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    ツキシロ

    @tk_mh123

    ツキシロのポイピクです。
    まほ晶♀の文章を投げる予定です。

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    ツキシロ

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    ガルシア博士×アシストロイド晶♀。パラロイ軸本編後、ラボに残った晶。約五十年後、博士が亡くなった後、旅に出ていたオーエンとクロエがラボを訪れる話です。捏造多数。晶はカルディアシステム搭載です。

    #まほ晶
    phosphorescentLight
    #フィ晶
    fiche
    #まほやく男女CP
    Mahoyaku BG CP

    パラレルワールド・スターチス 博士のことですか?
     そうですね、とってもお優しい方でした。私たちアシストロイドのことも、友人のように扱ってくださいました。アシストロイド差別について、何度か講演などもしていらっしゃいましたが、あれは本当に、仕事だからやっていたのではなく、私たちアシストロイドのことを、生活のパートナーとして思っていてくれたことは、ラボラトリーの中の人間も、もちろんアシストロイドも、誰もが知っていることです。
     それ以外のこと? もうお亡くなりになった方のことを話すのは憚られますが……そうですね、博士が受けていらっしゃったお仕事ですから……とても、真面目な方でした。真面目、といいますか、本当に研究がお好きなんだな、と思うことが多々ありました。研究だけではなく、先ほどのような講演やメディア出演、ラボの中での会議など、寝る間もない時期というものが、一年の間に何回もありました。それでも、ご自分の興味があることを見つけると、目がきらきらと輝いて、そのことに集中して、三日も寝ない、ということもありました。ええ、そういう時は、私や、その他の博士の助手を務めていたアシストロイドが、無理矢理にでも寝室にお連れしました。脳波や呼吸、脈拍などを感知していれば、さすがにもう休ませたほうがいい、という潮時は、私たちアシストロイドにはわかりますから。そのために博士は私たちをおそばに置いてくださったのだと思います。
     お人柄は、先ほどもお話しした通り、とてもお優しい方でした。私たちアシストロイドにも分け隔てなく接してくれました。また、研究職の方には多いのかもしれませんが、そうですね、これは、私が五十年ほどラボで働かせていただいて思ったことなのですが、神経質な面がありました。たとえば、夜中に博士の寝室から大きな音がしたので、見に行ったことがありましたが、床に転がって腰を押さえて痛そうにしていらっしゃいました。どうしたのか聞いたところ、天井のシミが気になるから椅子に乗って消そうとしたら、バランスを崩して転がり落ちてしまったということでした。
     もういいですか? あの、あとは私よりも、先ほどの双子のアシストロイドに聞いた方が、興味深い話が聞けると思います。



