Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    ryuhi_k

    @ryuhi_k

    (・ω・)

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 44

    ryuhi_k

    ☆quiet follow

    べったー掲載「星を呑んだ」シリーズ本編外の一コマ
    陸の後の話

    前話「星呑み小話15」→https://poipiku.com/315554/5890781.html
    後話「星呑み小話:悪食」→https://poipiku.com/315554/8172154.html

    ##水星重力
    ##星呑み

    星呑み小話17賑やかな宿場町を後にし、関所を抜ける。
    後もう少しだと言う石動いするぎに、一重かずしげは意を決して聞いた。

    「さっきの、おかしくないの」
    「お、どうしてそう思った」

    一重は少し考えるような、戸惑うような間を置いて答える。

    「……手形が白紙だった。僕たちみたいな庶民なんて大抵通れるって叔父さんも言ってたけど、それでも白紙なんて持ってこないより怪しいよ」

    出女でもない限り、関所は厳しい審査をしない。男なら無手形でも通れるが、その代わり検査が煩雑になってしまう。普段は荷運びをしているという石動がそれを知らぬはずもない。だというのに石動は荷から白紙を取り出し、受け取った役人はまるでそれに文字が書いてあるように目を上下させていた。

    「よく見ているな」
    『コイツはいつもそうだぜ。どうでもいいことまで何でも見てやがる』

    馬の形になって一重を乗せている沽猩かしょうが笑う。そう言う沽猩も、一重からするとどうでもいい事まで目ざとく見つけてはあげつらってくるじゃないか、と思うのだが、このようなものは本人は無自覚なものである。

    「そうやって何でも見る姿勢はいい。……だが、今からお前を連れて行く所は、見えるものだけが全てじゃない。手形を手配したのもあちらさんなんだが……お前が言ったとおり、俺達が見る分には白紙だ。だがお役人達にはどうも御大層な文章がつらつら書いてあるご立派なものに見えるそうだ」

    そうなんだろう、と石動は横を歩くあきらへ振った。晶は何時ものように柔和に微笑んでいる。

    「ええ、石動の言う通り。見えるものが全てではなく、全てを見ようとするのも……お勧めはしかねますね。恐らく、見すぎる前に止めてもらえるとは思いますが」

    ねえ、と晶は沽猩を見て言ったが、沽猩はあからさまにそっぽを向いた。どうも沽猩は晶の事をあまり良く思っていないらしい。そもそもとして他人を好いていないようだが、それでも理由の分かる焼火やけひのようになにかされた訳でも無い筈だ。己の事のように申し訳なくなる一重だが、ここで口を挟むと沽猩が臍を曲げて面倒になりそうだと何も言わない事にする。

    『つまり碌でもねえヤツしかいねえとこってことさ。一重ェ、オマエが行くのは奉公じゃなくて島流しなんじゃねぇのか?』
    「な……っ。お前、流石に言いすぎだよ」
    『大体なあ、オマエは何にも分かんねぇだろうが……どんどん臭うのさ』
    「臭う?」
    『俺やそこのデカブツ、猫なんかと同じモンがいるニオイだよ』
    「それって……」
    『そもそも、オマエまだ気がついてねえのか? 関所出てから、何ともすれ違ってねえだろ』
    「!」

    確かに沽猩の言う通りであった。あの宿場町の賑わいと全く噛み合わない程道は狭く、人っ子一人向かいからやって来ない。気がついてしまうと、只の平坦な道行きがまるで黄泉への道のように思えてくる。一重の背を嫌な汗が伝っていく。

    「帰るか?」

    石動が短く問う。

    「……ううん、帰らない」
    「別にここで引き返しても、誰も文句は言わんさ。俺も晶も、汽一さんも」

    嘘ではないだろうと一重は思った。うっすらそう思う程度に、この二人には世話になり、緊張も解いた。ちら、と沽猩の顔を見る。気がついたのか首を少し捻って一重と目を合わす。
    一度は己を食おうとした、決まった形を持たぬ化け物。恐ろしくない筈がないのに、何故か今は、何の形をとっても変わらぬ赤色が酷く安心できた。

    「他のところじゃ、きっと沽猩付きで奉公なんてさせてくれないよ」
    「それは確かに。……ああ、ほら、あれですよ」

    晶の声に前を見る。
    何やら前方に黒い塊が見えた。屋敷や、その壁のようには到底見えない。
    言い切ったものの得も知れぬ不安を抱えながら、段々とそれに一行は近づいて行く。
    そうして暫く後に辿り着いたのは、屋敷でも街でもなく、只の焼け跡であった。
    どういう事だろうと思いつつ、一重は沽猩から降りる。即座に沽猩は蛇の形をとり、一重の首に巻き付いた。

