無題「凛、お前はいい子だなぁ…きっと大人になるといい人を見つけて幸せになるだろう」
「偉いわ、凛。あなたはとっても偉い。病気に負けないで頑張ってるんだもの。
私たち、ママとパパの誇りだから。
凛、大好きよ」
遠くで自分の母さんと父さんが優しい声をかけてくれた。
「あは…は……母さん……父さん…」
母さんと父さんはこの世にもう居ない。だけど、机に大量にある希望が俺をいつも幸せにしてくれた。いつだってそうだ。俺は一人じゃない。希望がそれを教えてくれる。
「野菜…………次はアイスにするか………」
机の上にあるアイスを細かく叩き割り、粉状になったそれを近くの紙切れで、真っ直ぐに並べる。そしてその紙切れを丸め、鼻を近づけ、吸い込む。
「っはぁはは!!!!!!
あーーー俺ってなんて幸せなんだ!!!!
いつでも家族に会える、いつでも…いつでもあの時の………」
そう叫んだ途端、俺はガクンと倒れた。
……OD(オーバードーズ)だ。
「起きろ、凛司。起きろ!!!!!!」
でかい声でルアに起こされ、俺は「ぁあ、ルア…久しぶりだな」と声をかけた。
ルアは「ッチ、また薬なんか使いやがって…あれほど乱用するなと言ったろ、クソ野郎」と、怒号のように、俺に嫌味ったらしく言った。加えて「俺のいないところで薬物吸うとは、お前もなかなかいい度胸してんな」と最後に言い放った。
俺は「あーあー聞こえねぇー」と耳を塞ぎ、ルアの反感を買っていた。ルアが俺の首を締め上げ「俺はいつだってお前を殺せれるんだぞ。いい加減その腐った脳味噌で考えろ」と言い、ばっと突き放しながら別の部屋に向かった。仕事か……
「やれやれ……」俺はルアの言った言葉を思い返した。簡単に死ねない体質だからだろ?何を今更……と俺は感じながら、薬物のことを思い出し、起き上がって机を見た。
あれ、ない。机の中やベランダ、クローゼット、ベッドの下を探してもなかった。
「……ッあ」そして頭に血が上ったか、鼻血がボタボタと垂れてきた。
「副作用か…おかしいな………いつもならこんな時に来ねぇのに」
垂れた鼻血を拭いつつ、俺はルアがいる方向に向かった。
ルアはやっぱり仕事をしていた。
「何しに来たんだよ…ってお前……鼻血垂れてんじゃねーか…」ルアは文句を言いながらも俺の鼻の根元を掴み、鼻血を止めようとしてくれた。
「…」
「喋んじゃねーよ、ぶち殺すぞ」とルアはイライラしながら返事を返した。相変わらず片手で煙草を吸っている。
数分後、ルアは手を離し俺の隣に座った。
「どうせ薬を探してたんだろ。てか、お前の血、鉄くせぇ……鼻洗ってこい」
俺は「あ、あぁ…」と言い、洗面所で鼻を洗った。ひっどい顔…
青ざめて目にクマもある。老けた顔はしてなかったが、なんだか今にもまた倒れそうな顔だ。
「母さんと父さんがこれを見たらどう思うんだろうか」
俺はふと感じた。
俺が小学生か、ガキの頃に、両親は交通事故で他界した。葬式で初めて泣いて、泣き終わったあとは婆さん家に預けられ、そのあと俺は……俺は…………
…気づけば、こんなことになってしまった。
包帯を解き、体を見る。
至る所に切り傷と打撲跡があり、体のど真ん中には縦に傷口がある。血だらけでベタベタしている。
腹の切り傷から垂れた血を舐めた。
不味かった。
(続)