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    雁(かり)

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    雁(かり)

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    2022/12/24のワンドロ「魔王」の加筆修正お焚き上げ

    コスプレプレイ途中に呼び戻され魔王 南疆、と大きく括られた地域には獣の魔族が多い。そして同じ魔族だといえど、動物を祖とした彼らは種族が違えば姿形から性質まで全てが異なる。それぞれが独自の文化を築きあげ、各々の誇りを持っていた。獣としての性も引き継いでいるためか大層好戦的で、常に互いに強さを誇示し合い、時には命をかけて優位を示そうとする。要するに、あちらの魔族の多くには知性は見られない連中が多い。
    「またですか……」
     また南疆で反乱を起きやがった、という話である。時刻は夜半過ぎ。取り急ぎ漠北君を中心に、数名の者で会議を開くこととなっていた。
     南疆出身である紗華鈴さまの直属の部下として、私も話し合いに参加する予定であった。各地方から上げられてきた報告書を読み、地図を広げ確認し、まとめていく。つい先刻、紗華鈴さまは一足先に南疆の視察へ赴かれていった。目の下の隈が取れない聖女さまは、常日頃ご多忙でいらっしゃる。部下としては、どうか、どうか無理なさらずにいて欲しい、と切に願う。
     
     蒼穹山に戻られていた君上に、魔宮の方に来られるようにと伝令符が使われ、その後すぐに漠北君が迎えに向かわれた。間も無く魔王さまがいらっしゃるだろう。バタバタとしていた会議室にも緊張が走る。
     
     ふいに、牛蛙が潰れたような、生体から発したとは思えない奇声が狭くはない部屋に響き渡った。室内にいた者が一斉に音の発生源に目を向ければ、扉の外を覗いていた尚清華からのものだ。注目を浴びた尚清華は決まり悪そうにして、口元を引き攣らせながら空咳を繰り返す。
    「……す、スミマセンスミマセンちょっとお花摘みに」
     聞き取れない呟きをぶつぶつ残して、両手で口元を覆いながら一目散に部屋から駆け出していった。廊下から彼の苦しそうな呼吸音が聞こえてくる。えずいているのか、泣いているのか、はたまた笑っているのか。いっそ薄気味悪い。あまりに不可解な行動に、すれ違うように帰還してこられた漠北君も「すぐに戻る」と言い残し、後を追うように退室していった。残された同僚たちと顔を見合わせる。何があったというのか。
     理由はすぐに分かった。魔王洛冰河が入室されてきたからだ。――――ただでさえ類い稀な美貌で偉丈夫であせられる君上が、さらに予想外な姿となりながら。

    「へぁ……?」
     あちらこちらから、間の抜けた声が漏れ出る。
     角だ。巨大な角。魔王君上の美しい左右の側頭から、大男の片腕ほどの大きな角がそれぞれ生え出している。白く滑らかで艶めかしく、とても重厚で立派なものだ。根元の方で、前方と真上に突き出すような形で二股に分かれており、まるで獲物を突き刺すような鋭さと、相手を押し潰す重さが見て取れる。これはおそらく、角や牙をはやす実力者にも引けを取らないではないだろうか。
    「また南疆か。資料を出せ」
     地面を震わすような低く圧倒的に不機嫌な声に、ひやりと冷たいものが背筋を走る。心臓を鷲掴まれる圧迫感に、魂までもが押し潰されそうだ。君上はきっと、急遽呼び戻されたことが不満でいらっしゃるのだろう。明らかに不機嫌が天元突破しており、発されている魔力の威圧感も半端ではない。漠北君の力以上に、この魔宮全体が氷漬けにされてしまったかのような冷たさを感じる。
    「は。ただいま」
     鋭利な刃を眼前に突き出されたかのような緊張感とともに、震えながら追加の資料を差し出す。目も合わせられないというのに、つい視界の端で魔王の高く真っ直ぐな鼻梁の先端が少し赤いことをとらえてしまった。思わず二度見してしまう。なんと血であった。そう気付いた瞬間、君上がお怪我を⁈ と衝撃がはしったものの、乱雑に拭う姿を見て、大事には至っていないようだと安堵する。そうホッとするのも束の間で、疑問が疑問を呼んだだけで、謎は深まるばかりだ。あれも、これも、何があったのかが気になる。気にはなるが、聞く勇気がない。命が惜しい。
     頭を動かす度に、ぶんぶんと振られていく角が危なっかしく、部下たちは一定の距離を保つ。誰もが皆、遠くから見つめるしか無かった。
     角が生え出ている魔族なぞ数え切れぬほどあるが、……君上は生えてはいなかったと記憶している。少なくとも、昨日までは無かった。本当に無かった。天魔族には何も生えないはずだ。……いや、実は生えるというのか? 切り落としていた? 洞角じゃなくて枝角か。いや、そんなこと一度だって聞いたことも無い。
     君上に聞けば? 無理だ。お前がいけ。 死ぬ。 死ぬな。 普通に無理だろ。 無理だ。
     静まり返る室内で、同僚たちと目配らせする。何も解決するわけがない。
     今すぐにでも怒り狂いそうな魔王に恐れ慄き、振り回される巨大な角を眺めながら、ただただ静かに資料が捲られる音を聞いていた。



    「コスプレプレイするのは勝手だけどさ、よりによってトナカイなの⁈ しかもルドルフ」
    「全身茶色タイツは全力で脱がした。赤鼻は間に合わなかった。タイミングが悪すぎた」
    「元種馬主人公になにさせてるのさ 瓜兄の性癖、ニッチ過ぎだから‼」
    「いいやオレは無実だ 文句はぜんぶ系統に言ってくれ」
     後日、尚清華が沈清秋のもとへ怒りの突撃したのは余談である。
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