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    Okoze

    @jkanaemill

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    Okoze

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    うみがめスープ承花スペースで出題されていた内容が素敵だったので。
    王子は人魚いんのための旅の途中。
    4。
    みんな大好きお兄ちゃん登場。

    ※徹頭徹尾、承花です。

    東の国の海の おはなし 4「あら 素敵な男前さん」
    「私たちに何か用」
     かしましい女たちの歓声が上がって、呆けていた王子は一気に現実に引き戻された。
    女達の反応には慣れているものの海の町だけあって随分と威勢が良く声も大きい。
    「今の歌は」
    「ああ 私たちの歌ね」
    「ずっと昔から伝わってる歌よ 悪魔の唄」
    「違うわよ 悪魔が教えた唄 っていうのよ」
    「長いわね」
    「どっちだっていいさね 男たちの無事を祈ってこうして毎日歌ってるのさ」
    「いい歌でしょう 歌い手が良いからね」
    「悪魔が教えてくれたからね この歌の届くかぎりは 誰も海に取られないんだよ」
    ひとつ質問すると矢継ぎ早に答えが返ってくる。

    なるほど。この地はあの悪魔と何か因縁がありそうだ。


    「人を探している」
    名前を告げると、女たちが一斉に中の一人を振り返った。
    「私のお兄ちゃんだわ」
    豊かな濡羽色の黒髪をほどいて、若い女が立ち上がった。
    「今日は引けるわね この人を家まで案内しなくっちゃ」
    羨ましいねぇ。でもアンタんとこの兄ちゃんだろ。大丈夫かね。先日もおかしな事言ってたものねぇ。
    「もー 会う前から変な印象つけないでちょうだい」
    手早く身支度を整えると舫に引っ掛けた手鞄を掴んで、颯爽と王子の腕を引く。
    「こっちよ ちょっと歩くけど」
    「いや馬を繋いである」
    女たちから再び甲高い嬌声が上がり、王子はため息をひとつ吐くと坂道を見上げ若い女を連れて歩き出した。


     坂の上の馬繋ぎに着くと、丁度餌やりを終えたらしい占い師を見るなり、若い女は歓声をあげて駆け寄った。
    占い師も懐しそうに目を細め応えている。旧知というだけでなく打ち解けた間柄であるらしい。ようやく道がついた。王子は安堵の小さなため息を漏らした。
    「この時間ならもう船屋に戻ってると思うわ」
    海路の案内の無い日は、漁師と同じく海に船を出しているその男は操舵にかけてはここいらで並ぶ者がいないと、若い女が胸を張る。
    「お兄ちゃんの舟は銀の戦車みたいに海馬を駆けるのよ」
    「お調子者だが…腕は確かではある」
    「そうか」
     馬に乗るのなんて久しぶり。乗せてくれるの?
    嬉しそうに王子に話しかける若い女に 彼は心に決めた相手がいる 君の兄上に余計な心配をかけるのも心苦しい 占い師はそう言って、自らの若馬に彼女を乗せた。
    「こっちよ」
    指差す方角に答えがあるように。祈るような気持ちで王子は鎧を踏んだ。




     彼女の案内で辿りついたのは、湾から丘ふたつほどに離れた小さな入江で船屋と言っていた通り、家の半分は船着場と思しき小さな小屋が海の中に建てられた、不思議な形をしていた。
     小屋の先端に少しだけはみ出した船尾を確認して若い女は 帰ってるわ と大きな声を上げ目を細めて嬉しそうに笑った。
    仲の良い兄妹であるらしい。

