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    Okoze

    @jkanaemill

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    Okoze

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    うみがめスープ承花スペースで出題されていた内容が素敵だったので。
    3。
    体力勝負な王子。ノリエルへの気持ちが最初っから天冠突破していて、閃いた今回のラストが全く生かしきれていないという…。続きはまた明日。(キンクソ注意

    ※徹頭徹尾、承花です。

    東の国の海の おはなし 3「君は本当に底意地が悪いなッ!」
    「構いませんよ きちっとやっつけなさい」
    「わかったぜ おばあちゃん」
     次々と立ち上がる親族の中、真っ先に隣の席に向かって拳を振り下ろしたのは王子だったが、悪魔はひらりと交わすと壁に垂直に立ち、天井へ向かって殊更ゆっくりと歩き出した。
     洞窟の蝙蝠のように逆さまになり、手の届かない場所から星の一族を愉快そうに見下ろしている。
    「俺を痛めつけたところで何も変わらんぞ」
    ソイツの寿命は私の力を持ってしてもあと十日もしない間に尽きるだろう。
     
     出発の日、どこか悲しそうな様子で見送った若者の表情に、王子はようやく合点がいった。
     国王の逝去と共に自らの寿命も尽きること、送り出した王子にはもう二度と会えないことを彼は覚悟していたのだ。

     そんな若者をますます手放すことは出来ない。
     何か…なにか打つ手はないのか…

     先刻までの理不尽な怒りとは別の、強い気持ちが王子の中で渦巻いた。



    「今から早馬を走らせても到底、人魚の最期には間に合うまい」
    王子の険しい表情を苦悩と見てとったのか、逆さまの悪魔が両手を広げて愉快そうに嘲笑う。
    「君が人魚の彼に声を返してあげれば済むことだろう」
    胸に拳を握って、首の無い国王が声を荒げて問えば
    「私の壺から望みのものを取り出せるのは 心の底から望む者だけだ 俺にとっては人魚の生き死になんぞどうでも良いからな。
    吐き捨てるように悪魔が応じた。
    ぎりりと奥歯を噛んだ王子の口の中に苦いものが広がる。
     
    「まぁ貴様なら 壺の中から人魚の声を取り出せること叶うかも知れんなぁ 俺の最果ての居城に辿り着けたなら返してやっても構わんぞ」
    「その言葉 違えるなよ」
    勝ち誇った悪魔の言葉尻を捕まえたのは意外な人物だった。
     王子の祖父の横から異国の赤い衣装を身に纏った巨体が立ち上がり、大柄の装飾具が音を立てる。
    「異国の魔術師ふぜいが… 何ができるというのだ」
    「魔術に通じる者の端くれとして 占い師の私がひとつ予言しよう
    二人の若者の未来はお前の望むようには決してならない」
    チッチッチッと指を左右に振って、不敵な態度を見せる占い師に悪魔が舌打ちする。
    ほざけ。
    「せいぜいやってみるがいい この世の最果てに辿るつけるものならな」
     捨て台詞を投げ長い爪飾りに自らの衣服の裾をかけると、小さく何事かを唱えて次の瞬間、悪魔の姿は消えていた。


     冷え切った円卓とその場に立ち尽くす一同の横を通って、先ほどの占い師が火をとり燭台へ灯していく。
     気がつけば窓の外の日は傾き、部屋の冷たさも暗さも、悪魔のせいとばかりは言えない時間であることに一同は気が付いた。
    「まだ希望は消えていません」
    いささか心もとない火であることは否めませんが…
     場を温めるようにおどけた調子で続ける占い師の、袖の下に隠した両手がわずかに震えているのを王子は見逃さなかった。
     しかし今は藁にも縋りたい一心だ。
    「言え 対策を」

    促す王子の言葉を受けて、一同が席に座り直すと異国の占い師は奇妙な話を語りはじめた。

     自分の故郷に、一度土地を離れて数年後 巨万の富を携えて戻って来た者がいた。一族のために大きな屋敷を建て妻を七人も娶り、連日豪勢な宴を催すほどの羽振りの良さだったが働いている様子はない。
     その金がどこから湧いて来るのか、地下にたくさんの奴隷を集めて売り買いしているのだ、燃える黒い水を掘り当てた財産をどこかに隠しているのだ、いや悪魔と契約したのだ。人々は口々に噂しあったが真実を知る者は誰もいなかった。
     あるとき。その金持ち男は何の気まぐれか占い師を屋敷に招いた。     
     体の不調を訴えるので、札占をするふりをして不摂生を諌め、身近な者には労りを持って接するよう忠告した。
    身の回りの世話を頼っている妻を気に入っている様子だったので彼女に手厚くするように言い置いてその場を辞すと、その後ますます評判が上がった占い師を、金持ち男は再度呼び出した。
     先日の占い結果がすこぶる良いことを讃えて、その褒章代わりに良いことを教えてやろうと言う。
    実は自分は昔、悪魔と契約を交わした。
     遠く北の大地と船で交易をする内に、とある地方で悪魔の話を聞いた。数年怪しい情報をかき集めるうち、ようやく悪魔の居城にたどり着いた男は巨万の富を持ち帰ったという話であった。
     占い師は宴席のもてなしだけで充分と思っていたので、半信半疑で聞いていたが、その態度が気に喰わなかったのか男は 本当の話だ。嘘だと思うなら最果ての居城まで案内した男を教えてやるから、会いに行ってこい。その国までの足と路銀は用意してやる。と言い出し、占い師は望まぬ旅路につくこととなった。

