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    ryuhi_k

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    ryuhi_k

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    べったー掲載「星を呑んだ」シリーズ本編外の一コマ
    陸のエピローグ的な話その3

    前話「星呑み小話7」→https://poipiku.com/315554/5310073.html
    後話「星呑み小話10」→https://poipiku.com/315554/5491746.html

    ##海王星波
    ##星呑み

    星呑み小話8約二ヶ月ぶりに見た鯨湦けいしょうは酷いものだった。
    人間の形を維持し続けることくらい、呼吸よりも容易いはずだ。けれど、今の鯨湦の身体は時折水と腐った肉が透けては戻っている。

    「……老けた?」

    少々迷ってから、伊呂波いろははわざとからかうようにそう言った。表情もそれに合うようにしたつもりだが、恐らく出来ていないだろう。
    この地での化物退治から半月程が経過した頃、結局使うことのなかった小鳥の妖とよく似たものが飛んできた。甲高い声のそれが単語で告げたのが、鯨湦の来訪である。
    嫌ならすぐ返事を返せ、ということも言っていたが、それはしなかった。明けて翌日、すなわち今こうして二人は久々の対面をしている。

    『よく分かりませんが、……酷いということでしたら、きっとそうでしょう』
    「……」
    『貴方は、少し変わりましたね……』

    そうだろうか、伊呂波は内心首をひねる。先日少し大胆なことはしたかもしれない。けれど、それとて皆――一緒に奮闘した焼火やけひ石動いするぎ、付き合いの長い旋葎せんり――が事も無げにやっているようなものだ。

    「髪が伸びたくらいだろ」
    『外見は、そうですが。……伊呂波』

    鯨湦がじっと伊呂波を見る。人では有り得ない、異形の目で。血のように赤い瞳の周りに広がるのは、あの日飛び込んだ夜の川にも似た色だ。
    いや、違う。伊呂波がこの色を見たのはもっと昔のことだ。離れるよりも、言葉をかわすよりも昔、気まぐれで深く深く潜った時に初めて見た。
    冷たい海に横たわる、独りきりの色。欲しいものに必死に手を伸ばすものの色だ。

    『このまま、あの村で暮らしたいですか』
    「……え?」
    『貴方が望むなら、私は』
    「鯨湦」

    瞬間、鯨湦には何が起きたのか分からなかった。

    『伊呂波?』

    分かるのは、どうやら伊呂波が怒っているらしいことと、左頬に何かが当たったことだけだ。

    「……アンタは、いつも、そうだ」
    『何を、怒ってるんです?』
    「俺のことなんか、全然分かってない。そうやって、勝手に、いつも!俺の返事なんか聞いてないくせに!そんな気なんか全然ないくせに!」

    鯨湦を睨みつける目から雫が落ちる。
    何時だってそうだ。そんなつもりはないのに伊呂波を泣かせてしまう。その涙も好いている……いや、きっと泣かせてしまうから、好きになるしかなかったのだろう。その源流を見なくて済むように。

    『でも、そうやって貴方は悲しむから』
    「悲しむから、今更只の人間に戻そうって?無理に決まってるだろ!もし戻れたとしても、一生アンタの手を振りほどいたことを後悔してろって言うのか!?」
    『そんなつもりは』
    「なくてもそうなんだよ!勝手ばっかり言いやがって!!」

    肩で息をする項を見下ろして、鯨湦は何も言えなくなる。
    ずっとそうだ。何もかも遅くて、何もかも悲しませる。手を離すことすら、間違っていると泣かれてしまう。

    「でも、鯨湦」

    伊呂波は顔を上げない。

    「隣にいて欲しいって、海に戻ったのは、俺だよ」
    『伊呂波……?』
    「それなのに怖いって泣いて、勝手なのは俺の方……」
    『私は、そんな風に思ったことなんて。ああ、伊呂波、私は』

    どろり、と涙のように鯨湦の顔が溶けては戻る。腐った重たい、見たくもない身体が露出してしまうのが己でも分かってしまう。

    『……私は、貴方に綺麗なものだけ見せていたかった』

    搾取する村を沈めて、腐った身体を隠して、醜い争いから遠ざけた。己以外に何も寄り付かなかったあの海の底のように、澄んだ場所に幸福があるのだと信じていた。
    けれど、それは全て鯨湦にとって心地よいだけだ。人間の伊呂波が、海の底で生きていけるはずもない。
    それなのに潜ってきてくれたから、息を止めていることに気がつかなかった。

    『私はきっと、これからも貴方を泣かせてしまう。貴方のことを、永遠に理解しきれない。……それでも、貴方を愛してる。愛してるんです……』

    あの日と同じように、巨大な身体が伊呂波を見ている。海水も肉も剥げ落ちた、生きているのが不思議な鯨が泣いている。

    「……まだ、俺が只の人間に戻ればいいって言える?」
    『いいえ、嫌です。……でも、私は貴方を穏やかに微笑ませる方法が分からない』
    「難しく考えてるんだな」
    『旋葎さんにも、言われました』

    顔を上げた伊呂波の目からは、新たに落ちる涙はない。

    「鯨湦」

    伊呂波が肉に触れる。

    「俺もアンタのことがきっと永遠に分からない。怖いってまた泣くと思う。……それでも、やっぱり、隣にいて欲しい……」

    それだけでいいよ、と伊呂波が笑う。
    制御の利かなくなっていた身体が、漸く元通り人の形をとる。

    『ええ、ええ。お願いです、私と一緒にいてください』
    「……うん」
    『思ったことは、ちゃんと言ってください。……理解できないかも、しれませんけど』
    「うん」
    『伊呂波、伊呂波』

    伊呂波を掻き抱いて泣くように叫ぶ。背に腕が回ってくるのが、これほど嬉しいのだと思ったことはなかった。
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    ryuhi_k

    DONE「一人残らないと先に進めないダンジョンって何なんですか?!」シリーズ番外編。
    前回「制限ダンジョン(※制限内容にはパーティ差があります)」直後の話。
    置いてかれF小話:制限ダンジョン(※以下略)攻略後の一幕「ではこれ、報告書です」

    クリスタルが差し出した書類を受け取ったギルドの受付は、その背後を見て眉をひそめた。

    「勝手に増員したんダスか?」
    「ああ、いえ、これはそういう訳ではなく……。ほら、ここの、これ」
    「……あー。アンタらも毎回凄い攻略するダスねえ……」

    クリスタルが指した報告書と背後を見比べて、受付は呆れたような感心したような声を上げた。
    何故受付が眉をひそめたのか、それは冒険者パーティには様々な制限があるからである。制限なく冒険者の自由意志のみでパーティを形成させると、場合によっては国家を凌ぐ武力を持つ可能性がある。それを防ぎ、冒険者という無法者達を統制する為にほぼ全ての国家で運用されているのがギルド規則であった。その一つに、パーティ人数がある。無制限にして軍隊規模にされてはたまったものではない、ということだ。勿論そんな事が出来るのなら冒険者になぞなってはいないのだろうが、予防線は張っておくに越したことはない。自由の象徴のようなイメージのある冒険者であるが、実際はこんなものである。
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