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    higasaniwa

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    higasaniwa

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    蟻凛すけべ小説〜後編①〜
    週末に書ききって楽になりたかったけど終わらなかった。進捗報告。

    シャワールームの秘密 そこからは、ただ雪崩れ込むだけだった。
     蟻生の掌が右頬を滑りながら耳元を掠め、後頭部を包み込む。はらはらと梳かれるように髪の一本一本が指先で掬われる。そのまま襟足まで降りてきた手には力が入っていないのに、身じろぎ一つ満足にできなかった。凛がキスをされると息を止めた瞬間にはもう唇が重なっていた。

    「ん」

     細やかに角度が変えられながら繰り返される口付けに、柄にもなくおずおずと目を閉じてみる。スローモーションで瞼を下ろせば、まるでカメラのシャッターをゆっくりときった時のように、蟻生の重い色をした瞳がぼやけた残像になった。

    「っ、ぅ!?」

     凛が瞼を伏せたのを合図にして、軽やかに啄まれるだけだった口付けが深いものに変わる。無意識のうちに小さく開いていた唇を割って潜り込んできた蟻生の肉厚な舌先が凛の薄いそれを絡めとる。生温かい他人の舌に口内を弄ばれて、喰われると本能的に察した身体が跳ねる。思わず後退りで逃げようとするが、首元を支える蟻生の右手と、腰に回された左手がそれを許さない。半歩分後ろにずれた右足に乗った体重で重心が崩れ背中がしなった。この程度でよろめくヤワな体幹はしていないはずだが、絶え間なく続くキスの感触と上手く継げない呼吸のせいで、凛の身体は今にも倒れてしまいそうだった。強がりで踏ん張っていた足からもいよいよ力が抜ける。ずるりと蟻生の腕から抜け落ちそうになる瞬間、あてどなく宙を彷徨っていた凛の手が、転けることを避けようと反射的に蟻生の首元に縋りついた。それに気をよくしたのか、蟻生は更に奥まで凛の咥内を貪った。あまりの息苦しさに、舌を舌で押し返すというなけなしの抵抗を試みるが、意味を成さずに終わった。むしろ、自らに身体を預けながら僅かばかり逆らってみせるその仕草は、男を一層煽るものだと初心な凛は気づいていない。

    「おいっ、いいかげ、んにッ……!」

     凛はついに耐え切れなくなって、蟻生の長い髪をぐいっと引っ張った。自慢の長髪を毟り取られそうなほどの力で引かれて、流石の蟻生もようやく凛を解放する。

    「はぁー………っ、しつこい、んだよ、お前」

     乱れた呼吸と溶けた顔では何を言っても無意味である。こんな映画みたいな口付けはもとより、小鳥のような口付けでさえ初めてであっただろう凛の唇は互いの唾液でしとどに濡れ、口の端からはたらりと銀糸が落ちている。

    「あの糸師凛が随分とおぼこい反応をするものだと、つい興が乗った」
    「あぁ!??」

     顎に手をあてクールを装っているものの、蟻生の口角も目元も緩んでいた。あまり初物に拘る性格にも見えないが、それなりに凛の初めてを奪うのは楽しいのだろう。そんな蟻生の態度に、そこはかとなく子供扱いされているようで、子供と大人の間で大きく揺れている年頃の凛は酷く苛立った。年ならばたった二つしか違わないくせに。

    「舐めてんじゃねぇ」

     蟻生のスウェットの首元を掴む。ゴムが伸びるのもお構いなしに引き寄せて、噛み付くようなキスをしてみせる。先程のお返しと言わんばかりに舌を蟻生の中へねじ込めば、喉の奥で笑われながら受け入れられる。先程教えられたように、舌を絡めあって、気まぐれに上顎を舐める。それでも凛みたく身体を揺らさない蟻生の余裕が恨めしい。それどころか、時折凛の子供じみた舌戯を押さえ込むように蟻生は凛の舌先を吸い上げてくる。堪らず唇を離したのは凛の方だった。悔しさを滲ませて蟻生を睨み上げるけれどどこ吹く風だ。

