さくらんぼのヘタとコナアイ「アーイちゃん、部屋に入れてー」
「アンタ、手に持ってるそれまさかりんごじゃ、」
「違う違う、りんごじゃないよ。さくらんぼ」
白い皿の上に乗って、赤くツヤツヤとしているから、てっきりまたりんごを持ってからかいに来たのかと思えば、違うらしい。
「伯爵が知り合いの貴族からたくさん貰ったらしくてね、俺も貰ったからお裾分けに来た」
「…アーサーさんがそんなこと言うの、珍しい」
「美味しいものは好きな人と食べたいものじゃん」
さらっと告げられた“好きな人”というワードにぼぼぼ、と頬が熱くなるのを感じた。
「っ、入ってもいいけど、キリのいいとこまで論文進めさせて」
「ん、りょーかい」
入ってきたアーサーさんはひとりでさくらんぼを食べるわけでもなく、大人しく待っていてくれた。…こういうところは律儀で、普段の軽薄な言動からは想像もつかない。
「…終わったよ」
「お疲れ様ー」
論文を脇に置いて、ローテーブルの方へ移動する。
「ん、」
「ね、アイちゃんはさくらんぼのヘタ口の中で結べる?」
目の前の恋人から問われたことの意味がわからず、思わず「は?」と返してしまった。
「さくらんぼのヘタを口の中で結ぶって…どうやって」
「こんなふうに」
いつの間にそんなことをしていたのか、べ、と舌を出す。
そこにはくるりとひと結びされたヘタが舌の上に乗っかっている。
「…俺は多分、できないよ」