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    ryuhi_k

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    ryuhi_k

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    べったー掲載「星を呑んだ」シリーズ本編外の一コマ
    質の前の話

    前話「星呑み小話17」→https://poipiku.com/315554/6151812.html
    後話「星を呑んだ 質」→https://privatter.net/p/8282595

    ##星呑み
    ##水星重力

    星呑み小話:悪食塀の上で沽猩かしょうがくあ、と欠伸をする。視線の先にいる2つの人影は、沽猩を見ることもなく本を読み上げ、書き写し、疑問と返答を繰り返している。眺めている沽猩は始まってすぐに飽きているのだが、二人は毎日のようにそれを繰り返している。
    ――沽猩と視線の先の1人、一重かずしげが暮らす町・照魔はあやかしの町である。人には見えぬひっそりと隠れた、けれど広大な町を治めるのは、宇界地聡うかいちあきという名の人間である。町を知らぬあやかしは、必ず最初にこう言う。
    「人があやかしの上に立てるわけがない。あやかしが人の下につくわけがない」と。最もな言い分である。あやかしという強大な力を持ったものが、非力な人間に従う、町という庇護下に入る必要性が見当たらない。沽猩自身も、最初はそう思っていた。
    だが、そんな心は地聡を一目見た瞬間に吹き飛んだ。あれは、人間というには悍ましすぎる何かだ。ばけもの如きでは触れることすら叶わず、あやかしとて気分次第でどうとでも出来る、けれど人間の身体を持つ形容し難い者である。それを少しも知覚することなく、今のように向き合って座りその教えを請うている一重は幸運だと沽猩は思う。

    「さて、今日はここで終いにしよう」
    「はい。ありがとうございました」

    二人が本を閉じる。主人と使用人の関係であるが、地聡は随分と一重に肩入れしているように見える。それもあってか、来てすぐの頃は睲壡とうえいの当たりが強かった。だが、もうこの地に来て5年が過ぎている。一重が何の力もない只の子供だと分かったのか、それとも単に地聡に叱られでもしたのか、今や睲壡は一重の二人目の師とでも呼ぶべき位置にいる。人のように群れ、人の真似をするあやかしが暮らすこの町ですら、睲壡ほど人を理解しているあやかしはいない。それ故に、一重から見れば睲壡はいっそ地聡よりも「普通」に見えるのだろう。それがあやかしからすれば「異質」であることを、沽猩は一重に教えていない。何事も己等人間を基準に考えるのは、人間の悪癖だ。それを指摘してやるほど一重に優しくしてやる気はない、と沽猩は伸びをしながら思う。今日は猿の形をとっていた。一重が立ち上がり縁側へと出てきたので、沽猩が塀から飛び降りその肩へと乗る。

    『毎日ご苦労なこったな』
    「はいはい」

    沽猩から見れば、金を貰っても御免だが、一重は日々が楽しいらしい。この後は地聡の夕餉の準備にかからねばならない為、やや早足で厨へと向かっている。
    一重の仕事は、地聡の身の回りの世話であった。具体的には、地聡の衣服と食事の用意、そして部屋の清掃だ。何故それをわざわざ人間にやらせるのかというと、地聡の少々行き過ぎた綺麗好きの為である。曰く「あやかしは汚れに対して鈍感すぎる」とのことだ。実際、あやかしは大なり小なり血生臭い素性な為、どれだけ身を清めても取り切れない穢れがある。触れたものにそれを一切残さないのは不可能といえるが、このような町を治めておきながらそれを言うのか、と沽猩は内心呆れている。その汚れや穢れが人の、幼い一重にはないということで一切を任されているのだ。最初は包丁の扱いすら覚束なかったが、今はもう慣れたものである。

    「今日はどうしようかな……」
    『別に何だって良いだろうよ。あの若様、綺麗好きの割には砂の残った貝でも食うしな』
    「またそれ言う……」

    地聡に砂の残った蒸し貝を出したのは、ここに来て半年も経たない頃だった。地聡が眉一つ動かさず食うのでやっとまともなものが作れた、と胸を撫で下ろした一重が口をつけた際の顔を見て沽猩が文字通り転げ回って笑ったのも、今や懐かしむ記憶である。

    『何度だって言うさ。面白いからな』
    「……沽猩って暇そうだよね」
    『何だとォ?!』

    一重の肩から飛び降りて、犬の姿になる。それの威嚇で腰を抜かしていたのを最後に見たのは、何時だっただろうか。人の成長は早く、全てがほぼ変わらないこの町で一重1人だけが着実に歩みを進めていく。

    「もう。僕は忙しいんだから」

    するりと横を抜けていく一重を慌てて追う。年々自分の扱いが雑になってきてやしないか、と沽猩は訝しむ。あやかし相手に随分と命知らずな振る舞いであるが、矯正してやろうとは何故か思えない。

    『それさ、まだ気付いてないのかよ』

    以前、こちらに顔を出した冥猩みょうしょうがそう言って呆れていたが、沽猩には何が何だか分からない。生意気な口を利きやがって、と振り上げた前脚は冥猩がそこから抜け出した為空振りに終わった。
    冥猩は沽猩のように自在に姿を変えるのではなく、この国の全ての猫の身体を使うことが出来る力を持っている。それを使って、しばしばこちらの様子を伺ってくるのだ。そうしないと汽一きいつが坊が坊がと煩いのだそうだ。

