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    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
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    POIPOI 192

    フレ様の昔話。
    800文字チャレンジ68日目。

    #PSYCHO-PASS
    ##800文字チャレンジ

    彼女の恋人(今はいない人) 花城が酔った時、過去の恋人について語られたことがある。とてもいい人だったの、優しくて、賢明で、人を分け隔てしなくて。私も夢中で、この人と暮らす人生も悪くないって思った。復讐なんてやめて、一人の女として過ごせたらって。でもそう上手くはいかないのよね。彼、スパイだったの。私の思考を全部理解したスパイ。最後は私の手で葬ったわ。
     花城はカクテルを傾けて笑った。今日は仕事が少ない日で、狡噛と須郷は別の部署に手伝いに出ていた。それでも仕事は終わってしまって、俺たちは彼らが解放されるまでバーで待つことにしたのだ。
     笑っちゃうのは、彼も私の恋人として生きる方が幸せだって思いつつあったってこと。スパイの不安定な暮らしより、祖国を裏切って私と生きる方を選びつつあった。でも私がそれを無しにしたの。いつもの拳銃でね。
     花城は少し酒の飲み過ぎだった。仕事は少なかったが、最近あまり寝ていないようだった。徹夜が続いていたのだ。そして、その男を葬った日が近づいて来ていたのだ。
    「あなたたちは上手く行ってるの? 順調?」
    「そこそこ、かな。普通の恋人同士よりは上手く行ってると思うけど、どうなるか分からない身の上だし」
    「そうよね、それが問題よね……」
     花城が首を傾げる。俺たちは花城の恋人のように、お互いを裏切ることはないだろう。過去に俺を捨てた彼を信じるのは馬鹿らしいかもしれないが、二十年以上一緒にいると、恋人が次に何をするか分かったし、彼にしたってそうだった。コーヒーもキスもセックスも全て同列に、俺たちは過ごしていた。
    「新しい恋をしたいって思ってもね、この歳じゃなかなかね。踏み出すのが怖いの」
    「失敗したら話くらい聞くぞ、課長」
    「余裕たっぷりで嫌になっちゃうわ」
     俺たちは笑って酒を飲んだ。須郷や狡噛がやって来たのは、花城が酔い潰れて寝てしまってからのことだった。彼女も疲れていたのだろう。須郷がタクシーと専用のドローンを呼び、彼女は自宅に帰っていった。狡噛たちには何があったのか勘繰られたが、俺は何も言葉にしなかった。
     花城フレデリカは恋をしない。それいでいいじゃないかと俺は思うのだ。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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