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    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
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    POIPOI 192

    2022年宜野座さんお誕生日おめでとうSSです。
    パーティーを開いてもらって遊ぶお話です。
    お誕生日おめでとうございます!

    #PSYCHO-PASS

    in the room 欲しいものを欲しいと言えたのは、父がまだ俺の元にいた頃のことだ。あの人が去ってから、俺は心から何かを求めることがなくなってしまった。誕生日を祝う会を催すと花城に言われた時、暗に欲しいものを聞かれて、俺はとっさに何も答えられなかった。欲しいものはなかった。ずっと、父がいなくなってしまってから、俺に欲しいものはなかった。あの人が帰ってきて、母と一緒に暮らせるのなら、他には何もいらなかった。だが、それは幼い頃の幻だ。絶対に叶うことのない、ゆめまぼろしだった。
     
     
    「酒、進んでないじゃないか」
     花城が借りたらしい、薄暗いホテルの一室の中で、馬鹿高いウィスキーを片手に狡噛が言う。昨日までの任務の疲れからなのだろうぼんやりとしていた俺は、それにすぐに答えられず、手に持ったやはり樽の香りが芳ばしいウィスキーのグラスを無意味に揺らすだけだった。
     花城が開いてくれた、俺のための誕生日パーティーは大きなものだった。名前も知らない料理ばかり(それも旨そうなものばかり)テーブルの上に広げられているのはもちろんのこと、ワインやウィスキー、カクテル専門のバーテンダーもおり、そしてなぜか男女のストリップダンサーまでいて、出島のホテルの一室は狂乱の渦の中にあった。ダンサーがまく造花やきらめくスパンコールは床に落ちて、それは床に取り付けられた、明滅し低い重低音が印象的な音楽を流すミラボールに輝いていた。そんな中で踊る彼らは、部屋の隅にいた俺をめざとく見つけると、大げさに俺にハッピーバースデーを歌い、トップレスのまま抱きつき、ラメが浮く赤い口紅が塗られた唇で俺の頬にキスをしていった。俺はそんなダンサーたちににもみくちゃにされて、狡噛はそれを見てウィスキーを吹きそうになるくらい笑い手を叩いた。そんなに俺の様子は愉快だったのだろうか? これが楽しくないとは言わないが、俺よりも狡噛の方が楽しんでいるように見える。俺の無様な様子を楽しんでいるように見える。
    「なぁ、ギノ。パーティーを抜け出さないか?」
     狡噛がウィスキーを飲みながら言う。俺はそれにため息をついて、肩をすくめた。
    「……主役にそれを言うか?」
    「お前、騒々しいのは苦手だろう? だったら静かなところで……」
     チーズをつまむ俺の口元に、狡噛の唇が近づく。俺はそれをため息をついて制止し、手元にあったウィスキーを口に含んだ。まだだ、まだ駄目だ。主役がいなくなってしまっては、招待客が戸惑ってしまう。
     ミラーボールが輝く部屋の中には、まだ花城と須郷もいる。いくら俺のために催されたパーティーだからって、彼らを置いて好き勝手するわけにはいかないだろう。せめて彼らが帰ってしまうまで、俺は行儀良く、この騒がしいパーティーを楽しまねばならない。今はパーティーが始まったばかり、まだ八時かそこらだ。彼らが帰るのはセオリーから言うと十時ごろ。あとたった二時間の我慢だ。それに用意された酒や料理は絶品だったから、最初のうちは乗り気ではなかったとはいえ、今はそれほど嫌なわけではない。そもそも自分の誕生日を祝われているということ自体が喜ばしいことなのだから、俺は素直に好意を受け止めるべきなのだろう。
    「あと数時間の我慢だ、狡噛。そうしたらお前の相手に乗ってやるから」
    「本当だな? 約束だぜ」
     狡噛がそう言って、バーテンダーの元へと歩み寄ってゆく。俺はそれを眺めながら、あとであいつにも構ってやらねばなと思ったのだった。
     
     
    「宜野座、誕生日おめでとう! ……この部屋、明日まで好きに使っていいわよ。いい一年を!」
    「宜野座さん、誕生日おめでとうございます。いいパーティーでした。いい一年を!」
     花城はそう言って俺を抱きしめ、須郷は遠慮して肩を叩いて去ってゆく。パーティーは終わった。あれほど笑顔を浮かべていたダンサーも、バーテンダーも、もう帰り支度をしている。音楽もミラーボールの光もそのままだが、床に散る造花やスパンコールは輝きを失っていて、俺はそれに宴の終わりを感じた。狡噛はというと、バーテンダーに最後の酒を振舞ってもらい、彼からうんちくを引き出すと、楽しそうに笑った。パーティーは終わった。夢は覚めた。明日からは同じような一日が始まる。多分昨日の任務の報告書を上げるところから一日が始まるのだろう。時刻は十時過ぎだった。花城たちは俺が疲れない程度を見計らって、行儀良く去っていった。
    「それで、花城たちからのプレゼントはどうだった?」
     狡噛が俺にグラスを渡しながら尋ねる。俺は素直にそれにプレゼントの包装を破いて答える。
    「……えぇと、花城はポリニャックタンブラーのセットだろ、須郷はダンヒルのネクタイ」
    「そりゃあいい」
     狡噛が言う。ちなみに彼がくれたのは、俺の生まれ年のワインだった。それも本場フランス産の。多分、手に入れるのは難しかっただろうそれに、俺は密かに笑う。マーケットを駆けずり回ったのだろうと思うと、少し愉快だったのもある。
    「それで、これからどうする? 構ってくれるんだろう?」
     狡噛が笑う。俺はそれに仕方ないとため息をついて、彼を寝室に誘った。そんな俺たちにストリップダンサーたちが口笛を吹く。バーテンダーは堅実に仕事道具をしまう。
    「そうだな、まずシャワーを浴びさせてくれ。この口紅を落としたい」
    「俺なら口紅ごと愛してやるぜ?」
     狡噛がそう言って、俺の頬を汚すそれを触る。俺はその物言いが気に入らなくて、でもため息しか出なくて、だから次のように言ったのだった。
    「シャワーを一緒に浴びようって言ってるんだ」と。
     すると珍しく狡噛はぽかんとした顔をして、手のひらからグラスを落としそうになった。別に俺だって子どもじゃないのだから分かってる。これから何をしようとしてるのかって。でも俺だって恋人をからかいたい。俺はからかいついでに狡噛の額にキスをする。そうして彼の手のひらからグラスをとって、強い酒をあおる。そうして酒くさい息を吐いて、狡噛をベッドルームに引きずり込む。
    「ギノ……?」
    「俺の誕生日なんだから俺の好きにさせろよ」
     狡噛が戸惑いを見せ、けれどすぐに意図を察したのか俺の誘いに乗ってくる。パーティーという名の乱痴気騒ぎは終わった。でも、俺たちはそれよりもずっと騒がしい日々の中に身を置いている。だったら今夜くらいはふざけてもいいだろう。狡噛が喜ぶことをしてやってもいいだろう。
    「お前とシャワーか。ストリップとキスも頼むぜ」
    「あぁ、お前が嫌がるまでしてやるよ」
     俺たちは調子良く笑いながらベッドルームに駆け込む。夜はまだ浅い。誕生日が終わるまでは時間がある、猶予がある。それまでに子どもじみた遊びをしても、きっと誰も咎めないだろう。きっと神様すら、こんな俺たちの遊びを笑ってくれるだろう。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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