    「負けず嫌いか」
    「うるせぇ」

     負けん気が強くなければスポーツ選手なんてできやしないし、この環境の中で生き残れない。それはお互いに言えることで、蟻生も自分に食らいついてくる凛が面白くて仕方がないと言わんばかりで、どこまで踏み込めるのかと衣服の裾からそっと掌を潜り込ませた。無防備な横腹の皮膚を撫で上げられて、その擽ったさに声が漏れ出しそうになるのを下唇を噛んで誤魔化す。スウェットをゆるゆるとたくしあげられながら、肌を弄られる。羽根で愛撫されるようなもどかしさに、すっかり引き始めていた汗が滲みはじめた。艶かしく這い回る指先に身体が火照り、スウェットの中に熱が籠る。焦ったい。

    「蟻生」
    「ん?」
    「早く」

     小っ恥ずかしさと共に、凛は勢いよく服を脱ぎ捨てた。自分だけ肌を晒すのも癪で、蟻生のスウェットも同じように引き抜く。凛よりも背丈のある蟻生が、子供のように大人しく万歳をして服を脱がされるのは少し愉快だった。衣を剥ぎ取ると、麝香の香りが鼻を掠めた。その大人っぽく嗅ぎ慣れない匂いに眩暈がする。

    「…………香水臭い」
    「このよさが分からないとはノットオシャだぞ、凛」
    「つけすぎだろ」
    「普段と変わらないが……あぁ、流石に服も纏ってない姿で、ここまで近づいていたら強く香るかもしれないな」

     蟻生のやたら高い位置にある腰元から漂うムスク。確かにいつもそこはかとなく甘っぽい香りがしていたが理由はこれかと納得する。それと同時に、布越しに知っていたその香りに直に触れ鼓動が跳ねた。秘密を一つ暴いたような気分だ。香水が付けられているのが腰というのもあるかもしれない。香りを隠す場所があまりにも色っぽい。

    「凛もつけてみるか?お前は何もしていないだろう」
    「絶対に嫌だ」

     凛は自分が麝香を纏うことを想像し眉を顰めた。四六時中蟻生を思わせる香りをさせるのは我慢できそうもない。ただでさえ、すでにこの芳香を直視できなくなっていると言うのに。

    「確かに色気づいたと虫が寄ってきても困るな」
    「お前以外にそんな物好きいねぇだろ」
    「さぁな、あるいは同じ香りをさせていれば虫除けになるか、お前はどう思う?」
    「…………知るか」

     お揃いの香りに思いを馳せる蟻生に置き去りにされた心地がして凛は蟻生の妄想の中の自分に微かに嫉妬する。自身が香水をつけるところは想像できないが、らしくもなく同じ香りは悪くないとも思った。くらくらする甘い匂いにあてられたのかもしれない。

    「…………キツくなかったらこの匂いは嫌いじゃない」
    「移り香をご所望ときたか」

     一際香りを強く残している腰をそっと凛の指先が辿る。凛にとっては、ただ触れてみただけだが、蟻生にとっては凛の言葉と相まって挑発的な仕草にとれた。初心で色恋の混じる所作の意味には疎いくせに、時折無意識のうちにやってのける振る舞いは計算され尽くした娼婦のそれより悪どい。お前も好き勝手触ってるんだから文句はないだろうと言いたげな深緑の瞳は婀娜っぽいのに、触れてくる手付きがやたらと色めかしかったのは最初だけで、今はペチペチと蟻生の腰を掌で軽く叩いている。そのギャップは蟻生を厭に煽った。

    「あっ、おい、待てって!」

     凛の制止は虚しく無視されて、あっさりとスウェットのパンツを下着ごと取り払われる。蟻生もさっさと同じように服を脱ぎ捨ててしまうと、ぐちゃぐちゃになるのも構わずに爪先で脱いだばかりのものを蹴飛ばした。蟻生の長い腕に抱きかかえられて、そのまま脱衣所から数歩先のシャワールームの個室へと押し込められる。かちゃりと鍵が落とされる音。

