Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    Okoze

    @jkanaemill

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 32

    Okoze

    ☆quiet follow

    春のキス祭りがあるなら冬のキス祭りがあってもいいんじゃあないかな。

    ※徹頭徹尾、承花です。

    「手袋を出しておいたよ」
     寒くなってきたからさ。

    出勤前の玄関先でコートを羽織る彼に声をかける。
    ん…と短く答えて黒の革手袋をとってはめている彼の指先は長い。
    つい目で追ってしまうのは仕方ないことだ。人は美しいものに目を奪われる。
     世界最強の僕の彼氏はいつだって美しいのだから。

    自分のぶんの手袋を掴んで一緒に家を出る。
    彼は大学へ。僕は財団へ。
     途中で降ろしてもらって、車の窓越しにいつもの会話をする。
    「遅くなるようなら連絡する」
    「うん わかった」
    大学の客員教授とはいえ、研究室持ちで進行中の仕事も少なくない。
    定時で出られないこともあるのにこまめに毎日迎えに来る彼を、申し訳なく思っていた時期もあったけれど…これが今の僕らの日常だ。
     茶色の革手袋をはめたまま、ひらひらと手を振って僕は車を見送った。

    財団の別棟施設から戻ると、建物の前に彼が立っていた。
     白いコートに黒の手袋の長身が一際目を引く。
    心なしか早足になって駆け寄る。
    「外で待ってるなんて聞いてないぞ」
    声をかければ帽子の下に隠れた深い碧色の瞳がきらりと光った。
     飼い主を見つけて走り出す大型犬みたいだなぁ…駆け寄ったのは僕のほうだけれども。
    どれだけ待っていたんだろう。
    「寒くないかい」
    「いや… お前の方こそ」
    なぜ手袋をはめていないんだ。

    「外作業で手が汚れるからはずしていたんだよ」
    そう言って鞄から取り出す。
    決して忘れていたわけでは無いんだよというように。…忘れていたけれど。
     少し赤くなった鼻先を啜ると、持っていた手袋をいきなり取り上げられた。
    「承太郎?」
    「冷えきってんのはてめぇの方だろう」
    右手をとられて、え?と思う間もなく指先にくちびるを押し当てられる。
    思っていたよりずっと熱い…。
    温めるつもりなのか丹念に何度も口づけられて、頬に血が上ってきた。

    「ちょっと君 ここ外だぞ」
     焦って早口になる僕を撫然と見下ろしている。その表情は言わなくても分かる。
     それがどうした。だ。
     さっき取り上げられた革手袋を片方、長い指がはめてくれている。
    見た目の重厚さと裏腹に、彼の仕草はいつも丁寧で繊細だ。

    「そっちの手も出しな」
    「いいよッ!自分でできる」

     一瞬見とれてしまったのを見透かされていないか、な。
     もう片方の手袋をひったくるようにして自分ではめると、小さく忍び笑いが聞こえてきて気まずさに耳が熱くなる。

    「もう…さっさと車に乗ろう」
    「手は繋がねーのか」
    「つながないよッ」
    きっと睨み返せば、上機嫌そうに笑っている男前の顔が近づいてきた。


    そのくちびるが肉厚で柔らかいこと。君の心そのままに熱いこと。
    僕だけが知っている。

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💯💯💖💖💘💯💴💯💯💯💯💯👏💕💴💴💴💴💴💴💴💴💴🇱🇴🇻🇪💘💘💘💗👃👃👏👏💗💗👍💴💴💴😍😍💴💴💴💴💴💒💒💒💒💒💒💒💒💒💒💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works