    「つまらない」
     オーエンはそう言ってメモリースティックを手の甲のポートから外した。ぽい、と無造作に床に放り投げるから、慌てて拾い上げる。研究室の中は多くの書類や本で溢れている。紙が贅沢品となった今では珍しいものたちだ。もちろん、タブレットやディスプレイなどもあるが、旧式のものも多く、この部屋の歴史を感じる。
     まるで人間のように顔をしかめながら、オーエンが隣の部屋に歩いていく。俺もこめかみにメモリースティックを差し込んでみる。音声ファイルがひとつだけ。そこからは懐かしい友人の声が聞こえた。恥ずかしげなそれは、メディアの取材の記録のようだ。
     俺の小指よりも短いメモリースティックは、アシストロイドの身体の決まったポートに差し込むとデータを再生できる。ボディの機能によっては、目から映像をスクリーンや壁に投影して鑑賞することもできるのだが、俺にはそんな機能はない。
    「オーエン、待って!」
     後でじっくり聞こうと思い、スティックをポケットにしまう。この部屋は、オーエンが自由に見られるように、片付けてないでおいてくれたと聞いている。こんなに物が多いなら、これひとつ持ち帰ったってわからないだろう。あるいは、オーエンは、連絡をくれたファウストという人から、ある物は自由に持っていっていいと言われているのかもしれない。きっと、機密事項はもうこの部屋には残っていないだろう。
     きん、と音がして、薄暗かった隣室にセンサーライトがともる。俺は、思わず声を上げそうになり、オーエンの背中に触れる。大きなゲーミングチェアに、同じ顔をしたアシストロイドが座っている。十歳くらいの子供の見た目をしていて、髪は黒く、肌は雪のように白い。
    「これって……」
     先ほど声を聞いた友人から、話を聞いたことがある。自分より前からガルシア博士のお世話をしていた、双子のアシストロイド。とても賢くて強くて、仲が良くて、人間のようにお茶目だと。名前は確か……。
    「スノウ、ホワイト」
     吐き捨てるように呼んで、オーエンは整った眉根を寄せる。スノウとホワイトには、特にボディに損傷は見受けられない。顔立ちは天使のように可愛らしく、まるで、眠っているようだった。正確には、俺たちアシストロイドはそれをスリープと呼ぶ。だけど、もしかしたら、スノウとホワイトは。
    「バッテリーが切れてるだけだよ」
     オーエンは短く言って、俺の手を振り払い、さらに奥の部屋に進んでいく。俺の思考を読んだのだろう。オーエンは、帰ってくるたびに、常にこの分野の最先端の研究をしていたガルシア博士に、部品を替えてもらったり、データをアップデートしてもらったりしていた。つまり、この五十年間、進化し続けている。だから、ラスティカが亡くなってから、必要最低限のメンテナンスしか受けていない俺より、ずっと頭がいい。
     それにしても、壊れていなくてよかった。できれば、オーエンが許してくれたらだけど、後で話をしてみたい。ほっと胸を撫で下ろしながら、オーエンを追う。ゲーミングチェアの横にはデスクがあり、その周りには、俺たちをつくる部品や工具が並ぶたくさんの棚があった。メンテナンスルーム、あるいは、開発室か。
     オーエンの白くて長い指が、壁面にくっついている、テンキーの上で踊っている。ロックを解除するための、暗証番号を打っているのだ。本当は虹彩認識も必要なのだろうけど、俺たちにはそれは意味がない。ピー、と電子音がして、ドアが開いていく。オーエンの後ろに続いて、部屋に入る。きっとここは、博士の私的な部屋だろう。
    「……っ」
     オーエンが息を呑んだ。
     背後から中を覗き込む。ベッドのそばに置いたチェアに座り、布団に突っ伏すようにして、友人が眠っている、ように見える。
    「晶……」
     低い声で名を呼ぶと、オーエンはつかつかと寝室に入り、晶の肩をつかんだ。彼女の反応はない。先ほどの双子のアシストロイドのように損傷はなさそうだが、恐る恐る聞いてみる。
    「バッテリー、切れてるの?」
     オーエンは無言で頷く。俺はその時ようやく気が付いた。このラボラトリーで、しかもガルシア博士の助手として働いていたアシストロイドが、バッテリー切れに気付かなかったり、充電や交換ができなかったりするだろうか。三体居れば、お互いに交換し合うこともできる。さらに、何よりも、ラボには数百人の研究員が働いている。
     だからきっと、この三体のアシストロイドは、自分の意思で眠りについているのだ。
    「ベッドで寝ればよかったのに」
     晶の長い髪を梳きながら、オーエンがつぶやく。その声にはさっきまでの刺々しさがなかった。俺は、ラスティカのラボに、オーエンと晶が遊びに来た時のことを思い出した。ふたりは気安い友人のようだったし、兄妹のようにも見えた。
    「は、博士のベッドだろうから、遠慮したんじゃない?」
    「そうだろうね」
     博士のことを話すとき、晶はいつも頬を染めていた。もちろん、人間のように血のめぐりによってそうなっているのではなく、カルディアシステムに連なるプログラムによるものだろうけど、彼女が、博士に恋心を抱いていたのは確かだ。そして最近のメディアの報道によると、博士も彼女を人生のパートナーとして扱い、晩年は、看病もお願いしていたと。
     枕元に活けられているピンクのスターチスは色褪せて、もう、ドライフラワーになっている。それでも花は美しく、その下で眠る晶は儚げで、瞬きをしている間に消えてしまいそうだ。葬儀を終えた博士の身体は、もうここにはない。でも、俺たちアシストロイドの体は、人間のように、瞬きをすることもなく、地面に還ることもない。
     オーエンが、晶の握った拳を開かせている。すると、中からまたメモリースティックが出てきた。それを手の甲から差し込んで、彼はじっと黙り込む。
    「オーエン……?」
    『聞こえるか、オーエン。それに、クロエ……と言ったか』
     出し抜けに、頭の中に声が響く。俺は何のメモリースティックも読んでいないから、これは頭の中のチップにリアルタイムで送られている音声だ。
    「聞こえるよ」
     マイクをオンラインにして答える。落ち着いた男性の声がまた響く。
    『僕は、オーエンにメッセージを送ったファウストという者だ。直接挨拶ができてすまない』
    「いえ、そんなこと気にしないでください!」
     見えていないだろうに、俺は胸の前で片手をひらひらと振った。先ほど案内をしてくれた、背が高い黒い髪の男性も礼儀正しく挨拶をしてくれたが、今話をしているファウストという人も、俺たちアシストロイドを丁重に扱ってくれる人らしい。
    『きみは、オーエンの友人か』
    「はい、たぶん……俺のオーナーが亡くなってから、一緒に旅をしています」
    『フェルチ博士だな。ガルシア博士同様、高名なお方だ。お二人がいらっしゃらなかったら、君たちはいまだ生まれていない』
    「はい、そうだと聞いています」
     そこで、ファウストさんはふふと息を漏らして笑った。馬鹿にしたような笑いではない、まるで、昔からの友人のようにやわらかな。
    『ずいぶんしっかりしているね。さすがはフェルチ博士のアシストロイドだ。ところで、返答がないけれど、オーエンは?』
     俺はちらりとオーエンを見やった。晶を見下ろして、微動だにしない。
    「しばらく黙っています。晶の、メッセージを聞いているのかもしれません」
    『そうか……晶も、ガルシア博士も、オーエンに会いたがっていた。ゆっくりしていくといい。先ほど案内した、レノックスという者もオーエンに言っていたと思うが、そこにはもう開発上の機密などはない。思い出の品などがあれば、持っていっていいから』
    「もう、片付けるんですか?」
    『……博士が亡くなってから、もうひと月になるからね』
     ぽつりと、落とすようにファウストさんが言う。なんとなく、雨が降る街を想像させる声だった。
    「晶と、スノウとホワイトは、どうするんですか?」
    『検討中だ。でも、すぐにスクラップにしたりはしないから、安心して。じゃあ、帰る時は、部屋の外の者に言ってくれ』
     そこでぷつりと会話が途切れる。オーエンに視線を戻すと、肩も背中も、ぴくりとも動かない。もしかして、泣いているのだろうか。
     ガルシア博士の容態が悪化しているとの連絡が入った時、オーエンと俺は、折悪しく、星の裏側、海の上にいて、空から落ちてくる流星雨を見ていた。オーエンのような最新機能を搭載したアシストロイドでも、空間移動することはできない。だから、俺たちは今頃になって、ここに居る。大切な人を喪った時の気持ちは、俺にもわかるから、だから、できるだけ、そっとしておきたい。
     突然、オーエンが動いた。ベッドサイドの花瓶の中のスターチスをつかみ上げて、両手いっぱいに抱える。
    「オーエン?」
    「もう、行く」
     つかつかと歩き出したオーエンの顔は、髪に隠れて見えなかった。慌てて追いかける。
    「行くって、どこに?」
     オーエンは答えない。ここに来る前に寄ってきた、カインの所にまた行くつもりなのだろうか。でも、そんな荷物を持って?
    「オーエン、その花は、どうするの?」
     晶を置いて、スノウとホワイトも置いて、オーエンは歩いていく。部屋の中に残っているだろう、たくさんの思い出も置きざりにして。
    「晶が言った」
    「なんて?」
    「博士の墓前に、飾ってって」
     オーエンは決して振り返らずに、早足で歩いていく。俺たちアシストロイドの記憶は記録であり、消えることはない。もしかしたら、オーエンの思い出は、残らずすべて、彼の中のメモリにあるのかもしれない。



