「僕のクロックス持ってきてください」
どうしてそうなった。
向こうへの事情説明もそこそこに通話終了する。
そんなの僕がいちばん言いたいことだッ。
繁華街から何番目かの通りを跨いで横道にそれたコンビニの前。
置かれたベンチに陣取ってビール缶を開ける。さっき買った二本目だ。
聞き慣れたいつもの音に気を良くしながら一口煽ってみても、やってしまった…少しの後悔は中々消えてくれない。
抱えた膝に顔を埋めて見つめる爪先の、ペディキュアの端が剥がれていて、思っていたより酔っ払っていたらしい自分にため息を吐く。
初夏まであと少し。
とはいえ…素足ではまだ肌寒い。
早く、来てくれないかな。
断れない飲み会とは別に、気に入った相手から声がかかって出かける夜は楽しいものだ。化粧っ気無しの普段着から少しだけスライドさせて周囲には気が付かれない程度に気合を入れる。
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