    「行った事あんの」
    ここまで聞いてたまらず大声をあげた祖父を制して、王子が先を促すと、占い師はとんでもない顛末を告げた。

    「悪魔の最果ての居城に続く道を案内したという男には会いました それが以前お話した 西の海のお調子者です」





     西の海の国までは馬を飛ばしても五日はかかる。
    いや。三日もあれば充分だよ。
    首の無い王はそう言い置くと、すぐに部屋を出て王国で一番の駿馬とそれに負けずに付いていける足腰の強い若馬を用意させた。
     国王が身罷るまでの時間、祖父は次代を担う役割と共に最期を見届ける役もあったので、西の海の国まで同行することは出来ない。
     王子を案内し同行するのは占い師以外にいなかった。

     とにかく時間が惜しい。
     夜を待たず旅支度を整える王子に、お后は旅の安全を祈って紫水晶と翠石で出来た葡萄の付いた髪飾りを、国王は「幸運と勇気を」と彫られた重たい短剣を贈った。
     小さな小瓶と二つの球体の入った袋を祖父から受け取っている占い師の姿が、篝火の下に見える。
     異例の夜の開門が密かに行われ、二人は城門をくぐった。
    占い師が馬の頭を陽の落ちる方角に向け王子にゆくべき道を指し示すと、一声いななき二頭の人馬は夜道を勇ましく駆け出した。
     


     中央の城を出てしばらく行くと突然の大雨に増水した川に橋が流されて、難儀している一団と行き合った。
     それまで雲ひとつない快晴だったのに急にあたりが暗くなったという。
     王子は一団の手を借りて何本かの木を切り倒し、高祖父から渡された短剣をふるい、手慣れた縄さばきで筏船を幾つもこしらえた。
     流された橋の袂に狙いを定めると向こう岸へ渡すと、大縄を結んだ蹄鉄をくぐらせ向こう岸へ渡り、反対側から同じように縄を投げ二本の縄をしっかりと結んだ。
     蹄鉄縄を通した筏舟を向こう岸まで浮かばせると一団からは歓声が上がったが、二人は馬を宥めつつ浮き橋を渡って振り返らずに先を急いだ。

     それからしばらく行くと、今度は季節外れの飛虫の大群が現れて二人の行く手を難んだ。
     占い師が落ち着き払って何事かを唱えると瞬く間に巨大な炎の柱が立ち、竜巻のように移動しながら虫たちを焼き払った。
    王子は舌をまいたが、その隙に馬の口に布をかぶせて群れから抜け出した。悔しげな声と共に飛虫の群れは煙の如く消え去ったので、やはりそれは悪魔の仕業と知れたのだった。

     日暮れに占い師の淹れてくれる香草茶は、ささくれ立った神経を癒し王子は夜に深く眠れたので、日中の道ゆきは予定以上に遠くまで走ることが出来た。




     西の海の国の城門を無事に通過し、その先の小さな湾のある町に入ったのは二人が中央の城を後にして三日目の早朝だった。

     湾には漁を終えて家路を急ぐ漁師たちと、反対に海の周りの朝市へ繰り出す働き者の女たちが行き交っているのが、坂上の駒繋ぎから見える。
     海から吹き付けてくる懐かしい潮の匂いを嗅いで、王子は東の海と紅い髪の美しい若者を思い出した。東の海の国で過ごした穏やかな日々、崖の居城を後にしたのはほんのひと月にも満たないというのに、もう何年も遠くへ来てしまった心持ちがした。

     なんとしても彼の声をあの忌々しい悪魔から取り戻さなくては。
     柔らかな赤毛と細く引き締まった腰をこの腕に抱くために。



     小さな町なのでお調子者の家まではすぐだという。住処をうつしていたり、仕事で外界に出ていないこともあるかも知れないが…という占い師の言葉は最後まで王子の耳には届かなかった。

     町の遠くから石畳を伝ってある旋律が響いてくる。

     それは新月の夜に幾度も聴いたことのある、人魚の歌だった。
    たまらず、王子は馬も占い師もその場に残して歌の聞こえてくる坂下の方角へ走り出した。
    小さな湾の港では男たちの引き揚げた海の戦果を女たちが捌いて市へ運ぶ準備の真っ最中。歌声は彼女たちのもので節に合わせて、調子良く烏賊や魚を捌いていくのが見てとれた。
     人魚の歌っていたものには詞が無かったが、女たちの歌うものには海上の男たちの無事を祈り、帰還を待ち望む愛の言葉が満ちていた。


    月は東に沈むよ 渦潮は左に巻くよ
    月の岩浪から数えて
    十四の夜も貴方を待っている
    十七の夜には間に合わせて

    どうかお願い もう一度振り向いて
    願い石の数だけ 貴方を抱きしめたい

    どうかお願い もう一度振り向いて
    首ひとつでも 二の足でも
    その美しい眼だって構わない
    私に返して
    波よ 大波よ 大いなるうねりよ

    月の岩浪が消えて見えなくなる
    新月の暗い門を潜ったなら
    私の想いは果たされる

    願い石は沈むよ 貴方の体は浮かぶよ
    貴方は私のもとへ還るよ


     どこか死の匂いのただよう甘美な歌詞を繰り返し聴きながら、あの新月の夜の人魚の歌は熱烈な求愛と知ったのだった。



    ⇨⇨⇨ to be continued
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