     きみはいつまでも美しい。
     今日は具合が良かったから、起き上がって溜まった執筆依頼を片付けていると、いつもながら晶に怒られた。寝ていてください、と頬を膨らませる、その表情は、まるで人のようで。ベッドの上に座って端末を叩いているんだから、寝ているよ、と答えたら、またそんなことを言って、と唇を尖らせた。
     頭は明晰なのに、身体が思うように動かなくなって、もう何ヶ月も経つ。正確に言うと、身体を動かすための薬もあるのだが、それを断って、何ヶ月も経つ。薬を飲むと頭が働かなくなるからだ。身体よりも頭を動かしたかった。まだやりきれていないことを限られた時間でやりたかった。
     ただ、日毎に、胸の痛みで起き上がれない時間が長くなっていく。しかし、一日起きられない日もあれば、その次の日はまったく痛みが来ない日もある。ままならないものだと思った。少し前に他界したかつての同輩は、何を思って死んでいったのだろうか、そんなことを考えて目を閉じると、変わった夢を見た。
     夢の中では、自分は箒に乗って空を飛び、雪の中で薄着でいても寒さを感じず、また、他人の怪我を手をかざすだけで癒すこともできる。ただ、そうやって人を助けている時もあれば、人を殺している時もあった。殺し方も様々で、氷の刃で貫いている時もあれば、頭の中に侵入して内部から狂わせていく時もあった。器用なものだ。でも、俺よりずっと、生きづらそうにしている時もある。俺よりずっと、長い時間と強い力を持ち、社交的で、どんな相手とも話ができるくせに。
     恐らく、夢の中の俺は、魔法使いと呼べるような存在なのだ。そして、顔はよく見えないが、俺の周りには、他にも多くの魔法使いがいる。
     その中で、例外的に、顔が見える人物がひとりだけいた。ただ、彼女は魔法使いではなく、人間だった。彼女はそう、晶と同じ名前で、同じ顔をしている。晶と同じように笑っていて、同じように泣いている。
     そして俺は夢の中でも、晶のことが好きなのだ。
    「博士?」
     晶の長い髪が、俺の肩に落ちている。双子のアシストロイドが、ばたばたと部屋を出ていった。俺の容態が悪いということを、周りに知らせに行ったのだろう。
    「博士、ガルシア博士」
    「……晶」
     しわだらけになった俺の手を、晶のしなやかな手が握っている。劣化しない人工皮膚の指が、ささくれた指先をなぞる。
     録画機能がある両目が、じっと俺を見下ろしている。その目には涙に似たものが浮かんでいた。涙と近い成分の、涙ではないけれど、ほんとうの心から出たもの。
    「きみは、いつまでも、美しいね」
     スマートに言いたかったけれど、息が苦しくて、上手く声が出ない。晶は頬を染めて顔を歪める。彼女がいつも世話をしてくれるベッドサイドの花が、少しだけ揺れた。
    「な、に言ってるんですか……こんなときに……」
    「こんなとき、だからこそだよ。ねえ……きみは、どうか、俺が死んでも、生きて」
     ふるふると彼女が首を振ると、ブラウンのまっすぐな髪も揺れる。きみを箒に乗せると、ふわりと花の香りがする髪。
    「アシストロイドは、死ぬことはありません」
    「物理的に、破壊しなければね。でも、きみは、もう、起きないつもりだろう?」
     こんなときなのに、晶の向こうに見える、天井のしみがやけに気になる。大きな大陸のような、まるで、地図のような。俺の知らない世界が、その向こう側にあるような。
     晶は口をつぐんで黙った。図星を突かれた時の彼女の癖だ。
    「きみは、世界を見ていない。オーエンと、どこまでも行けばいい」
     赤い瞳に銀の髪の、不可侵で唯一の存在に、もう一年以上会っていない。どこにいるだろうか、元気でやっているだろうか。俺が死んだ後のことも、部下に頼んであるから大丈夫だとは思うが、そろそろ帰ってきてメンテナンスを受けてもらいたい。もしや、人間は、自分の子どもに、こんな感情を抱くのだろうか。
     晶の眼球の縁から、人工の涙が零れた。
    「博士の、おそばにいます。私の幸せは、私が決めますから」
    「……幸せ?」
     何と言ってやればいいのか、わからなかった。彼女の胸の、百合のあたりが光っているのが、服の上からでも判別できる。彼女の自由を奪って、ここに縛り付けたのは、自分だと思っていたのに。彼女は自分で自分を、ここに縛ったのか。いや、縛られたとすら、感じていないのか。
     それすらを幸せだと。
    「……そうか」
     ほとんど吐息とともに言って、最期に、感謝の言葉を呟いたつもりだったけれど、発声できたのかどうかは、わからない。
     視界が狭くなってくる。花が見えない。きみとともに死ぬことができないのは、どうしてだろう。夢の中でも同じことを、考えていた気がする。
    「博士!」
     そうじゃないよ。
     どうか、俺の名を呼んで。
     息が苦しい。
     どうか、俺の名を呼んで、きみのその声で。俺を求めて。
     ともにこの世界の土に、還ることはできなくても。
     きみのことが、好きなんだ。



