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    りつかさ/お揃い

    #りつかさ

     ちゅっ、ちゅむ、ぷちゅっ。
     たぶんだけれどス~ちゃんは、触れあわせるだけのついばむようなキスが好きで、だから俺もいつしか自然とそうなっていた。粘膜のところをわずかにくっつけて、ちゅうっ、て可憐な音を立てて、そうするとス~ちゃんの熟れる前のさくらんぼみたいなくちびるを、本当に今から食べちゃうよって言っているようで予感が鼻の奥まで甘くする。さくらんぼのほうからも熱心にその弾力を伝えてくれるから、なおさら俺の体は騙されて、糖分を摂りすぎた後かってくらい、もう手足がとろんと熱く重たくなってしまう。肩に触れる手の温度なんてス~ちゃんにもばれているだろうからちょっとだけ恥ずかしい。
    「ん、む」
    「っ、ふふ……」
     ふたりで身じろぎするたび腰かけたベッドが軋んで胸の底をふるわす。何度も小さなくちづけをして、時々わざと狙いを外したス~ちゃんのくちびるが、俺の口角に、頬に、あったかいスタンプを押してくれるのがくすぐったくて笑みがこぼれた。目を細めると視界がぼんやり滲む。愛おしいなって思うことは、まぶしがるのと似ている。嫌いではないけど、慣れはしない。俺にはもっと、遠いままのものだと長いこと思っていたから。
    「ス~ちゃん、」
    「あっ」
     顔を逸らして、ス~ちゃんのくびすじに鼻先を寄せた。キスの行き先を急になくしたス~ちゃんは少し意外そうな、不満そうな声を上げて、わずかに肩をすくめる。すん、と鼻を鳴らしてス~ちゃんの匂いを吸い込むと、ちょっと照れるのも知っている。やわらかい肌の匂いは、月並みだとしても甘いとしか言いようがなかった、いつもいつも。これは美味しいものなのだと、本能が知っているってことなのだろう。脈、呼吸、ス~ちゃんが生きているって証で、かすかに動く薄い皮膚、歯がむずむずして、本当は今すぐにだって噛みつきたい。痛がるし、嫌がるし、世界じゅうに愛でてもらうべききれいな体に俺ひとりの衝動で傷をつけるのは全く本意ではないから、我慢するのも苦ではないけど。俺はこの子と陽に当たるために、いろんなたくさんの無理をする。
    「凛月せんぱい」
     体を引いて俺を遠ざけようとする動きが、顔を見せろってことなんだと分かって、俺は顔を上げてス~ちゃんを真正面から見つめてあげた。うっとりと俯いたまつげの影が差して、そのひとみの色は、もう夜だ。俺のための。ぽうっと赤らんだ粘膜にふちどられ、おおきな目は殊更に熱っぽい。腿の上にス~ちゃんのゆびさきがゆっくりと添って、もうぜんぶが熱いのは俺だけでないんだって、すぐに伝わった。
    「いいですか?」
    「ん……ふふっ。うん」
     俺がいい?って聞く前に、同じことを尋ねてくれる律儀な子、阿吽の呼吸、以心伝心、そんな立派なものではなくて、ただの伝染、増幅、欲望の似たものどうしなのです。好きなことを好きなようにやって、それで一緒によろこべる人がいるって幸せを、どうにかこうにか選べてきた、その結果が目の前でとろけている赤くてかわいい果実なのだと、俺は心の中だけで昔の俺に自慢する。
     ス~ちゃんが浅く息を吐くのを見届けて、俺はス~ちゃんの襟元をくすぐるように手を伸ばした。いいって言ったくせに委ねない悪戯っ子の左手は、ス~ちゃんの右手に捕まってしまった。手の甲側からぎゅっと握り込まれて、体温がみるみる移ってきて、熱が重さになって体じゅうをかけめぐっていくのを、止めようにもス~ちゃんが勝手に加速させてしまうのだ。
    「りつ、せんぱい。私が」
    「あ。怒られた……」
     たしなめるふりして望みを主張するのが上手な子だ。ス~ちゃんは片方で俺の手を強く握ったまま、もう片方の手で俺のシャツのボタンを外そうとする。ぎこちないゆびさきが小さなボタンを抓って穴をくぐるように追いやる。お互いに向かい合って、ス~ちゃんが俺の利き手を封印しているってことは、ス~ちゃんも同じだということだ。やりにくそうにしているから、一体この拘束はいつ解けるだろうって俺は楽しみにしながら眺めているけれど、ス~ちゃんも頑ななので、たぶんこのまま完遂するだろう。
     だから、俺が左手をぐうっと持ち上げると、手首を縛るス~ちゃんの右手もついてくる。白いすべすべの二の腕が目の前に来て、俺はそこにかぷりと食らいついた。もちろん跡になるほど噛むつもりはないけれど、くびよりはなんとなく罪悪感なくできる。単純にス~ちゃん美味しそうランキング上位に入る部位だし。尖った歯の先をぐにぐに弱く沈めながら、俺はやわらかい皮膚を勝手に味わった。やっぱり甘い気がする。腕越しにちらっと見たス~ちゃんは怪訝、と表すのが正しそうな顔をしていて、俺がどんな欲望をもってこうしているのか微妙に伝わっていないことに関しては、俺はむしろ安心さえしてしまうのだった。
    「ちょっと、たべないでください。司をたべてもおいしくないですよ」
    「それはこっちが決めることだけど。でもたべないよ。たべたらス~ちゃんがなくなっちゃうので」
    「まだまだ絞る余地が……」
    「あは、気にしてる。ごめんごめん、違うよ……」
     違うよ、俺はただいつもいつも、燃えるようなひかりを俺のいちぶにしてしまえたらいいのに、その手段は何だっていいのにって、あこがれているだけ。
     なんてことはもちろん言わずに、俺はさっきまで食んでいた二の腕に、ちゅう、とくちびるを押しつけた。見えるしるしにしなくても、これがス~ちゃんへの親愛と誘惑であることは、今、世界でたった一人、ス~ちゃんだけには分かってもらえるはずだ。
    「たべちゃわない方法があってよかった」
    「もしかして恥ずかしいこと言われてますか? 私」
    「人のこと脱がせといてよく言うね。ス~ちゃんのえっち」
     ス~ちゃんがいつの間にか俺のボタンをすっかり外してくれていたので、俺はシャツの襟をはらりと肩から落として、熱を持つ鎖骨を外気に晒した。ス~ちゃんが息を呑んだのが分かったのは、もちろん阿吽の呼吸でも以心伝心でもなくて、こうして何度も心の近いところをくっつけ合って、少しずつ似ていく過程を一緒に確認してきたからだ。好きなことを好きなようにやって、それで一緒によろこべる人がいるって幸せを、いっぱい一緒に探してきたから。それだけ。これからも。
    「……凛月せんぱいのせいです」
    「だったら、お揃い」
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