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    眠れない宜野座さんのお話。
    800文字チャレンジ53日目。

    #PSYCHO-PASS
    ##800文字チャレンジ

    歌を聞かせて(眠り歌) なかなか眠れない日が続いて、花城にまで心配されて、俺は一日の休暇を与えられた。原因はとても簡単な話で、父の命日が近づいてきていたからだった。俺と似ているらしい目元は力を失い閉じられて、鍛えられたたくましい体は血に塗れて冷たくなっていった。腕をなくして出血が酷かった俺も頭がくらくらして、それほど悲壮感はなかった。現実味がなかったと言ってもいい。悪い夢を見ているとはこれだな、と思ったのも覚えている。でもあれは夢ではなかった。悪い夢でもなければいい夢でもなかった。父は俺を愛していると言外に言って、俺の目元を眺めた。幸せだった頃もそうだった。父は俺を愛してくれたけれど言葉が少ない人で、古い人だったのもあるだろうけれど、背中で語る人だった。そんな人に愛されたいと思ったのが間違いだったのかもしれない。人はそう変わらない。今だって俺は言葉少なな男を愛している。彼は滅多に愛していると言わず、セックスの最中も言葉は少ない。けれど彼は時折どうしようもなくなった時、俺に歌を歌ってくれる。眠れない俺が眠れるように、静かに歌を歌ってくれる。放浪の旅で覚えた各地の歌を、俺に歌ってくれる。
     だから今回もそれが聞きたくて、俺は目の下にクマを作りながら彼の部屋を訪ねた。最初のうちは食事をしてリラックスをして、風呂に入ってベッドでじゃれあって、何もしないで布団をかぶった。すると狡噛は心配そうに俺を見て、「眠れないのか?」と尋ねた。俺は頷いて、でも「お前の歌があれば眠れるかも」とはしゃいでみた。そうしたら、彼の歌が始まる。俺はそれを聞きながら目を閉じる。彼の胸の中にいるからそこからも声は響いて、とても落ち着いた気分だった。眠れないのは眠れないが、それでも俺はこれまでの激務から来るストレスから解放された気がした。
     こんなふうに歌をせがむのは、父にというより母にだったかもしれない。眠れないんだ、怖いんだ、そうねだった過去が思い出されて、俺は狡噛がとんとんと叩く腰にじんわり熱を感じながら、過去に愛されていたことを思い出し、今も愛されていることを思い出し、ただ、この幸せがずっと続けばいいのにと思った。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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