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    白丸.

    最近は小説が多いです。

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    白丸.

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    過去作。昔、noteで書いたもの。

    ホラー、虫の描写注意。

    食事会短編のホラー小説。虫の描写や陰鬱な表現などがあります。大丈夫な方がいればどうぞ。

    俺が目を開けると、目の前には黒髪の男の子が座っていた。
    「壱村先輩、今日は僕との食事会にいらっしゃってありがとうございます」
    目の前の男の子はそう言った。服も顔も見たことがある…
    「お前は…勇翔か。なんで…」
    「えへへ、そうですよ。壱村先輩も元気そうですね」
    ずれたような返事をされ、俺は妙な違和感を感じていた。冷や汗をかいた。

    周りを見ると、よく海外テレビで男女の登場人物がディナーをする時に使われるような広々としたレストランだった。大体は食事を終え、指輪でも見せながら男が女に結婚を申し出るだろう。ベタ展開だが、今回の雰囲気は異様だ。

    誰もいないし、俺と勇翔だけ。もしかしたら奥の厨房に料理人やスタッフでもいるだろうが、音も一切聞こえない。赤いカーペットが緩やかに壁ガラスと一緒に円を描き、テーブルや椅子もそれに沿って順序よく置かれていた。ずっとずっと奥に続いている。
    そして少し暗い。奥に行けば行くほど闇だ。目の前で座ってる勇翔もあの闇から来たかのよう。

    怖かった。

    「勇翔、俺は、お前に…あー……なんて言えば良いんだ。えっと…」
    この異様な空気を少しでも変えたく、俺は話しかけた。何も思い浮かばない。後悔した。
    俺は自分を悔やみ、彼を見た。勇翔は微笑んでいた。

    「壱村先輩は変わりませんね。僕はそんな先輩が今でも好きですよ」
    淡々と答える勇翔の目は死んでいた。あの頃と同じ目をしていた。真っ暗で正気のない目。でもなぜか…懐かしく、愛おしく、感じる表情だった。それでも怖いのには変わりないが…
    勇翔は今何を感じているんだろう、考えているんだろう。俺をどう見てるんだろう。そしてなぜ自分はここにいるんだろう。
    ずっと考えていたが、答えは見つからず、俺は外を眺めた。

    今にも雨降りそうな曇り空の夜にどこかの原っぱが見えた。ずっと続いている。見たことがない景色だった。俺はこんなところ知らない。余計に不安になり、俺は顔を下に向けた。

    すると目の前に皿が置かれた。前菜のサラダだった。俺が顔を上げた瞬間、奥のドアが閉じる音がした。

    「ここのサラダ、ドレッシングが酸っぱいけどちょうど酸味が効いてて美味しいんですよ」
    と勇翔は答えた。ごぼうとさやえんどう、空豆のサラダ。豆ばっかだ。
    勇翔はすっとフォークで野菜を刺し、口に運んだ。「美味しい」と勇翔は言った。
    俺も恐る恐るフォークでごぼうを刺し、口に運んだ。しかしそれはごぼうではなかった。
    「う゛ッッ……!!!」と俺は近くのナプキンで、口からごぼうを出した。

    コオロギだった。サラダを見ると、それはサラダではなかった。コオロギや緑虫など虫しかいなかった。しかも死んだ虫。水を飲んだ。水は普通だった。安心した。

    帰りたい。勇翔に変な姿も見せてしまったし、今ここにいる勇翔が俺の知っている勇翔なのかも分からない。感情が常に揺れ動く。自分の目の前にいる子は俺がずっと会いたかった後輩だったのに。

    こんな形での再会は望んでいない。これなら二度と会わないほうが良い。

    「壱村先輩、お気に召しませんでした?」と勇翔は話しかけた。恐る恐る勇翔の方を向く。サラダを綺麗に完食していた。自分の皿には相変わらず虫がいる。

    「あ、すまん。ちょっとびっくりしてな…最近疲れてて……」と俺は答えた。嘘ではないが。今ここでこんなこと言っても言い訳にしか聞こえない。本当に怖い。
    「え!そうなんですか…大丈夫です?無理しなくても良いですよ。じゃあちょっと店員を呼びますね。待っててください」と勇翔は、奥を振り向き、呼んだ。声がいまいち聞こえない。勇翔の声を聞いたスタッフが現れたが、なぜか顔が隠れていて見えなかった。髪?それとも帽子?分からない。

    「すみません、彼に〜合わなかったようで…〜〜そうですか?あ、ありがとうございます。違うメニューで」勇翔は、隣にいたスタッフと話していた。そもそもこれはスタッフなのか?もし人間じゃなかったら…目の前にいる勇翔も勇翔じゃなかったら……
    そう考えると、頭がぐらっと揺らいだ。
    パッと目を開くと、目の前の虫がいた皿は無かった。スタッフもいなくなっていた。
    「今度はメインディッシュとスープですよ。ここはスープは前菜として出さないんですよ。面白いですよね。でもとても軽やかに飲めるスープです。良いですよ」と勇翔は答えた。
    どこか引っかかるような言い草である。

