楽園夏羽は歩いていた。
空希と森の奥をずっとずっと。
いつしか道から外れて、獣道に立っていた。
夏羽は問いかけた。
「帰ろう」
しかし、空希は夏羽の言うことを聞かなかった。夏羽は思った。
「(あれ、そもそもなんで俺はここにいるんだ)」
空希に今度は違う質問を投げかけた。
「空希、俺はなんでここにいるんだ?空希もだ」
空希は無言だった。気づけばあたりは真っ暗だった。
空希に無視されて、落ち着かない。
「(おかしい…空希はこんな奴じゃない……)」
夏羽がそう感じていると、空希は
「おかしくないよ。ここは御前の記憶の隔離された場所だから」と答えた。
空希の話してくれた声に安心しつつも、意味不明な発言な恐怖も感じた。
死んだ方がマシだ。
「空希、俺を殺してくれ…!!!!!!!!!!」
夏羽がそう叫ぶと、空希はそれに振り向いた。夏羽は空希の顔を見て安堵した。
片目があるのに、まるで俺が見えてないかのようだ。焦点が合っていない。
それどころか、俺の気持ちを汲み取ろとしていない……こんなの空希じゃない
「御前…なんでそんなか」
「御前の声が聞こえたから。行くぞ」
夏羽は不安に駆られつつもなんとか落ち着いた。空希とまた歩き出した。
おかしいおかしいおかしいおかしいおかしい
おかしいおかしいおかしいおかしいおかしい
おかしいおかしいおかしいおかしいおかしい
怖い。逃げたい。安心を欲しい解放されたい
そう考えながら数時間歩き、前を向くと一軒の民家を見つけた。
トタン屋根からして昭和に立てられたような古めかしい民家だ。
空希はずっと歩き、その民家に入った。
夏羽も空希と一緒に入るが、中を見てギョッとした。
あちらこちらにヒビの入った骨や頭蓋骨があり、血溜まりができていた。
人っけひとつもない中なのに
空希は、「すまない、俺の__」と言い、骨を近くの袋に入れていった。
数十分も経たないうちに、骨は片付けられた。
次に水道の近くにあったボロ雑巾を濡らし、空希は血溜まりを拭き出した。
たんたんとこなす空希の行動に夏羽は立ちくらみを起こして気持ち悪くなった。
全てが終わったかと思うと、空希は雑巾を投げ捨て、夏羽のところに行った。
夏羽が空希の顔を見上げた。
いつもの顔だった。
「御前を怖がらせるつもりは無かったんだ」
空希は言った。そして近くの椅子に夏羽を誘導し、座らせた。
「ここは何処なんだ」夏羽が聞いた。
空希は「さっきも言ったけど、民家のことだよね。ここが終着だよ。骨は俺の先輩」
夏羽は泣き出した。空希がおかしくなってしまったからだ。
確かにいつもおかしなことをして大人しくして欲しいと常日頃は思っていた。
でもこんな空希を夏羽は見たくない。こんなことになるならいつもの空希の方がマシだ。
どうして、俺の記憶……
まさか俺がいつまでも過去に囚われているから?空希は俺と二人きりになるための場所を見つけてくれたのか…?
空希の親切は昔から不器用だ。もしそうなら彼には感謝しないといけない。
「ありがとう、空希」
「どうってことないよ。怖がらせてしまってごめん。ただ、夏羽がいつまでも大事な人の死で悲しんでたから……
俺の人生に置いて大事な人の悲しい涙はもう見たくなかったんだ…でも結果として、御前を泣かしてしまった……」
空希がしゅんと落ち込んだ。
「いいんだよ、空希。俺は御前に感謝しなきゃいけない。謝らないといけないのは俺だ。いつまでも弱虫でごめん、空希」
夏羽は空希を抱きしめて言った。空希も泣いてしまった。
そして二人は眠りについてしまった。
あぁ、もうこんな日がずっと続けばいいのに