     落雷でも受けたのか半分ほど黒焦げになった軒先の柱に、馬を繋いで母屋へ向かおうとしたその時、占い師の名前を叫んで駆け寄ってくる半裸の若者が王子の目の前に現れた。

    「ひっさしぶりじゃねーーかッ!元気そうだな〜」
    屈託のない満面の笑みに、顔をほころばせる占い師はいつかの夜に彼のことを語った時と同じに優しい顔をしていた。
    「ちょっとお兄ちゃん お客様は一人じゃあないんだからッ」
    「お おう」
    そう言って王子に向き直った、西の海の国のお調子者は、針金のような銀の長髪を逆立てた筋骨逞しい男であった。
    この辺りの漁師の服装なのか肩に肩に布を引っ掛けたような仕立ての服を着ている。
     油で固めているのか。長い髪は垂れ下がることなく上を向いている。
    面白そうなやつだ。
    「随分と二枚目なヤローだが 一体俺になんの様だ」
    怪訝そうに王子をじろじろと眺めてくる。

    「悪魔の住む最果てに 行ったことがあるってぇのは本当か」
    王子はいきなり本題に切り込んだ。
    「あ?」
    鋭く睨み返し、返ってきたのは剣呑な響きであった。
    しばし無言で威嚇し合うように睨み合う二人を見てとって、これでは思うように案内を得られないのではないかと、王子の横で頭を抱えた占い師の気持ちとは裏腹に
    「最果ての城への道案内ならつい最近してやったばかりだぜ」
     紅い髪の人魚によ。
    目を見開いてまばたきする王子の表情を見て、はっはーーーッ!さてはオメェがヤツの言ってた相手かよ!陽気な声で笑い出したのは若い男の方だった。
    撫然とし王子の表情を下から値踏みするように覗きこんで、なるほどねぇ…こりゃでかいわ。さらに笑い出した。
    「お兄ちゃんたらまたそんな事言って」
    「あン?本当のことだって何回も言ってるだろーが」
    「そうかも知れないけど 誰も信じちゃくれないわ」
    腕はあるけれども頭のネジの飛んだお調子者って、また言われてしまうわ。
    横で頬を膨らませながら言う妹に、言いたいやつには言わせときゃあいいぜ。
    「本当の話だってんのによ ったく信用ねぇーなぁ俺はぁ」
    両手を広げておどけて見せる男に、それは違いないと占い師が頷いた。

    「人魚 だ と 」
    瞳は見開いて、ぐわりと銀髪の若者に迫って襟ぐりを掴んで問う王子の剣幕に押されて
    「お おぅ… 」
    先ほどより幾分か大人しく男は答えた。

    「‘月の形の岩を‘知らねーか?ってよ
    最初は声だけだったけど
    ‘姿を見せねーなら教えねーぞッ‘
     つったら顔だけ覗かせてよ」

    こーんな表情してたから なんか可哀想になってな…

    そう言いながら両手人差し指で眉間に皺を作りながら説明する。

    「…」
    それはよく見慣れた赤毛の彼の表情を思い起こさせた。





     銀髪の男の話はこうだ。

     東の空が真っ赤に染まる夕暮れ時。商いを終えて帰る途中、海の真ん中で声をかける者があった。
    「月の岩を知っているだろう 僕に教えてくれないか」
    むろん無報酬とは言わないさ。宝石なら用意がある。

     男とも女ともつかぬ今まで聞いたことのない声の響きに、こりゃぁ人間じゃねぇな…銀髪の男はそう思った。
    「教えてやってもいいが」
    得体の知れねー相手は気味が悪りぃなぁ〜
    「ここはひとつ 姿を現してくれるってんなら力になるぜ」
     動揺ひとつ起こさずにそう答えると、少しの逡巡の後にぱしゃんと尾びれを鳴らす音がして赤髪の男が海面から顔を覗かせた。

     船から樽ふたつ分ほどの距離をとりながら、眉間に皺を寄せぶつぶつ言っているが、ひと目で人ではないことは見てとれた。
     白く透き通るような肌と、見たことも無い紫水晶の双眸。
    魚の背鰭のような形をした両耳。
    夕暮れと同じ色をした真っ赤な髪色。
     銀髪の男と妹が住むこの海の近くでも、海を渡ってやって来る商人たちの船にも、こんな姿の者はいなかった。
     とんでもねー色してやがんな。
    海面の下は一体どんな姿をしていることやら…