    『忙しいならよ、お勉強の時間を減らせば良いだろうが』
    「それは無理」

    きっぱりと切って捨てられる。最初に呑み込んだ時からそうであったが、一重は知識に貪欲であった。貪欲の権化、欲しがりのあやかしだと呼ばれた沽猩ですらたじろぐ程に。

    『一重、オマエよォ』

    また猿の形となって肩に戻る。

    『何をそんなに、知りてぇんだ』

    段々と子供ではない形になってきた輪郭を眺める。

    「全部」

    迷いなく、緑の目が言う。

    『……全部ってのはまた大雑把な』
    「そうだね、例えば……。そう、水は上から下に流れるけど、下から上には流れない。でも人間は山を登って降りるどっちも出来る。その違いは何か? 水が全て上から下にいくのなら、山は干上がるんじゃない? そもそも、雨は空から降るけれど、高い空にどうやって水が溜まるの? 他にも鳥のような翼をつけても人間が飛べない理由とか……そういう、全部が知りたいんだ」
    『そりゃあ……』

    不相応な願いだな、と沽猩は思った。本の中身を全部知りたいどころではない、もっと大量の、人には過ぎた領分の知識が欲しいとまっすぐに言う。

    「みんな、そういうのはそういうものだって言うから……。ここの人達も、妖術とかそういうのを使う人は何人もいるけど、でもどうしてそうなってるのかは分からないって」
    『そりゃそうさ。俺達はそういうモノなんだからよ』
    「でも、全部に理屈はあると思うんだ」

    こりゃ誰も持て余すわな、と沽猩は呆れた。だが同時に思う。

    『全く、面白いヤツだよオマエはさ』

    それに付き合えるのは、同じ底無しの自分だけなのだと。
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    ryuhi_k

    DONEアンデッド骨×ネクロマンサー輪な擬人化パラレル。
    墓石の上、二人でダンスを:5「これ、どこ向かってんだ?」

    向かいのリングに問う。造りが良さそうな馬車は、それでも振動がゼロじゃあない。窓から覗く景色は、勿論初めてのものだ。何せまだ、リングの屋敷とその職場の往復しかしたことがない。この国も住んでる奴らも、何もかもが俺にとってはどうでもいいからそれに不満はないが、この後に訪れる二人きりじゃない時間には不安はある。

    「お前の意味不明な要望を多分どうにかしてくれる人のとこだよ」
    「男なら普通だろ」
    「えー……」

    何故かリングにはこの当たり前の欲求が理解できないらしい。そりゃ俺だって今の、リングの横の特等席を与えられてる状態は嫌じゃない。寧ろ嬉しい。だが、声、視線、動作、髪の1本ですら欲しがるようにしておいてそりゃないだろう、といいたいのも事実だ。勿論、俺の口からそんな言葉が出ることはない。この不満の言葉達すら、いつの間にかなんだかこう、リングにとって都合よく――……何か腹に渦巻いていた気がするが、どこかへ行ってしまった。そんなどうでもいいことはともかく、俺の身体が直るってんなら単純に嬉しい。というか、二人でこうして出掛けてるのは、所謂デートってやつなんじゃないだろうか絶対そうだ。俺の欠けた記憶に同じようなものは見当たらないが、そもそも前線に出ていた奴にんな経験がなくても変ではないだろう。色んな国の軍服を着て、色んな国の奴らをぶっ殺していたぶつ切りの記憶ばかりの俺に、マトモに街で暮らした経験は……多分ないんじゃないだろうか。別にそれがどうってわけじゃないが。
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    ryuhi_k

    DONEアンデッド骨×ネクロマンサー輪な擬人化パラレル。
    手術的な描写有り・全体的に品はないのでご注意ください。
    墓石の上、二人でダンスを:2切り取ったものを丁寧に繋ぐ。沢山の素材から選りすぐった一番を、まるで最初からそうだったように。自分の身体が自分でなくなくなっていく感覚がするんだと、名前のない死体は言っていたらしい。誰にでもできる手法じゃなく、誰でも受け入れられる事態じゃない。でも俺はできるし、……コイツもまあ、適性があるんだろう。

    「あのさ」

    手を止めることなく、その先へ視線を向ける。俺の下で横たわって、首だけ持ち上げてこちらを見つめる緑の、淀んだ目。瞬きをする必要のないそれは、コイツの身体が生きていない証拠の一つだ。

    「視線がうるさいんだけど。目、閉じて」

    俺の言葉に、眉を顰めつつ目が閉じられる。そのまま首を降ろしたのを確認して、手元に集中する。鎖骨付近から肩にかけて切開し、筋組織を付け足し繋いでいく。欠損を補うわけではなく、ただ足すだけの生者にはやらない行為。やれたとしても……いや、やれる人間なんてこの国でも今は俺しかいない。その手元が気になるのは当然という思いもあるけれど、……普通だったら自分の身体を弄られているところなんて凝視するようなものじゃないだろうに。それ以外でも大体……いや全部コイツの視線はうるさいんだよな。
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