Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    ryuhi_k

    @ryuhi_k

    (・ω・)

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 44

    ryuhi_k

    ☆quiet follow

    べったー掲載「星を呑んだ」シリーズ本編外の一コマ
    質の前の話

    前話「星呑み小話14」→https://poipiku.com/315554/5703292.html
    後話「星呑み小話17」→https://poipiku.com/315554/6151812.html

    ##火星焼夷
    ##星呑み

    星呑み小話15かん、かん、と鏨の音が響く。風にそよぐ草木は無く、空を渡る鳥もおらず、空間の主と伴侶以外に音を立てるもののいない此処では、実際より随分と大きく聞こえた。

    「……丹星あかほし殿、少し休まれては」

    延々と鏨を振るう丹星に、焼火やけひが声をかける。

    『なに、まだまだよ』
    「しかし……に尋ねたら、朝から一切休憩をしていないと」

    畏、虞とは丹星がその手で鍛え作った二丁の銃だ。元々は剣と鉾であったらしいが、銃が気に入った為作り直し今に至っている。神の作ったものが只の武器である筈もなく、形を変え喋ることも出来る、あやかしのようなものだ。

    『俺がそれくらいでどうこうなるものではないと、知っているだろう?』
    「それは勿論。しかし一体、何を作っておられるので?」

    人の背丈程の岩はまだ、他者の目に分かるほど削られてはいない。丹星がやろうと思えば、鏨なぞで地道に削らずともある程度までは肉のように容易く切り取れる筈である。だが、丹星はそれをしない。神という時間の制約のないものだからこそのやり方だろう。

    『俺なりの、願いの形だ』
    「願い」

    焼火が目を見開く。神が一体、何を誰に願うのだろう。丹星はそれを口にすること無く、また岩に向き直る。かん、かん、と音だけが響く。

    「――■■殿は、一体何を作っておられるのだろう」
    「お前さん、ここんとこ毎日そればっかりだな」

    汽一きいつが呆れる。もうすぐ行われる村の祭りの打ち合わせに来たのだが、焼火がこのように上の空で、何も進展がない。

    「本人に聞きゃいいだろう」
    「聞いた。だが、願いの形だとしか仰ってくれない」
    「願い、なあ……」

    汽一は先日の出来事を思い出す。神と呼ばれる存在が、一介の老人に意見を伺いに来た。嘘のような真の話だ。つまり今汽一の前で首を傾げている男は、鬼神の如き虐殺を行った大罪人ということになる。恐らく、村の誰もがそれを信じはしないだろう。あんなとぼけた、変な男が人なんか殺せるはずがないと笑い飛ばすだろう。だが、汽一だけは知っている。あの夜、空から落ちてきた焼火は化け物を殺す顔をしていた事を。鋭い爪を軽く受け止めて、楽しそうに笑った事を。

    「……なあ、焼火よ」
    「?」

    私欲の為に人を焼いた大罪人。気狂い人間を辞めたばけもの。罰と痛みを求めて泣き叫ぶ哀れな生き物。
    一体どれが本当の焼火なのだろう。汽一には分からない。

    「お前さんにとって、あの神さんは何だ?」
    「■■殿?」
    「聞き返されても俺にゃ聞き取れねえよ。そんな変な音……なのかも分からんようなのは神さんしかいないのは分かるが」
    「■■殿は……”焼火”の全てだ」

    焼火が言う。迷いのない声だ。

    「……ん?」

    そうだろうな、と納得しかけた汽一がはたと気づく。あの神が言っていた。焼火の名は――。

    「焼火、お前」
    「うん?」
    「……はあ。そりゃ神さんも人に頼りたくもならぁな」

    訳が分からない、と焼火が瞬きをした。

    「――それで結局、これは何なので?」

    完成した、と寝間着のまま手を引かれて庭に立った焼火が尋ねた。

    『言っただろう、願いの形だと』
    「と、言われても……」

    直線と曲線を組み合わせ、ずらし、捻ったような、例えるものすら浮かばない不思議な形の石柱だった。焼火の顔ほどの高さの位置には皿のように平たい部品がついている。

    『まあ、あまり形は重要じゃない。一応、これでも灯籠でな』
    「……?」

    丹星がそれに火を点ける。けれど油どころか灯芯もない。だがまるで浮くようにしてそれは静かに燃えていた。

    『焼火』

    丹星が焼火の名を呼ぶ。直した時に、忘れた本来のものの代わりに与えた名を。

    『俺は、益を作れぬ神だ。お前を狂わし、縋りつき、一時の安らぎすら与えられない。それでも……それでもだ、お前を救いたい。お前がそれを望んでいなくとも』
    「丹星殿……?」
    『この壊すしか、殺すしか出来ない腕の中でも、お前には安らかにしていて欲しい。焼火、俺は……俺は、お前が罪に泣き、罰を求めるのが、辛いのだ』
    「俺、俺は、……知っている、だろう。俺は、罪人だ。変わらない、貴殿がどんなに俺を直そうとも」