    「今のはお前が悪い、凛」
    「何が」
    「やはり自覚がないのか」

     冷めた人形みたいに綺麗な顔をしておきながら、凛の精神年齢は10歳にも満たないのではなかろうかと、蟻生は頭を抱えていた。初々しいのは結構だが、流石に外見と年齢と中身がちぐはぐだ。これがサッカー狂いの弊害かだの、糸師家の情操教育はどうなっているんだだの、せめて兄から何か年相応に性的なことを教わらなかったのかだの色々思うところはあったが、そもそも凛の兄はあの糸師冴だったと思い直し、凛に人並みの色恋を解する情緒を求めるのは諦めた。せめて、自分以外の男の前でそういう誘惑するような仕草はやめておいて欲しいと願うばかりだ。もっともそんな蟻生の心を凛は知らず。お世辞にも気が長いとは言えない凛は、一人ぐるぐると思考を巡らせる蟻生に苛立ちを隠そうともしない。

    「だから何が」
    「……教えてやろうか?」

     1人用のシャワールームに2人入っているのだから、至極至近距離で見つめ合うことになる。苛々と、指で自分の太腿を叩く凛の右手を恭しく絡め取った蟻生は、短く切り揃えられた桜色の爪に紳士的に唇を当てた。

    「指は随分大人びているのに爪はまだ柔らかくてアンバランスなのがいい」
    「はっ……!?」

     大きな掌がするりと滑り、いとも容易く凛の手を包み込む。

    「キスをしながらこの手に縋られるのは悪くなかった」
    「お、い……蟻生」

     握ったり離したり指の間を擽られたり運命線を辿られたり、こそばゆさに凛が手を引っ込めようとすれば、掴まれた手首にリップ音を立てながら口付けを落とされた。手首越しに蟻生に見つめられると、堪らず顔を背けてしまう。凛の手が逃げる気力を無くしたところで、蟻生の指先と唇が手首から肘へ、肘から二の腕へと上がってくる。その感覚にぞくりと肌が震えた。肩口に顔を埋められ、「しなやかな首筋も、耳の裏が一段と真白いのも美しいな、強がってても照れているのが分かりやすい」と低く囁かれると、言われた通り耳に血が集まるのを感じた。
     次から次に飛び出す甘ったるい言葉に、よく口が回るものだと感心する前に居心地が悪くて耳を塞ぎたくなる。

    「わかった、わかったから、もういい、やめろ」
    「強がっても、案外可愛らしい言葉ばかり溢すこの唇もオシャだな」

     そう言われてしまうと口を噤むしかなくなる。凛が小さく薄い唇をへの字に曲げれば、三度目の接吻が降ってくる。最初ほどの醜態はもう晒さないけれど、やはり慣れることはなくて深く唇が重なる度に凛の身体は強張った。

    「……お前は自分の魅力に頓着がないようだからな、誰彼構わず誘われていては流石に俺も悋気する」
    「あ……?りんき?」
    「嫉妬だ」

     嫉妬。意外な言葉が飛び出したものだ。ふと顔を上げてみれば、きまり悪く眉を下げた蟻生がいた。

    「……男の嫉妬は見苦しい」

     今の顔はオシャじゃないと凛の視線を外すように、蟻生は向かい合っていた凛の身体を半回転させる。背中越しに肌が触れる体勢に否応なく先日のことが思い出された。この前と違うのは、ねちっこく身体を触るのを許していることと、腰に当たる固いものの感触。意識しないように目を向けずにいたのに、これでは気付かぬフリをする方が難しい。

    「おい、物騒なもんおっ勃ててんじゃねぇよ」

     ゾッとした凛が、反射的に上体を捻ると聳り立った蟻生の性器が目に入った。問題はその大きさだ。

    「デッ…………!?」

     たっぱがある分、そちらが大きくても不思議ではないが、流石にそれは規格外だろう。女の腹にはこんなものも挿入るのだろうか。そうどこか他人事のように驚嘆している凛には、蟻生の次の言葉がすぐに理解できなかった。

    「心配せずとも、いきなり全部挿入るとは俺も思ってない」
    「……?」

     何処に、何が?
     自慰さえも満足にできない凛が男同士での行為に明るいわけもなく、胡乱な表情を浮かべる。それにどう答えるべきか迷っているのだろう3秒ほど置いて、蟻生はするすると凛の臀部を撫であげた。