    『どうもどうも、長旅ご苦労さまです』

    さくさくと足音をさせて、一人の男が近づいてくる。顔に火傷らしき痕が目立つ、若い男であった。

    『晶サン、こちらのお坊ちゃんがお話の?』
    「ええ。……良い子でしょう?」

    男はじろじろと一重を見ると、にいと笑った。

    『ま、それを判断するのはオレではないんでね。坊っちゃん、くれぐれも若に失礼のないように。……さあて、ではお通ししましょうか』

    突如男の腕の中に鏡が現れる。男の火傷のようにひび割れのあるそれに、一重らが映っている。男がそれを傾ける同時に、

    「!?」

    焼け跡は消え失せ、突如大きな屋敷が現れた。言葉を失う一重の肩で、沽猩は笑っている。耳には人が集まり生きているのだろうと感じられる程度の騒音まで届いてくる。

    『ようこそ、人でないものの集まる、鏡の町へ。……どうです、驚きました?』

    男が得意げに笑う。
    人間とはある程度の恐怖と驚愕を通り越すと、何だか楽しくなってくるらしい。一重は感情の整理のつかないまま、それでも思う。
    此処ならばきっと、何でも学べるに違いない、と。

    『オマエは大したタマだよ、全く』

    それを知ってか知らずか、沽猩はそう呟いた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👍❤❤💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    ryuhi_k

    DONEアンデッド骨×ネクロマンサー輪な擬人化パラレル。
    墓石の上、二人でダンスを:5「これ、どこ向かってんだ?」

    向かいのリングに問う。造りが良さそうな馬車は、それでも振動がゼロじゃあない。窓から覗く景色は、勿論初めてのものだ。何せまだ、リングの屋敷とその職場の往復しかしたことがない。この国も住んでる奴らも、何もかもが俺にとってはどうでもいいからそれに不満はないが、この後に訪れる二人きりじゃない時間には不安はある。

    「お前の意味不明な要望を多分どうにかしてくれる人のとこだよ」
    「男なら普通だろ」
    「えー……」

    何故かリングにはこの当たり前の欲求が理解できないらしい。そりゃ俺だって今の、リングの横の特等席を与えられてる状態は嫌じゃない。寧ろ嬉しい。だが、声、視線、動作、髪の1本ですら欲しがるようにしておいてそりゃないだろう、といいたいのも事実だ。勿論、俺の口からそんな言葉が出ることはない。この不満の言葉達すら、いつの間にかなんだかこう、リングにとって都合よく――……何か腹に渦巻いていた気がするが、どこかへ行ってしまった。そんなどうでもいいことはともかく、俺の身体が直るってんなら単純に嬉しい。というか、二人でこうして出掛けてるのは、所謂デートってやつなんじゃないだろうか絶対そうだ。俺の欠けた記憶に同じようなものは見当たらないが、そもそも前線に出ていた奴にんな経験がなくても変ではないだろう。色んな国の軍服を着て、色んな国の奴らをぶっ殺していたぶつ切りの記憶ばかりの俺に、マトモに街で暮らした経験は……多分ないんじゃないだろうか。別にそれがどうってわけじゃないが。
    3106

    ryuhi_k

    DONEアンデッド骨×ネクロマンサー輪な擬人化パラレル。
    手術的な描写有り・全体的に品はないのでご注意ください。
    墓石の上、二人でダンスを:2切り取ったものを丁寧に繋ぐ。沢山の素材から選りすぐった一番を、まるで最初からそうだったように。自分の身体が自分でなくなくなっていく感覚がするんだと、名前のない死体は言っていたらしい。誰にでもできる手法じゃなく、誰でも受け入れられる事態じゃない。でも俺はできるし、……コイツもまあ、適性があるんだろう。

    「あのさ」

    手を止めることなく、その先へ視線を向ける。俺の下で横たわって、首だけ持ち上げてこちらを見つめる緑の、淀んだ目。瞬きをする必要のないそれは、コイツの身体が生きていない証拠の一つだ。

    「視線がうるさいんだけど。目、閉じて」

    俺の言葉に、眉を顰めつつ目が閉じられる。そのまま首を降ろしたのを確認して、手元に集中する。鎖骨付近から肩にかけて切開し、筋組織を付け足し繋いでいく。欠損を補うわけではなく、ただ足すだけの生者にはやらない行為。やれたとしても……いや、やれる人間なんてこの国でも今は俺しかいない。その手元が気になるのは当然という思いもあるけれど、……普通だったら自分の身体を弄られているところなんて凝視するようなものじゃないだろうに。それ以外でも大体……いや全部コイツの視線はうるさいんだよな。
    2872