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    Okoze

    @jkanaemill

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    Okoze

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    愛すべきスカタン・レィディオにて 働く女子なら一度は経験あるある 素敵エピを受信したので承花で書きました。
    承典子そっとポル兄さん添え。
    ※徹頭徹尾、承花です。

    「僕のクロックス持ってきてください」


    どうしてそうなった。
    向こうへの事情説明もそこそこに通話終了する。
    そんなの僕がいちばん言いたいことだッ。

    繁華街から何番目かの通りを跨いで横道にそれたコンビニの前。
    置かれたベンチに陣取ってビール缶を開ける。さっき買った二本目だ。
    聞き慣れたいつもの音に気を良くしながら一口煽ってみても、やってしまった…少しの後悔は中々消えてくれない。
    抱えた膝に顔を埋めて見つめる爪先の、ペディキュアの端が剥がれていて、思っていたより酔っ払っていたらしい自分にため息を吐く。
    初夏まであと少し。
    とはいえ…素足ではまだ肌寒い。

    早く、来てくれないかな。



    断れない飲み会とは別に、気に入った相手から声がかかって出かける夜は楽しいものだ。化粧っ気無しの普段着から少しだけスライドさせて周囲には気が付かれない程度に気合を入れる。
    「お疲れさまです」
    声かけをしてするりと引っ込んだ退勤直前の更衣室。
    お気に入りのハイヒールに履き替えて、いつものアウターを一枚脱げば、そうは見えないデザイナーズブランド。
    化粧下地からしっかり仕上げて来た肌の調子は上々だし軽く手直しして、お気に入りのピアスを付ければ気分は上がる。
    仕事を通じて知り合った同性の相手と顔見知りの数人で女子会の運びになったのを数日前から楽しみにしていたのだ。
    178センチという身長もあって、日頃から普段着はほぼ 男装 状態の僕に「気に入った!」今度飲みに行こうよ。声をかけてくれたツワモノは鉄壁になりがちの僕のガードをすり抜けて実に快く手をひいてくれた。
    それが嬉しくて。
    数日前から同居人にもしっかり告知して準備は万端。
    …過ぎたのがよくなかったの か も 。
    個室を抑えた一次会は、料理が旨いと名の通った居酒屋でお互いの近況や仕事場であった珍事や名物上司をツマミにしてとても盛り上がった。
    みんな話が面白くて、どこかクセが強くて、好感度がさらに上がった。
    ご飯が美味しいな。お酒はそこそこに話を聞いていたら、見抜かれてしまい強制的に二次会参加となってしまった。
    半分に減った人数で飲めば親密度も酒量も増す。
    最近話題のブランドや日常使いにしているコスメの話まで、普段はこんな話しないなぁと、思いつつ打ち解けてしまって…とても楽しかったのだけれども。
    遅くなっちゃったね。またね。
    駅に向かう自分とは別に、タクシー相乗りで帰るという彼女達と別れて歩き出した途端。
    がくんと視界が左に傾いた。

    な… 何を言っているのか わからねーと思うが 
    おれも 何をされたのか わからなかった…

    いつもはお調子者の同居人のセリフが頭をよぎるが、何のことはない。
    ハイヒールの踵がポッキリ折れてしまったのだった。
    とりあえず道の真ん中ではどうしようもない。あそこに見えるコンビニに移動だ。
    一足ごとに踵を引き摺りながら、騙し騙し道を進む。うう、カッコ悪いことこの上ないな。今の僕。
    表にゴミ箱とベンチを設置したオープンな店構えのコンビニを前に、何も買わないのもなぁ…完全に酔っ払った頭で入店し、新発売のサクランボ味サワーと青ラベルを購入し、ふたたびベンチへ。
    脱いだヒールを確認すれば、見事に使い物にならなくなっていた。
    プランと垂れ下がる踵部分は形状から見て、コンビニの画鋲じゃどうしようもならない級。釘とか売ってなかったかな?
    いや…そんな事より、このままじゃ僕、今夜家に帰り着けないぞ。さっき、足ひねったっぽいし。

    ………
    ………
    ………

    猛然と腹が立ってきた。
    さっきまでものすごく最高に楽しい夜だったのに。
    どうしてだ。
    お気に入りのヒールなのに。お前どうした。しっかりしてくれよ。こんな情けない姿で僕を支えられるわけ無いだろうッ!