    「ヒッ、!?」
    「もともと受け入れるようには出来ていないだろう、凛の全てを味わい尽くしたいが、傷つけることはしたくない」
    「いや、どう考えても、無理だろ」

     これから起こることを察したらしい凛が珍しく怯えた目をするものだから、蟻生は口付けで甘やかす。今日すぐにというつもりはないことを繰り返せば、凛は安心したように長い息を吐いた。
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    higasaniwa

    MAIKING蟻凛すけべ小説〜後編①〜
    週末に書ききって楽になりたかったけど終わらなかった。進捗報告。
    シャワールームの秘密 そこからは、ただ雪崩れ込むだけだった。
     蟻生の掌が右頬を滑りながら耳元を掠め、後頭部を包み込む。はらはらと梳かれるように髪の一本一本が指先で掬われる。そのまま襟足まで降りてきた手には力が入っていないのに、身じろぎ一つ満足にできなかった。凛がキスをされると息を止めた瞬間にはもう唇が重なっていた。

    「ん」

     細やかに角度が変えられながら繰り返される口付けに、柄にもなくおずおずと目を閉じてみる。スローモーションで瞼を下ろせば、まるでカメラのシャッターをゆっくりときった時のように、蟻生の重い色をした瞳がぼやけた残像になった。

    「っ、ぅ!?」

     凛が瞼を伏せたのを合図にして、軽やかに啄まれるだけだった口付けが深いものに変わる。無意識のうちに小さく開いていた唇を割って潜り込んできた蟻生の肉厚な舌先が凛の薄いそれを絡めとる。生温かい他人の舌に口内を弄ばれて、喰われると本能的に察した身体が跳ねる。思わず後退りで逃げようとするが、首元を支える蟻生の右手と、腰に回された左手がそれを許さない。半歩分後ろにずれた右足に乗った体重で重心が崩れ背中がしなった。この程度でよろめくヤワな体幹はしていないはずだが、絶え間なく続くキスの感触と上手く継げない呼吸のせいで、凛の身体は今にも倒れてしまいそうだった。強がりで踏ん張っていた足からもいよいよ力が抜ける。ずるりと蟻生の腕から抜け落ちそうになる瞬間、あてどなく宙を彷徨っていた凛の手が、転けることを避けようと反射的に蟻生の首元に縋りついた。それに気をよくしたのか、蟻生は更に奥まで凛の咥内を貪った。あまりの息苦しさに、舌を舌で押し返すというなけなしの抵抗を試みるが、意味を成さずに終わった。むしろ、自らに身体を預けながら僅かばかり逆らってみせるその仕草は、男を一層煽るものだと初心な凛は気づいていない。
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    higasaniwa

    MAIKING蟻凛すけべ小説〜中編〜
    あとで加筆修正するかも。お話はもうちょい続く!
    シャワールームの秘密 それっきりのはずだったのに。
    あの日以降、意識的にシャワールームに近づくことを避けていた。にもかかわらず、トラウマを植えられたと言っても過言ではない場所で、件の男と鉢合わせてしまい、凛は盛大に舌打ちを鳴らした。

    「………何でいるんだよ」

    朝起きて歯を磨くのを忘れたら気持ちが悪いように、昼にスポドリを用意し損ねたら落ち着かないように、日々の中に埋め込まれたルーティンを欠くと妙に気が休まらない。一度や二度抜けてしまっても死にはしないのに、厭にソワソワして注意が散漫になる。気にしない人間はとことん気にしないだろうが、凛のように神経質なまでに己を律する性格ではそれも難しいことだった。
    チームに潔を迎え入れ、海外選抜メンバーとの試合にに臨みーーーー結果は目も当てられない点差になったがーーーー二次セレクションは終わった。今はボールに触ることもなく、選抜通過メンバーが出揃うまで語学の勉強を課せられている。他の有象無象を待っている時間も、中学レベルの英語の問題集を解く時間も、何もかもが惜しい。こんなところで足踏みしている暇はないのにと、凛は酷く焦燥に駆られていた。
    2616

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