夜の10時………
カマエルはいつもよりも遅い時間で帰ってきた。暗い部屋、電気をつけながら彼は「ただいまー」と、声をあげた。
階段を上りながら「サマエル、寝てるか?」と部屋に行く。しかしそこには誰もいない。
まるで闇に染まりかけた、そんな暗い暗い空間がずっと広がっていた。
首を傾げながら彼がベッドに向かうと、足に生温い感触があった。
また電気をつけ、彼が床を見る。
そこには点々と滴り落ちていた血液があった。少しパニックになったが、なんとか「サマエル!」とカマエルは声を張り上げた。
異常を察知した彼はリビングに向かったが、そこにも彼の姿はない。ベランダや物置き、色んなところを見て回るが姿は無い。
残るはバスルームだけだった。
彼が電気をつけ、浴室に入る。すると、そこには腕にとんでもないほどの傷をつけ、顔を下に向けたサマエルの姿があった。ワイシャツの袖と床には、さっきの血が至るところについている。
「サマエル………お前…」
カマエルは目を丸くさせ、サマエルの腕に触れた。冷え切った体にカマエルは驚き、手を離してしまった。
「す、すまん。サマエル…でも、お前こんな時間に何やってるんだ。
返事をしないと私も心配をする。
返事はしてくれ、頼むから…」
と彼が言うと、サマエルは「ごめん、カマエル」と片手に持っていたカッターナイフを握り締めた。
「最近、どうもおかしいなと思ったら、お前夜な夜なこんなことしていたのか…?
私がいるのに………やめてくれよ。
私はお前の血も暗い顔も見たくない」とカマエルは説得した。
サマエルが顔を上げ、彼はその顔を見た。
目から赤い光が消えていた。
ただただ黒かった。
「サマエル、何があったか?」と彼が聞くと「………………堕天使でごめんね」と掠れた声で謝った。カマエルは「どういうことだよ、私に謝っても意味ないぞ」と返事をした。
「…そうだね。終わったことだもん。君ならそう言うと思ってたよ」とサマエルは自分を嘲笑うかのように鼻で笑って答えた。
「とりあえず、リビングに向かおう。それで一緒に温かいもの飲んで……一緒に寝よう。
…………お前がいないと………
…………………
お願いだ………お願いだから…
自分を傷つけるような行為はしないでくれ」と、彼は懇願するようにサマエルに言い放った。
サマエル自身、彼の意見には共感した。
しかし、カマエルともう同じ天使じゃないことに罪悪感を感じてしまっていたのだ。
白いスーツの袖は赤く染まったまま。
サマエルの目も相変わらず黒いまま。
カマエルは今朝入れた紅茶を温め直し、サマエルに渡した。
サマエルは紅茶の水面に映った自分の顔を見てギョッとした。そして、カマエルの方を向いた。
「君にこんな酷い顔を見せてたなんて…本当に僕ってどうしようもないね……」
サマエルはまた俯いたが、カマエルに「昔も今も変わらないよ。私も見た目だと昔と今じゃあ少し違う。でもそれがどうしたんだよ
関係ないさ。」と言われ、返事をした。
紅茶を何とか飲み干し、2人で部屋に戻った。
ずっと明るいままがいい、とサマエルは暗い部屋見ながら自分の顔を思い浮かべそう思った。
2人は眠りについた。
また次の日に。