    ガッとヒールを両方とも脱ぐと裸足のままベンチ横のゴミ箱へ思いっ切り叩きつけるように投げ入れた。
    こっええなぁ。おい。
    通りがかりの若者二人に、にこやかに微笑んで当て身くらわすぞの構えをすると、ささっと目を逸らされた。
    それから僕は、ペタペタとベンチに戻ってサクランボ味サワーの缶を開けた。


    これはどうしようもないな。
    同居人に電話するしか……すごく悔しいけど。

    あのハイヒールだってずっとお気に入りだったんだ。
    ピアスと合わせて色が可愛いねって褒められたばかりだったのに。
    気がついてもらえて嬉しかったのに。
    うっかり、僕も気に入っててずっと履いてるんだって口走っちゃったのに。
    ごめんね。ありがとう。大好きだったよ。

    カラン、と音を立てて転がったサワー缶を拾い上げて、僕はスマホを取り出した。



    冒頭に戻る。



    だがしかし…

    「な、なんで君が」
    お調子者のちょっと年上の同居人に連絡したはずなのに、現れたのは195センチの大男だった。
    飲み終わったものはとっくに片付けていたけれども。ゴミはゴミ箱へ。
    こんな醜態は見せたくない唯一の相手なのに。


    やれやれだぜ
    聞こえてきた声に顔が上げられない。

    「…帰るぞ」
    おもむろにかがみ込んだ大きな両腕が伸びてくる。
    「へ…?」
    ぐるりと変わった視界に、僕の大好きな緑色の瞳と整った顔が飛び込んできて頭がくらくらした。近ッ!近いよ!
    「く、クロックス」
    「あ?」
    「履き物ちゃんと頼んだろう 出してくれ」
    「持ってねぇ」
    そりゃそうだ。僕が連絡したのは同居人のポルナレフだし、クロックスはその家にあるのだ。
    どうして。よりによって。承太郎に。
    …おのれポルナレフ。
    「き、君 さてはクルマで来たんだな?」
    「ああ」
    「もー 君のクルマ大き過ぎて目立つから嫌いなんだよッ!どこに停めた?」
    「そこの24h」
    「よく入れたなッ!」
    「俺は運が良い」
    そうだったね…
    「おろして…くれれば 歩くから」
    「…裸足でか」
    「うん…」
    「酒くせぇな あんまグダグダ言ってるとまた肩に担ぐぜ」
    「それはやめてくれ」
    ん…大人しくしてな。
    はい。

    いつもより小さめのバッグを抱えながら縮こまる僕を、所詮、お姫様抱っこで運んでいくこの大男は今夜も世界一の男前だった。

    「…靴 捨てちまったのか」
    「は?」
    「似合ってたのによ 残念だったな」
    「う…ん 僕も気に入ってたんだけど ね 」
    お酒臭いかな…小声ガチで答えていると抱えられた腕にグッと力がかかって顔が近づいた。
    「新しいの買ってやる 次は俺とにしろ」
    耳元でそう囁かれて、声の必死さに気がつく。こんな醜態見せたくなかった…でも。
    いちばんに心配して駆けつけてくれたのは承太郎なんだ。
    強ばった体が不意に緩んだ。
    「ごめん」
    「…ああ」
    「気安い友達が出来たのが嬉しくて…つい飲み過ぎてしまったんだ」
    「良かったな」
    「…本心かい?」
    「どうだかな」
    今度は僕の方から抱きついた。

    「迎えに来てくれてありがとう」


    こうして僕のはじめての お酒で失敗 体験は幕を閉じたわけだけど、後日、
    「は?コンビニ入れたんだったら瞬間接着剤で直せただろう 思いつかなかったのかよ」
    呑気に言い放った同居人には渾身の肘鉄を食らわせてやった。


    失くした靴は戻らないけど、もういいんだ。
    恋人が買ってくれた新しい靴で、また違う景色を見に行ける。


    もちろん、大好きな友人達とも飲みに行くけどね。

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