例のアレを買うマグノス「こ、これが噂の『裏・白虎伝説』……!
確かによく出来た表紙だ……。
この中に……白虎のあんなことや……
こんなことが……ッ……!」
息を呑み、震える手で本に手を伸ばすマグノス。
——だが。
「——ッ!?」
寸前のところで横から伸びてきた白い手に本を取られてしまう。
「ンだよこりゃ……まさかこれが俺なのか?
くっだらねえなぁ……」
「なっ……!」
つまらなそうに本を捲るシロにマグノスは言葉を詰まらせる。
「き、貴様……!なぜこんなところに!?」
「あぁ?教材を買いに来たんだよ。
いつもステラと一緒だと時間がかかっちまうからな」
眉間に皺を寄せ、本を読みながら淡々と話すシロに迂闊だったと自分を責めるマグノスだが、時既に遅し。
一通り本を読み終えたシロは本を閉じると、意地の悪い笑みを浮かべながら「中身が知りてえか?」とマグノスに迫る。
「ま、待て白虎……!違うんだ……!
これは……たまたま目に入っただけで……!」
この期に及んで言い訳しようとするマグノスにシロはふん、と鼻を鳴らすと、さらに躙り寄る。
「そうだよなぁ?『てめえの欲しいモノ』はこんな偽物なんかじゃねーよなぁ?」
肩を掴まれ、グイッと引き寄せられる。
「う……ぁ……」
鋭い琥珀色の双眸がマグノスを見つめる。
獲物を追い詰めた肉食獣のような目に捕らえられ、身動きが取れない。
「惑わされるんじゃねえ。
『てめえの欲しいモノ』は目の前にあんだろうが」
真摯な声色で囁かれ、身体が熱くなる。
2人の吐息が混ざり合う。
いつの間にかシロの息遣いが荒くなっていることに、マグノスは気付かない。
「白虎……俺、は……」
——貴様が、欲しい。
「………」
目の前の琥珀色の瞳が、ふっと細められる。
肩を掴んでいる手から力が抜け、ゆっくりと離れていく。
「ま、てめえが読む必要はねえが、教材には使えそうだな?
——たっぷり教え込んでやるよ」
いつもの——揶揄うような悪戯っぽい笑みを浮かべるシロ。
だが、その瞳の奥底に、隠し切れない『熱』が燻っていたのを、マグノスは見逃さなかった。
「おら、さっさと買って帰るぞ」
「——は!?
待て白虎!今のはどう言う意味だ!!
説明しろッ!!」
——その夜、その本を『教材』にシロに抱き潰され、一睡もせずに翌日を迎えてしまう事になるとは……この時の彼は知る由もなかった。