     オーエン。晶です。久しぶり。
     ちゃんと映っていますか?
     来てくれて、ありがとう。オーエンも、クロエも、元気ですか? 博士が心配していましたよ。ファウストとレノックスに、しっかりメンテナンスをしてもらってくださいね。
     オーエン、怒っているでしょう? 私がもう、起きないつもりだから。でも、もういいんです。私は、充分幸せだったから、世界を見に行こうとは思わなかった。それよりも、ここにいたかったんです。いつも誘ってくれたのに、ずっと断っていてごめんなさい。
     だけど、こう言っても、オーエンは、私を起こすかもしれませんね。それなら、もう諦めます。覚悟を決めて、旅に行きます。もうここには、博士はいらっしゃらないから。
     ひとつだけ、お願いがあります。ベッドサイドにあるスターチスを、博士のお墓に供えてもらえませんか。私は生き物ではないから、博士と一緒に眠りにつくことはできません。でも、博士が美しいと言ってくれたこの花を、どうか、墓前に供えてほしいんです。ただの気休めと笑うかもしれないけれど、お願いです。きっと、オーエンはこの後、博士のお墓参りに行くのでしょう? クロエはきっと、ラスティカのお墓参りに行くのだろうし。
     生き物の魂は生まれ変わるというけれど、オーエン、私たちアシストロイドの心は、どこに行くんでしょう。博士に聞いてみたかったけれど、怖くて聞けませんでした。オーエンも考えたことはありませんか? 私たちがスクラップになったら、カルディアシステムによる心は、どこにも行けずに、消えてしまうのでしょうか。
     オーエンは笑うでしょうが、私は、生まれ変わった後に、また博士に会いたいんです。人間同士になって会いたいなんて、贅沢は言いません。人間とアシストロイドの姿で出会わなくても、たとえば、山の神様の……鹿と、春には溶ける雪のひとひらになってもいいから、会いたい。
     ……ごめんなさい。どうしようもないことを言ってしまいました。
     オーエン、元気で、楽しい旅を。もう会えなくても、私は、オーエンの幸せを願っています。クロエにも、どうか元気で、って伝えてください。



