄目になってきてしまった。彼はどんな声だった? 俺を抱いた日の肌はどんなふうだった? あの瞬間に感じた熱はどんなものだった? 思い出そうとしても、それはいつも中途半端で終わる。まるで、彼がもうこの世には存在しないかのように。
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    TRAINING眠れない宜野座さんのお話。
    800文字チャレンジ53日目。
    歌を聞かせて(眠り歌) なかなか眠れない日が続いて、花城にまで心配されて、俺は一日の休暇を与えられた。原因はとても簡単な話で、父の命日が近づいてきていたからだった。俺と似ているらしい目元は力を失い閉じられて、鍛えられたたくましい体は血に塗れて冷たくなっていった。腕をなくして出血が酷かった俺も頭がくらくらして、それほど悲壮感はなかった。現実味がなかったと言ってもいい。悪い夢を見ているとはこれだな、と思ったのも覚えている。でもあれは夢ではなかった。悪い夢でもなければいい夢でもなかった。父は俺を愛していると言外に言って、俺の目元を眺めた。幸せだった頃もそうだった。父は俺を愛してくれたけれど言葉が少ない人で、古い人だったのもあるだろうけれど、背中で語る人だった。そんな人に愛されたいと思ったのが間違いだったのかもしれない。人はそう変わらない。今だって俺は言葉少なな男を愛している。彼は滅多に愛していると言わず、セックスの最中も言葉は少ない。けれど彼は時折どうしようもなくなった時、俺に歌を歌ってくれる。眠れない俺が眠れるように、静かに歌を歌ってくれる。放浪の旅で覚えた各地の歌を、俺に歌ってくれる。
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