    焼火が自身の腕に爪を立てる。血が滲むが、手を離した時にはもう止まっていた。

    「俺は、俺は!貴殿に”焼火”と呼んでもらう資格すらない!名前すら忘れ去る程に人を、ひとでないものを殺した!此処にいるのは名無しの罪人だ!……ああ、分かっている。けれど、貴殿を、独りに……したくないと……そぐわない望みを……」

    焼火がへたり込む。血のこびりついた爪を涙が濡らしている。

    「俺は、貴殿の望む……”焼火”にはなれなかった。焼火とも、罪人ともつかない半端者だ。貴殿を……俺は……」
    『焼火』

    丹星が膝をつき焼火の顔を覗き込む。

    『俺は、俺の直した男に名前を与えたんじゃない。俺を独りにしたくないと泣いたお前に名を付けたのだ。……罪を忘れろとは言わない。だが、罪だけを見ないでくれ。……せめて、灯籠に火が灯っている間くらいは』
    「あかほし、どの」
    『そぐわない望みを抱いたのは、俺も同じだ。只壊し、壊さないのであれば眠っていれば良かったのに、お前を生かしたいと、共にいたいと望んでしまった。そんな手も持っていないのに』

    焼火を抱きしめる。柔らかい、加減を誤れば即座に潰してしまうような、脆い、人間の身体だ。

    『焼火』
    「……俺は……”焼火”として、貴殿と共にあっても良い……?」
    『ああ、そうでなくては俺が困る』
    「そう……そうか……。ならば、俺は、永遠に貴殿と共に」

    焼火が顔を上げる。濡れた瞳が丹星を見上げて微笑んだ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭🙏❤👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    ryuhi_k

    DONEアンデッド骨×ネクロマンサー輪な擬人化パラレル。
    墓石の上、二人でダンスを:5「これ、どこ向かってんだ?」

    向かいのリングに問う。造りが良さそうな馬車は、それでも振動がゼロじゃあない。窓から覗く景色は、勿論初めてのものだ。何せまだ、リングの屋敷とその職場の往復しかしたことがない。この国も住んでる奴らも、何もかもが俺にとってはどうでもいいからそれに不満はないが、この後に訪れる二人きりじゃない時間には不安はある。

    「お前の意味不明な要望を多分どうにかしてくれる人のとこだよ」
    「男なら普通だろ」
    「えー……」

    何故かリングにはこの当たり前の欲求が理解できないらしい。そりゃ俺だって今の、リングの横の特等席を与えられてる状態は嫌じゃない。寧ろ嬉しい。だが、声、視線、動作、髪の1本ですら欲しがるようにしておいてそりゃないだろう、といいたいのも事実だ。勿論、俺の口からそんな言葉が出ることはない。この不満の言葉達すら、いつの間にかなんだかこう、リングにとって都合よく――……何か腹に渦巻いていた気がするが、どこかへ行ってしまった。そんなどうでもいいことはともかく、俺の身体が直るってんなら単純に嬉しい。というか、二人でこうして出掛けてるのは、所謂デートってやつなんじゃないだろうか絶対そうだ。俺の欠けた記憶に同じようなものは見当たらないが、そもそも前線に出ていた奴にんな経験がなくても変ではないだろう。色んな国の軍服を着て、色んな国の奴らをぶっ殺していたぶつ切りの記憶ばかりの俺に、マトモに街で暮らした経験は……多分ないんじゃないだろうか。別にそれがどうってわけじゃないが。
    3106

    ryuhi_k

    DONEアンデッド骨×ネクロマンサー輪な擬人化パラレル。
    手術的な描写有り・全体的に品はないのでご注意ください。
    墓石の上、二人でダンスを:2切り取ったものを丁寧に繋ぐ。沢山の素材から選りすぐった一番を、まるで最初からそうだったように。自分の身体が自分でなくなくなっていく感覚がするんだと、名前のない死体は言っていたらしい。誰にでもできる手法じゃなく、誰でも受け入れられる事態じゃない。でも俺はできるし、……コイツもまあ、適性があるんだろう。

    「あのさ」

    手を止めることなく、その先へ視線を向ける。俺の下で横たわって、首だけ持ち上げてこちらを見つめる緑の、淀んだ目。瞬きをする必要のないそれは、コイツの身体が生きていない証拠の一つだ。

    「視線がうるさいんだけど。目、閉じて」

    俺の言葉に、眉を顰めつつ目が閉じられる。そのまま首を降ろしたのを確認して、手元に集中する。鎖骨付近から肩にかけて切開し、筋組織を付け足し繋いでいく。欠損を補うわけではなく、ただ足すだけの生者にはやらない行為。やれたとしても……いや、やれる人間なんてこの国でも今は俺しかいない。その手元が気になるのは当然という思いもあるけれど、……普通だったら自分の身体を弄られているところなんて凝視するようなものじゃないだろうに。それ以外でも大体……いや全部コイツの視線はうるさいんだよな。
    2872