    「これで満足か」
     月の岩までの道のりを教えてくれ
    そう言って男の舟に礫のようなものを投げてきた。
     近づいて見てみればそれは中央の王国名産と名高い、美しく加工された宝石の入った麻袋であった。
     これだけのものなら金に換えれば、妹の望む未来を準備することができるだろう。
    まだ道案内も果たさぬうちに先に報酬を渡してくるとは…こいつはとんでもないお人好しだ。
    「案内… してくれるんだよな」
    先ほどとは違って不安の混じる声が聞こえてきて、男は
    「ああ 任しときな」
    我知らず返答してしまった。


    「月の岩と聞いて 俺はぴーんときたね
     そこの占い師の野郎も知っての通り
    何年か前に俺は南の国から来た
    おかしなチビを案内したことがあったからな」
    立ち話なんてダメよ。お喋りするなら家に入って。
     男の妹が客人をいざなって小さな台所と暖炉のある小屋の中に入ると、三人の男たちは火の回りに腰掛けた。
    湯を沸かす細い腕に、占い師が懐からいつもの薬草茶を取り出して渡すと、銀髪の男の妹は嬉しそうに顔を輝かせた。

     そんな占い師をこの土地へと運んだ因縁。
    巨万の富を手に入れた男を、この銀髪の若者は確かに案内したと言った。
    「同じところをぐるぐる回っているような
    あんな不気味な仕事は二度とゴメンだと思っていたが…」
     結局、その人魚も案内することになっちまった。

    銀髪の男の話は続く。




    道すがら。銀髪の男は人魚に幾つかの質問を投げかけながら船を進めていった。
    「俺ぁ妹と二人暮らしだが 人魚に家族っているのか?」
    「失礼なヤツだな 僕らにだって家族はいる」
    「長生きすんの?」
    「陸の時間と海の時間は違う そういう意味でなら君たちよりは少しだけ長生きかな」
     偉そうにしている割には聞けば素直に答えてくる人魚はやはり、男の睨んだ通りのお人好しだった…いや、世間知らずなだけかも知れない。
    銀髪の男は、気立は良いがいささか人を信じ過ぎるきらいのある、素直な妹を思い出していた。

    「なんだよ 俺ら人間のこと
    もっと嫌ってんのかと思ってたぜ」
    「なぜ? 確かに愚かだと思う時もあるけれど
    君たちの作るものは面白いしきれいだと思うよ
     それに…優しい人間もいる」
     日暮れ近い暗い海に浮かぶ舟の上からは、人魚の表情はよく見えなかったが、その声音は大切な誰かを思い出しながら語る人の柔らかさに満ちていた。

     美しい歌声で船乗りを誘惑して海の底へ引きずり込むという…伝え聞く姿とだいぶ違うな。

    「なぁ 人間喰ったことあんの?」
    尾びれが大きな水飛沫を叩き、銀髪の男に降りかかった。
    「っナニすんだよッ!火が湿気っちまったら案内もできねーんだぞ」
    「それは これしきの水も避けられない君のヘマだろう」
    フンと鼻を鳴らして舟から少し距離を置いて離れていく。
    「だいたい海の中は豊かなんだ 君たちを食べるほど飢えてはいない」
    「そう言われてみりゃそうだな」
    納得している男の舟にふたたび近づいてきた人魚の顔がゆらりと舟あかりに照らし出された。眉間に盛大に皺が寄っている。
    「君は考えなしのお調子者のようだ」
    悪気はないのかも知れないが、失礼なヤツだ。
    「よく言われるぜ」

     月の岩は漁師の間では有名な、岩礁の入り口の目印であった。
     日暮れ近くに沖に舟を出すのは熟練の漁師たちでも避ける。
    月の岩の先一帯は厄介な岩礁になっており、逆に満潮時でなければ舟を進めるのは困難であった。
    中型の船でも近づかない。
    船体を引っ掛けてしまえば厄介なことになる不吉な場所でもある。

