ああ、またですか。
テーブルの上のカップやソーサーを片づけながら、司は浅くため息をついた。
ダイニングチェアの一脚の上に見覚えのない白い物体を見つけ、伸ばしかけた手が、ふと止まる。
(またか、で済ませるには、いささか様子が違って見えるのは)
そこにあったのはエンボス加工の施された、真新しいちいさな紙袋。
(私の思い過ごしでしょうか? 凛月先輩)
持ち主は、さっきまでこの部屋にいて、司とぬくもりを分け合ったひと。
*
凛月は司の家に、毎度と言っていいほど忘れものをする。
最初は確かハンカチだった。いつの間にかポケットから落ちてしまったのだろう、忘れたことに凛月自身も気づいていなかった。幸い顔を合わせる機会には困らない。アイロンをかけ袋に入れて次回の現場で返したところ、わざわざごめんね、と凛月も恐縮していた。
3062