    「人間は、なんでこんなに早く死ぬんだろうね」
     博士とラスティカのお墓参りに行った後、オーエンと俺は、街に出てアイスクリームを食べた。春のぬるい風が吹いて、頭上からははらはらとピンクの花びらが降ってくる。街もずいぶんと様変わりしたけれど、俺たちと、この木だけは変わらない。
    「……そうだね」
     舌の上で溶けるアイスクリームの味は、記憶の中のそれより苦かった。
     オーエンの胸ポケットには、スターチスが一輪だけ挿してある。
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    ツキシロ

    DONEガルシア博士×アシストロイド晶♀。パラロイ軸本編後、ラボに残った晶。約五十年後、博士が亡くなった後、旅に出ていたオーエンとクロエがラボを訪れる話です。捏造多数。晶はカルディアシステム搭載です。
    パラレルワールド・スターチス 博士のことですか?
     そうですね、とってもお優しい方でした。私たちアシストロイドのことも、友人のように扱ってくださいました。アシストロイド差別について、何度か講演などもしていらっしゃいましたが、あれは本当に、仕事だからやっていたのではなく、私たちアシストロイドのことを、生活のパートナーとして思っていてくれたことは、ラボラトリーの中の人間も、もちろんアシストロイドも、誰もが知っていることです。
     それ以外のこと? もうお亡くなりになった方のことを話すのは憚られますが……そうですね、博士が受けていらっしゃったお仕事ですから……とても、真面目な方でした。真面目、といいますか、本当に研究がお好きなんだな、と思うことが多々ありました。研究だけではなく、先ほどのような講演やメディア出演、ラボの中での会議など、寝る間もない時期というものが、一年の間に何回もありました。それでも、ご自分の興味があることを見つけると、目がきらきらと輝いて、そのことに集中して、三日も寝ない、ということもありました。ええ、そういう時は、私や、その他の博士の助手を務めていたアシストロイドが、無理矢理にでも寝室にお連れしました。脳波や呼吸、脈拍などを感知していれば、さすがにもう休ませたほうがいい、という潮時は、私たちアシストロイドにはわかりますから。そのために博士は私たちをおそばに置いてくださったのだと思います。
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