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    hatonyan_nyan

    @hatonyan_nyan

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    hatonyan_nyan

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    自機の89ID 頑張ってきたからこれぐらいはあってもいいんじゃないかって

    思い出と願いを連れて(……まただ)
    視力が失われた今となっては記憶の中にしかない互い違いの色の目が、何かを探して彷徨う。尤も星海で探すものなど、ひとつしかないのだろうが。
    それが旅の途上で喪われたものか、私たちですら知り得ない誰かなのかは分からない。彼女は頑なに過去を語らない人だから。けれど、あの魂なのだろうという予感があった。星海に降りてからずっと、一行の後ろをついてくるひとつの魂。強い視線すら感じるけれど、あれが見ているのは「私たち」ではないのだろう。きっと、ただただ、先頭を行く彼女だけを。

    「そろそろ姿を見せたらどうなの?」
    アモンを退け、ハイデリンまであと一歩というところ。未だ手出しのひとつもせずついてくる魂にいい加減焦れて問いかける。ここまでの道のりで悪意がないことは分かったけれど、ハイデリンとの対話を前にして不安要素は取り除いておきたい。
    「ヤ・シュトラ?」
    「ずっとついてきてるのよ。多分、貴女を見てるわ」
    言うなり彼女の顔色が変わった。信じられないといった表情で、私の視線の先を追う。
    「まいったな……。アンタ、目がいいんだな」
    そう言って彼は、姿を現した。

    ***

    その姿を、忘れるはずがない。
    どんなに遠い場所に行って、どんな冒険をしようとも、眠れば必ず彼の夢を見たから。
    「……ネージュ、」
    「ああ、久しぶり、ブランシュ」
    世界でたった一人の、愛する伴侶。死によって引き裂かれた彼が、確かにそこにいた。
    居ても立っても居られず駆け寄る。駆け寄りながら泣いた。だってずっと会いたかったのだ。ずっと、ずっと、ずっと。あなたのいる夢から醒めたくなかったと、寂しさで泣くほどに。
    恐る恐る手を伸ばすが、肉体を失っている彼に触れることは出来なかった。それでも構わないと、彼の背に手を回す。彼も手を伸ばしてくれて、確かに抱きしめられている感触がある。思い過ごしでもいい。
    「ネージュ、あたし、あたし、」
    「ああ、見てたよ。いい旅をしてきたな。冒険者として羨ましいぐらいだ」
    始まりは、彼が毎晩語ってくれたリムサ・ロミンサから。そこから海を越え山を越え、世界の壁さえ超えて旅をしてここまで来た。彼が語ってくれた美しい世界が好き。その思い出を守りたい。その一心で。
    「いつか遠い未来。また生まれることが出来たら、きっと君を探すよ。そうしたら、今度こそ一緒に旅をしよう」
    この冒険譚にも負けないような、心躍る旅を。
    「俺と君なら、何度だって巡り会える筈だから」
    「うん……うん、やくそく、今度こそ、ぜったい」
    「ああ。絶対だ」
    彼の指が記憶と同じように髪を梳いてくれる、それだけで心が満たされる。この人が好きだ。生まれ変わって互いがどんな姿になっていたって、それだけは忘れたくないと思った。
    「さあ、そろそろ行っておいで、ブランシュ。精一杯、力と生の続く限り旅をしておいで。それが俺の願いだ」
    未練が滲む声だった。だから姿を見せるつもりはなかったのだろう。
    「……ネージュ、あいしてるわ」
    彼と同様情けないぐらい未練が滲む声になったが、なんとか絞り出す。それだけで互いには充分だから。
    「俺もだ。愛してるよ、ブランシュ」

    ***

    エーテルが霧散し、二度目の別れにブランシュが声を上げて泣く。こんな風に泣く彼女を見たことがなかったのは、どうやら己だけではなかったらしい。誰もがその場を動けなかった。
    ややあって幾分か落ち着いた彼女がすん、と鼻を鳴らす。
    「ブランシュ、」
    声をかけたのは私だったかもしれないし、他の誰かだったかもしれない。きっと皆が皆、そう思っていることだろう。無意識に溢れたような、そんな声だった。
    「……もうだいじょうぶ。行けるわ」
    少し枯れた、けれどしっかりした声で彼女が答える。彼の願いは、立ち止まることではないから。
    「行きましょう、ハイデリンのところに」

    星と命を巡る旅に幕を下ろすために。そうしてまた、新たな旅路をどこまでも歩んでいくために。
    その先で、いつかまた巡り会うために。

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    hatonyan_nyan

    SPOILER暁月メインクエ後のブランシュちゃん。アルフィノくん視点
    彼が最期に狩ったもの戦いの中にあって、頬が自然と緩むのを感じる。ああ、こんなのはいつぶりだろう。
    いつからだろう。どこからだろう。国が、世界が、星が、終末が。そんな戦いばっかりで。無意味だったなんてことは絶対にないし、自ら望んだ旅ではあったけど、それでも苦しい道のりであったことは間違いない。けれどその終着には。こんな楽しい戦いが待っていた。
    あなたは楽しいだろうか。あたしとの再戦、ただそれだけを望んで、こんな天の果てまで飛んできたこの人は。いえ、きっと楽しいはず。だってあたしがこんなに楽しいんだから。そうね、今なら確信を持って言える。
    ───このひとは、あたしのともだちだ。


    *****


    あの人がラグナロクに転移してきた瞬間のことは、今でも忘れられない。最初、その場にいたほとんどの者が、それを彼女だと認識できなかった。したくなかった、のほうがより正確かもしれない。私たちとは見え方が違うヤ・シュトラが恐る恐る名前を呼んで、そこから皆ようやく金縛りが解けたかのように駆け寄った。いつも綺麗な真白い髪は血に塗れて見る影もなく、見えるところも見えないところも傷を数えたらキリがない。けれどその惨状の中で一番恐ろしかったのは、彼女が満足そうに口許に笑みを湛えていたことだった。
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