    海面ではなく水面の下進むならなおさらに…
    この人魚だって無傷では済むまい。


    「おい 目的地は あの半分白く見えてる岩だけどよ
    その先は 今いるところよりずっと水底が浅くなるぜ
    お前大丈夫なのかよ?舟に乗るなら手を貸すが」
    船の上から声をかけると、しばし停止してから抑えた忍び笑いが聞こえてきた。
    「残念だけど 僕は水から上がったら干上がってしまうよ」
    まだ人では無いからね…

    ーーーーなるほど そういうことかよ。
     前に案内した男は無尽蔵の富を得て、故郷で豪奢に暮らしていると、何年か前に南国から来た占い師に聞いた。
     どんな願いも叶える悪魔なら、人魚も人間へ変えることもできるのかも知れない。
    「俺が前に月の岩に案内した男は 悪魔に会って願いを叶える と言っていたが アンタもそのくちか」
    人魚は答えずに
    「君の操舵技術はなかなかのものだけれども それでも東の海の彼には敵わないな」
     大きくて美しくて…やさしい心を持った
     それは立派な若者なんだよ
     錫色の声でそれは愉快そうに笑ったので、銀の髪の若者はすっかり毒気を抜かれてしまった。そんな話をしてんじゃねーんだがな。

    「案内してくれてありがとう」

    お礼にひとつ良いことを教えるよ
     君たちの港に歌い継がれている
    あの歌は 名前の通り悪魔の教えた唄なんだよ
    「悪魔にたどり着くまでの 秘密の道行きを伝えているんだ」
    大事なのは順序だ
    君たちの使う魚網がただの一本の糸を幾十にも重ね合わせる
     まじない そのものと同じなのと一緒さ。
    僕は前にそのことを教わった。

    「歌われている数字が 道標になるんだよ」
    おっと…これ以上は言えないな

    「僕はもう行くけれど、いつか君も どんなことをしてでも叶えたい願いが出来たら あの唄を頼りに悪魔を訪ねてみるといいよ」

     そう言ってひときわ高く飛び上がった人魚の半身はまさしく魚そのもので、翡翠色の鱗が一瞬、舟の灯に瞬くと水音とともに消えた。
     一直線に岩礁を縫って泳いでいく水飛沫を暗闇に追いながら、弧を描く岩の下で一度振り返ると片手を挙げる。
     義理がたいヤツだ。
    尾鰭の瞬きと共にふたたび水の中へと潜って行く人魚を見送って、銀髪の男はその背中へ幸運を祈った。



    「俺はその場に縄を繋いで 長い時間待っていたが
    潮が引き始めて繋いだ岩場に舟の底が当たる頃になって
    さすがに引き返した」
    できる限りは待ってやりたかったが…
     見慣れた陸と舟屋が見えてきて東の空が白み始める頃に、男の引き返して来たはるか背後で雷鳴が鳴った。
    振り返れば先に後にしていた海域のあたりに黒雲が立ち込め、水柱が立っている。
     突然の局所的な嵐を目の当たりにして呆然とした男の船に、ひときわ大きな波が寄せてきた。
    引き潮だというのにその一波で、男の舟は一気に陸へと押し戻された。


    「あん時は冷や汗かいたぜ」

    まぁアンタがここまで来たってことは
    アイツちゃんと願いを叶えたんだよな!良かったぜ。
    ジンジョーじゃねえ暴風だったからなぁ。
    で?アイツは元気でやってんのかよ。

     薄い眉の下に満面の笑みを浮かべる銀髪男の、のんきした声を聞きながら、王子はため息をついた。
     何も問題がなければ、そもそもコイツを訪ねてはるばるやって来たりはしなかったのだ。

    やれやれだぜ。


    ⇨⇨⇨ to be continued
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