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    ryuhi_k

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    ryuhi_k

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    べったー掲載「星を呑んだ」シリーズ本編外の一コマ
    肆のエピローグ的な話

    前話「星呑み小話1」→https://poipiku.com/315554/4879899.html
    後話「星呑み小話9」→https://poipiku.com/315554/5431231.html

    ##海王星波
    ##星呑み

    星呑み小話:渡れぬ水が横たわる「よく治まったもんだよな……」

    山を降り、海も近くなった頃合いに伊呂波いろはがそう呟いた。理由もろくすっぽ説明されずに呼び出された今回の事であるが、全てが片付きこうして帰路についている今となっては、そんな言葉しか出てこない。

    『最初は何事かと思いましたけどねえ。勿論、あの楓星ふうせいが慌てるような事なんて旋葎せんりさんに関する事に決まっていますけれど』
    「うん……。何にせよ、探しもの……人、は見つかったし、多分仲直りした、んだよな?」

    此度の騒動は、旋葎の未練を壊しに行くと息巻いた楓星の独り相撲から始まった。そんな切っ掛けからまた星のあやかしの一体に繋がるのだから、不思議なものである。
    二人は山を降り、ゆっくりと道を歩く。特段急いで帰る理由もない。風景ががらりと変わるわけではないが、普段と違う道を鯨湦と二人出歩くのは少々新鮮でもある。旋葎と楓星の住処と違い、伊呂波と鯨湦のそれは時折場所を変える。その頻度も、方角も全てがまちまちであり、動かす度に鯱が呆れているのだが、鯨湦がそれを気にしたことはない。今の帰路は、伊呂波が髪を切ってすぐの頃に辿ったそれと真反対だ。
    暫く歩くと、段々建物の影が見えてくる。人里が近いのだろう。刻限もよい頃であるし、少々休憩でもしたいところだな、と伊呂波は思う。

    「鯨湦」
    『はい、どうしました?』
    「ちょっと休んでいかない? 折角だし……」

    伊呂波が言うと、鯨湦は不思議そうな顔をした。恐らく、鯨湦は伊呂波と違ってこれくらいの距離で休みたくなるような生き物ではないのだろう、と伊呂波は推測する。だが、

    『何故、人間の町に寄る必要があるんです?』
    「え?」

    鯨湦が発したのは、伊呂波が全く予想していなかった言葉であった。伊呂波が面食らっていると、鯨湦は更に続ける。

    『貴方、人間嫌いでしょう?』
    「え、俺は……」

    何故、鯨湦からそんな言葉が出てきたのか、伊呂波には全く見当がつかない。好いている自覚はないが、嫌っている自覚もない。そもそも、鯨湦といるようになってから、旋葎や晶といった馴染み以外の人間とろくに会話をしたこともない。それなのに、どうして鯨湦はそう言い切るのだろうか。

    『私も嫌いですし』
    「……でもアンタ、たまに出かけるよな」

    鯨湦は時折、人里で何やらものを調達してくる時がある。手に入れてくるものは、着物であったり珍しい食べ物であったり様々だが、基本的に伊呂波に与えるためのものだ。それに伊呂波は同行したことはない。伊呂波に何も告げず、ふらりと出かけ何事もなかったかのようにものをくれるだけだ。

    『ええ、はい』

    あっさりと肯定される。だが、それだけだ。鯨湦は何かおかしいと思わないのだろうか。嫌いだから寄る必要がないと伊呂波に言っておきながら、自身はそれと反対のことをする。何より伊呂波だって人間だ。おかしいだろう、と伊呂波の喉元まで言葉が迫り上がってきている。けれど、それを抑えて違う言葉を選ぶ。

    「別に俺は人嫌いじゃない、と思うけど」

    他者と話すことが得意でない自覚はある。何を言っても言わなくとも、勝手に悪いようにとられてしまう生活を物心ついた時から続けていた。それで積極的に他者を好きになるようにならないのは当たり前だ、と伊呂波も思う。けれど、それと積極的に嫌っているようにとられるのは上手く言い表せないが違う、と感じていた。

    『そうなんですか? あんな事をされてきたのに?』

    心底不思議そうに、鯨湦は聞き返した。

    「それとこれとはちょっと……別だと、思う。あの村が変だった、だけで」

    広大な海に面しているのに、いや、海しかなかったからだろうか。閉鎖的で、歪んだ社会であったと、今なら思える。鯨湦が押し流さなければ、それに疑問を抱かず死んでいったのだろう。好きも嫌いもなく、ただそういうものだと受け入れて。

    『何処も大して変わりはないと思いますけれど……』
    「そんなことないだろ。それにほら、嫌いだったら旋葎のとこに行ったりしないし……」

    言いつつ鯨湦の顔色を窺うが、変わりはない。黒い異形の目が、伊呂波を見つめている。とうに慣れてはいるが、それでも時折末恐ろしいと感じる目だ。

    『そうかもしれませんね。……でも伊呂波、二人の元へ行く時に通るあの里の空気は、苦しいでしょう?』
    「それ、は……」

    そんなことはない、と伊呂波に言えなかった。あまりにも伊呂波の知っている人の暮らしと違うそれに、戸惑いを抱いた覚えは確かにある。自分との違いに、苦しくならなかったとは言えない。それを思えば、鯨湦の言うように己は人嫌いなのかもしれない、と伊呂波は思う。先程まで違うかもしれない、と思っていた気持ちが傾いていく。
    けれど、その事実以上に伊呂波を打ちのめすものが、そこにある。

