ハロウィンの二人「そうだ、センチュリオンはハロウィンの出し物には参加しないの?」
「…私は、少し用事があってな…」
「そう、少し君の出す物を見てみたかったけど。まぁそう言うなら仕方ないね。」
「代理人、時間は大丈夫か?」
「うぉ、もうこんな時間。そろそろ皆んなの出し物を見に行かなきゃだから行ってくるよ。」
「そうか、貴方が帰ってくるのはいつ頃になるんだ?」
「順調に行けば五時くらいかな、順調に行けばだけどね。」
dollsが大規模なイベントを開催するのだ。問題が起こらない筈はない、少なくとも順調に行くとは考え難い。
「そうか、六〜七時頃になりそうだな。」
「そう思っててくれて問題無いよ。んじゃ行ってくるね、君のイタズラ楽しみにしてる。」
代理人が残していった言葉は彼女の腰を砕けさせるのに威力充分であった。
(バレている、帰ってきたあの人にイタズラをすると言うことを最初からお見通しだったの…)
しかしその為に…準備をしてきたのだ、ここで無駄にする訳には行かない。
「ヨシ。」
気合を入れ直し、帰ってくるあの人の為、彼女は黙々と準備をするのであった。
「ただいま。アレ…どうした?」
dollsらの出し物を見終わり帰ってきた代理人をまちうけていたのは、暗い自室。今までなら外出する時は明かりを消していた為、なんら違和感は無い、のだがセンチュリオン、彼女と付き合いを始めてからは半ば同棲の様な形になっている為、明かりが点っていないのはおかしい。
「センチュr…」
背後に誰か居る。ドアを開け部屋に入ってくる間に後ろに回り込まれたのか?それともドア付近にずーっと隠れていたのか…どっちしろ今はその後ろに居る人に用事がある。
「えーっと…」
その人物はこちらの背中を射程に捉えた途端背後から目を覆ってきた。
「だーれだ。」
「センチュリオン。」
「残念、違います。」
「じゃあ、俺が世界で一番愛してる人。」
「惜しい、けど今日は違うぞ。今日は代理人の血を狙う一人の吸血鬼だ。」
目の覆いが外されその姿が露わになる。
「綺麗だ。」
そこには赤紫色のドレスに身を包んだセンチュリオンが立っていた。しかしその歯は2本だけ、犬歯に当たる部分だけが鋭く尖っていた。
「代理人に、そう褒められるのはやっぱり嬉しいな。こうして着替えた甲斐がある。」
「さて、地上に舞い降りた吸血鬼さん。本題はどういたしますか?」
「あ、そうだったな。では、菓子と悪戯、どちらが良いかな?」
「残念?かどうかは分からないけど、お菓子は用意してあるよ。」
と言いつつ鞄に入れていた手作りの菓子を取り出す。
「うっ…そうか、では有り難く頂戴しよう。」
彼女は想定した返答が帰って来ず慌てている。
(このまま眺めるのも面白いかな…いや可哀想だな、助け舟でも出すか)
「今日は仕事じゃ無いけど遅れちゃってごめんな。」
「あ、ああ。こんなに待たされたんだ、菓子一つで満足する訳には行かないな。」
歩み寄ってきた彼女は首筋に目線を合わせている。
「では、どうぞお好きに。」
「じゃあ…失礼して。」
彼女が首筋を優しく噛んでくる。
「ど、どうだろう。」
手の感触だけだが軽く歯の跡が付いているようだ。
代理人「コレはキツイ悪戯だな。」
隠さなければ明日、グレーテルやマチルダに呆れられるのは必然だ。
「もう少し悪戯しても…」
「…まぁどうせ、今日の事聞かれるんだからお好きなだけどうぞ。」
キスマークと噛み跡が首に多量に付た自分の姿が脳裏に浮かび、ため息が出る。だけどそんな事も気にせず、センチュリオンは首筋にキスマークや噛み跡を残していく。
(まぁ、彼女が楽しそうだし…良いか。)
「あれ、代理人さまはどうしたの?」
「あ、ああ。少し気分が良くないらしい、今日は私が代わりに執務を行う。」
マチルダは時間になっても来ない代理人を不思議そうに思っているようだ。
「そう、でも程々にしておきなさいよ。」
「な、なっ、何故分かったんだ‼︎」
「あら、バレてないとでも?」
(こうなるならば程々にしておけば良かった…)