    「……」
    俺は、もう泣きそうだった。情けないが、泣いて許されたい。俺がぐっと堪えていると、また皿が置かれた。ステーキ?と付け合わせにエビのグリルが少しあった。そして隣には、ライスとコーンスープ。俺がまた頭(こうべ)を上げると、やはりスタッフはもういなかった。

    仕方なく近くに置いてあったナイフでステーキを切ってみた。そして切り口から肉の側面を何気なく見てみた。ほぼ生肉…
    なんだこれ。そして一口、食べてみた。…え、生肉ってこんなに柔らかいのか?驚いた。
    ていうかこれどういう調理法なんだ?表はよく焼けているのに…レアよりも中がほぼ焼けてない。こんな肉、食ったことない。

    「美味しいですよね、死肉」
    「………」勇翔の発言で背中が凍りついた。

    …俺たちは確かに軍人だった。人肉を食ったことはもちろん無いが、死肉は嫌でも見てきた。味方が死んで火葬、敵を殺すと勝利への加点になり、俺たちの味方が喜ぶ。そんなこと考えると、今にも自分の口に入っている肉を吐き出したくなった。まるで、

    まるで死んだ人肉を食ってるかのような気分になったから…

    「どうしたんですか、壱村先輩。顔色が悪いですよ。やっぱりメインディッシュは美味しくありませんでした?でもまぁ…壱村先輩の料理に比べると確かに美味しくありませんね」

    ハッとして、俺は顔を上げた。勇翔は心配して俺を眺めていた。
    「…いや、そういうわけじゃ…」

    気付けばまた皿が無くなっていた。さっきの皿、チラッと勇翔の方見ていたが、あいつは完食していた。頭でずっと考えていた。この状況はどう考えてもおかしい。どうしたらこの状況を打破できるのだろうか。どうしたら……

    「さぁ最後ですよ。今日は特別です。デザートにケーキが出るんです。きっとここのケーキはこだわってますよ♪」満面の笑みで勇翔は話した。

    昔の勇翔もケーキが大好きだった。俺が軽く材料を用意して、ジャムで作ったケーキを彼はいつも笑顔で食べてくれた。もっと、もっと美味しいもの食べさせたかった。

    「いつか本物のいちごでケーキを作ろう、勇翔」そう約束して、俺はちゃんと約束を果たした。勇翔はまた食べたいと言った。来年にまた美味しいいちごが出るから、と勇翔に話すと、勇翔は笑顔を見せて喜んでいた。

    二度の約束を果たせなかった。勇翔は目の前で、俺の目の前のでーーーーー……

    「あ、来ましたよ」カタッと置かれたケーキ。生クリームがスポンジを隠すほどデットリと乗っており、切ったいちごが散りばめられている。上には大きく赤々としたいちごが乗っていた。勇翔は、何も気にせず食べ始めた。

    「美味し〜い!」あいつの唇が生クリームの油でぷっくりと光っていた。

    「勇翔…」俺は、不安を消して話しかけた。勇気がなかなか出ない。

    「どうかなされました?先輩」

    「勇翔、今日はありがとう。俺はお前に会えて良かったよ。少し腹があまり減ってなくて料理があまり食べてなかった。それはすまない。だが、お前に聞きたいことがあってな…」

    「良いんですよ、先輩。それで、聞きたいこと、とは?」

    俺は息を呑んだ。また一つ、冷や汗が俺の首筋を通った。
    「俺は勇翔のことが大切だ。でもなんだが…今目の前にいる勇翔が俺の知ってる勇翔ではない気がする。たしかに昔からお前は純粋無垢で他人をよく慕う。慕いすぎて、俺も驚いことはあった。だが今日のお前は、俺が知ってるあの時の勇翔とは違う。お前は…」

    「何者なんだって聞きたいんですか?ふふ」勇翔は話した。

    「でも僕は勇翔ですよ。水色(みなしき) 勇翔。あの時、20歳で死んだ人間です。貴方を愛するあまり、無茶なことをして死んだ哀れな人間です」

    「いや、哀れじゃ……」

    「俺が守りきれなかった、俺の方が哀れだって言いたいんですか?先輩はやっぱり僕の愛する人として、出来すぎていますね。人間らしくて、とても良いです」

    「………」

    「でもまぁ最後になりますし、貴方に伝えたいことを伝えときますね。あ、ご馳走様です」
    また皿が消えた。いつの間にかナプキンもフォークもナイフも消えていた。

    「壱村先輩」

    「…」

    「貴方は」

    「……」
    目を閉じた。手汗が酷かった。怖い、怖い。



    「他人を狂わせすぎですよ」











    「…………ッッッッ…!」ばっと目を開けると、そこは殺風景な自分の部屋だった。

    「…え、な、え………」俺は頭の処理が追いつかず、辺りを見渡した。自分の部屋だってことが確信に変わり、やっと落ち着けた。

    「夢じゃない…のに、なんだあれ……俺の妄想…?妄想にしては出来過ぎているが…」俺はそんなことをぼんやりと考え、近くの小さな台にある深い緑色の物を見た。

    「これは…」勇翔や俺が軍人時代に使っていた帽子だった。なんでこんなところにあるんだ。

    俺が帽子を手に取り、すっと上げると俺は絶句した。

    コオロギが死んでいた。
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