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    ryuhi_k

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    べったー掲載「星を呑んだ」シリーズ本編外の一コマ
    陸後の話

    前話「星呑み小話8」→https://poipiku.com/315554/5355684.html
    後話「星呑み小話12」→https://poipiku.com/315554/5629938.html

    ##海王星波
    ##星呑み

    星呑み小話10「……気になってたんだけど」

    何時ものように大人しく座っている伊呂波いろはがそう呟いた。

    『はい』

    鯨湦けいしょうが短く返事をする。その手はゆっくりと確かめるように伊呂波の髪を櫛で梳いている。
    ある日急に項が見えるほどに切った伊呂波の髪は、年月と鯨湦のまめな手入れの結果、女のように長くなっていた。それを毎朝鯨湦が梳り、結んで飾り付けるのが二人の日課となっている。
    男の髪を手入れして飾り付けるなんて、道楽にしても趣味が悪くないか、と伊呂波は思うのだが、こうしている時の鯨湦は顔が見えずとも随分楽しそうなのが伝わるので、されるがままになっている。それに、こうして朝を二人で迎えるのも久しぶりだ。

    「その……こうすると、似てるの?」
    『……はい?』

    鯨湦の手が止まる。
    伊呂波は口にしたことを後悔したが、もう取り返しはつかない。ここでなんでもない、と誤魔化されてくれる相手ではない。

    「いや、その……。……だって、鯨湦は、最初に見たのは、前世?前の?俺、で」
    『……』

    鯨湦は何も言わない。その沈黙が重みとなって伊呂波の肩にのしかかる。

    「ごめん、変なこと言った……」

    鯨湦はまだ手を止めたまま、何も言わない。怒るだろうか、悲しむだろうか、呆れるだろうか。
    そう思って伊呂波の胃が重くなってきたあたりで、鯨湦の手が髪から離れた。振り返るべきか迷う伊呂波は、その前に気がついた。

    「鯨湦!」

    振り返る。鯨湦の顔はそれでも見えない。何故か、簡単だ。俯いているからだ。その肩は少し震えている――笑っているのだ。声が漏れないように必死に口を押さえている――人の姿だが人のように声を出さないのに意味があるのだろうか――ようだが、一目瞭然である。

    『その……すみません』
    「怒るかなんかされるかな、と思ったからそれよりはいいんだけど……なんで笑うんだよ」
    『いえ、貴方もそのようなことを言うのだなと』
    「……?」

    鯨湦が顔を上げる。手も離したそれは、何故か上機嫌そうだ。

    『ふふ、……言っておきますけれど、以前の貴方は男性ですよ』
    「え」
    『それに、髪も長くなかった。貴方のように漁に出たり、潜ったりしてましたからね、髪なんて伸ばしてたら邪魔だったでしょう』
    「……」

    そろ、と伊呂波が目を逸らす。視線の先にはまだ畳まれてない布団がある。

    『駄目ですよ』

    鯨湦が伊呂波の肩を掴む。

    「……」
    『伊呂波』
    「……。や、なんか、俺、馬鹿みたいじゃん」
    『そんなことは無いですよ?』
    「笑ったし」
    『それは、貴方が可愛らしい事を仰るので』
    「え、ええ……」

    やはり鯨湦のことは分からない、と伊呂波は思う。

    『さ、続きをしましょう。今日はどうしましょうね』

    きっと一人で解けないようにされるのだろうと伊呂波は思った。夜まで布団に籠城出来ないように。
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    ryuhi_k

    DONEアンデッド骨×ネクロマンサー輪な擬人化パラレル。
    墓石の上、二人でダンスを:5「これ、どこ向かってんだ?」

    向かいのリングに問う。造りが良さそうな馬車は、それでも振動がゼロじゃあない。窓から覗く景色は、勿論初めてのものだ。何せまだ、リングの屋敷とその職場の往復しかしたことがない。この国も住んでる奴らも、何もかもが俺にとってはどうでもいいからそれに不満はないが、この後に訪れる二人きりじゃない時間には不安はある。

    「お前の意味不明な要望を多分どうにかしてくれる人のとこだよ」
    「男なら普通だろ」
    「えー……」

    何故かリングにはこの当たり前の欲求が理解できないらしい。そりゃ俺だって今の、リングの横の特等席を与えられてる状態は嫌じゃない。寧ろ嬉しい。だが、声、視線、動作、髪の1本ですら欲しがるようにしておいてそりゃないだろう、といいたいのも事実だ。勿論、俺の口からそんな言葉が出ることはない。この不満の言葉達すら、いつの間にかなんだかこう、リングにとって都合よく――……何か腹に渦巻いていた気がするが、どこかへ行ってしまった。そんなどうでもいいことはともかく、俺の身体が直るってんなら単純に嬉しい。というか、二人でこうして出掛けてるのは、所謂デートってやつなんじゃないだろうか絶対そうだ。俺の欠けた記憶に同じようなものは見当たらないが、そもそも前線に出ていた奴にんな経験がなくても変ではないだろう。色んな国の軍服を着て、色んな国の奴らをぶっ殺していたぶつ切りの記憶ばかりの俺に、マトモに街で暮らした経験は……多分ないんじゃないだろうか。別にそれがどうってわけじゃないが。
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    ryuhi_k

    DONEアンデッド骨×ネクロマンサー輪な擬人化パラレル。
    手術的な描写有り・全体的に品はないのでご注意ください。
    墓石の上、二人でダンスを:2切り取ったものを丁寧に繋ぐ。沢山の素材から選りすぐった一番を、まるで最初からそうだったように。自分の身体が自分でなくなくなっていく感覚がするんだと、名前のない死体は言っていたらしい。誰にでもできる手法じゃなく、誰でも受け入れられる事態じゃない。でも俺はできるし、……コイツもまあ、適性があるんだろう。

    「あのさ」

    手を止めることなく、その先へ視線を向ける。俺の下で横たわって、首だけ持ち上げてこちらを見つめる緑の、淀んだ目。瞬きをする必要のないそれは、コイツの身体が生きていない証拠の一つだ。

    「視線がうるさいんだけど。目、閉じて」

    俺の言葉に、眉を顰めつつ目が閉じられる。そのまま首を降ろしたのを確認して、手元に集中する。鎖骨付近から肩にかけて切開し、筋組織を付け足し繋いでいく。欠損を補うわけではなく、ただ足すだけの生者にはやらない行為。やれたとしても……いや、やれる人間なんてこの国でも今は俺しかいない。その手元が気になるのは当然という思いもあるけれど、……普通だったら自分の身体を弄られているところなんて凝視するようなものじゃないだろうに。それ以外でも大体……いや全部コイツの視線はうるさいんだよな。
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