    「それはそうかも、しれないけど」
    『でしょう? ですから、このまま真っ直ぐ帰りましょう。私達の家へ』

    異形の目が、異形のものが、そこにいる。伊呂波を見つめて、嬉しそうに笑っている。やはり自分の思った通りに人嫌いだったのだと、確信したように、満足気に。まるで伊呂波を、孤立させておきたいように。

    「……」

    思わずしゃがみ込む。まるで石でも背負っているかのように身体が重い。顔を伏せたことで視界を覆った髪の毛を一瞬、格子のように錯覚する。鯨湦に乞われて伸ばしている髪――鯨湦が作った、伊呂波のための檻だ。
    鯨湦は伊呂波に沢山のものを与えてくれる。村の外に世界があることも、見たこともない希少品も、食べたことのない珍味も何でも、与えてくれる。けれど、伊呂波に選択肢を与えてくれない。選択肢が存在することを、鯨湦自身も分かっていないのかもしれない。

    『伊呂波? どうしました? 立てます?』

    鯨湦の手が伊呂波の肩を揺する。優しいそれが、酷く気味が悪い。
    その優しさを求めて鯨湦の手を取ったのは伊呂波の方だというのに。近くても遠い、何もかもが違う生き物だと最初から知っていたというのに、今更こうして打ちのめされている。最低だ、と伊呂波は思う。
    旋葎達とも全く違う、この埋められない溝をどうしたらいいのだろう。伊呂波には分からない。

    『無理そうですね。なら、おぶっていきましょうか』

    どこか嬉しそうにそう言いながら、鯨湦が伊呂波を背負う。
    一人で立てぬこの状況がきっと、自分に似合いなのだろうと伊呂波はぼんやり自嘲した。
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    ryuhi_k

    DONEアンデッド骨×ネクロマンサー輪な擬人化パラレル。
    墓石の上、二人でダンスを:5「これ、どこ向かってんだ?」

    向かいのリングに問う。造りが良さそうな馬車は、それでも振動がゼロじゃあない。窓から覗く景色は、勿論初めてのものだ。何せまだ、リングの屋敷とその職場の往復しかしたことがない。この国も住んでる奴らも、何もかもが俺にとってはどうでもいいからそれに不満はないが、この後に訪れる二人きりじゃない時間には不安はある。

    「お前の意味不明な要望を多分どうにかしてくれる人のとこだよ」
    「男なら普通だろ」
    「えー……」

    何故かリングにはこの当たり前の欲求が理解できないらしい。そりゃ俺だって今の、リングの横の特等席を与えられてる状態は嫌じゃない。寧ろ嬉しい。だが、声、視線、動作、髪の1本ですら欲しがるようにしておいてそりゃないだろう、といいたいのも事実だ。勿論、俺の口からそんな言葉が出ることはない。この不満の言葉達すら、いつの間にかなんだかこう、リングにとって都合よく――……何か腹に渦巻いていた気がするが、どこかへ行ってしまった。そんなどうでもいいことはともかく、俺の身体が直るってんなら単純に嬉しい。というか、二人でこうして出掛けてるのは、所謂デートってやつなんじゃないだろうか絶対そうだ。俺の欠けた記憶に同じようなものは見当たらないが、そもそも前線に出ていた奴にんな経験がなくても変ではないだろう。色んな国の軍服を着て、色んな国の奴らをぶっ殺していたぶつ切りの記憶ばかりの俺に、マトモに街で暮らした経験は……多分ないんじゃないだろうか。別にそれがどうってわけじゃないが。
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    ryuhi_k

    DONEアンデッド骨×ネクロマンサー輪な擬人化パラレル。
    手術的な描写有り・全体的に品はないのでご注意ください。
    墓石の上、二人でダンスを:2切り取ったものを丁寧に繋ぐ。沢山の素材から選りすぐった一番を、まるで最初からそうだったように。自分の身体が自分でなくなくなっていく感覚がするんだと、名前のない死体は言っていたらしい。誰にでもできる手法じゃなく、誰でも受け入れられる事態じゃない。でも俺はできるし、……コイツもまあ、適性があるんだろう。

    「あのさ」

    手を止めることなく、その先へ視線を向ける。俺の下で横たわって、首だけ持ち上げてこちらを見つめる緑の、淀んだ目。瞬きをする必要のないそれは、コイツの身体が生きていない証拠の一つだ。

    「視線がうるさいんだけど。目、閉じて」

    俺の言葉に、眉を顰めつつ目が閉じられる。そのまま首を降ろしたのを確認して、手元に集中する。鎖骨付近から肩にかけて切開し、筋組織を付け足し繋いでいく。欠損を補うわけではなく、ただ足すだけの生者にはやらない行為。やれたとしても……いや、やれる人間なんてこの国でも今は俺しかいない。その手元が気になるのは当然という思いもあるけれど、……普通だったら自分の身体を弄られているところなんて凝視するようなものじゃないだろうに。それ以外でも大体……いや全部コイツの視線はうるさいんだよな。
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