女装するアーサーとげんなりするアイちゃんすらりと高い背。
オフショルダーから見える肩とスカートから覗く脚は白く、艶めかしい。
青に緑がかったような長い髪が印象的で────
って、は?
目の前の人を見て目が点になる。
この屋敷に女性は…扉から抜けてきた、あの子しかいないはず。
じゃあ目の前の女は…
「アーイちゃん♡」
「うわやっぱりアンタかアーサーさん」
やたらと女装が似合うその人は…紛れもなく、俺の恋人だった。
声までハスキーボイスとかどんな念の入りようだよ。
「どう?……似合う?」
小首を傾げる様はもうどこからどう見ても女のそれで。
下手をしたらあの子より女っぽいんじゃないの…。
呆れたように見つめていると、アーサーさんの後ろからセバスが顔を覗かせた。
「いやあ思ったよりとても合うのでびっくりしました…ああ、偉人の女装なんてこれほどに尊いものがどこにあるかっっっ!」
「…セバス」
一気に疲れがどしん、と来た気がする。
「そうだ! アイザックさんもいかが…」
「?! いや、いい! 遠慮しとく!」
脱兎のごとく逃げ出した俺を捕まえたのはアーサーさんだった。
ふわり、と香った香水は、俺がアーサーさんの誕生日に贈ったものだ。
「…夜、待ってるから」
「は?!」
ハスキーボイス…ではなく、アーサーさんのそのままの声で耳元で話されて、ぞくりと背中に疼きが走る。
「ああなんということですかっ! ドSな女性が男を言いなりしているようなこの状況!」
「セバスードS枠はテオだってばー」
ぱっと手を離し、可笑しいようにケラケラ笑うアーサーさんは、元の(というのはおかしいけれど)ハスキーボイスだった。
夜。
今日の分の研究を終えたら既に日付けは変わってしまっていた。
まだアーサーさんは起きているだろうか。
…多分、起きていると思う。
考えながら、コンコン、とアーサーさんの部屋の扉を叩く。
「はい、どーぞ」
返事を聞いて、嫌な予感がした。
恐る恐る部屋の中に入る。
「こんばんは、アイちゃん」
まだ女装のままのアーサーさんは、机に向かっていた身体をこちらに向けた。
「アンタ…いつになったらそれ、脱ぐわけ?」
「じゃあアイちゃんが脱がせてくれる?」
「…は?」