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    sayuta38

    鍾魈短文格納庫

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    sayuta38

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    しょしょ現パロ6月新刊の冒頭・・・

    2LDKの暮らし「魈。これからもずっと、例え生まれ変わっても、俺と共に人生を歩んでくれないだろうか」
     望舒旅館の露台にて、鍾離は長年共に居てくれた魈に向けて、人生六千年以上の中で唯一の、一世一代の告白をした。
     それを受けた琥珀色の瞳は、一瞬驚いたように見開かれ、それから柔らかく眦を下げ微笑んだ。暖かな風が吹いて、銀杏の葉が舞い、翡翠色の髪を揺らす。それは後世に残したいと思う程、美しい風景画のようだった。
    「それは、生涯の伴侶。ということでしょうか」
     鍾離は以前よりそのような考えを持っていたが、それは魈を自分から未来永劫縛り付けることになってしまうので中々言いだせなかった。だから、魈からそんな言葉を聞けるとは思っていなかったのだ。
     既に凡人になって数百年の時が流れており、傍らにはいつも魈がいてくれる。百余年に渡り鍾離は言葉を尽くしても足りない程に尽くし、やっとのことで魈を口説き落とした。その心地良さを手放したくなかったのだ。しかし、そろそろ自分の終わりも近いと感じていた。
    「俺は人生の半分の時間もお前と共にいれなかった。それだけが心残りだ」
     出会ってから数千年。これが恋だと気付き、積年の思いを抱きそれを伝え恋仲という間柄になれてからは数百年の時を共に過ごした。しかし、まだ足りなかった。この先、例え生まれ変わったとしても、まだまだ魈と共にいたいのだ。
    「わかりました。お受け致します。我も生涯に渡り、鍾離様と共にいることを誓います」
     契約書を交わしますか? と、実に淡々とした調子で魈が言った。後悔はしないのか。鍾離以外の良い人に出会うかもしれないが、本当にいいのか。何度も確かめるように聞いたが、「鍾離様以上の人に出会うことはありません」と魈はきっぱりと言い放ち、契約書に拇印を押していた。
     こうして、モラクスとしての最後の契約書は、想い人を生涯愛することを誓うものになった。恥ずかしながらもこの書類が後に博物館に保管されていることを知るのは、随分と先の話だ。
     鍾離の方が、その時が訪れるのが僅かに早かった。鍾離様は寂しがり屋なので、我の方が先でなくて良かったです。と言いながらも珍しく涙をはらはらと零し、それでも頑張って笑みを見せようとしている美しい夜叉の姿が最期の光景だった。また、どこかでお会いしましょう。と口付けをされ、これ以上ない幸せな終わりだった。
     魈もまた、夜叉としての生涯を終え眠りについたのだろう。それから、転生を繰り返しては共に過ごしている。
     そんな長い人生の中の、ほんの一時の話を聞かせてやってもいい。
     ……魈が良いと言うならな。


     この世に生を受けた時から、誰かを探していると思っていた。
     見つけて欲しくて泣いた。見つからなくて泣いた。探しに行けなくて泣いた。泣いても無駄だとわかって泣くのを止めた。
     後から産んでくれた親に話を聞くと、名をつける時、夢見枕に神が立っていて『魈』と名をつけてもらいたい。と言っていたらしい。何かのお告げかと思い、その通りに名付けたようだ。
     魈は幼い頃から窓の外を見ている事が多くよく泣いていたが、幼少期のある時から急に大人しくなったらしい。あれはきっと神様を見ていたのだと言っていた。
     探していたのが神であれば、それは出会うことなど到底無理な話である。だから忘れようと思った。実際忘れたまま月日は流れ、魈は大学生になっていた。
    「今日から非常勤講師として世話になる。名を鍾離と言う」
    (鍾離……)
     大学も二年目の春を迎えていたが、教壇に立ち自己紹介をしていた鍾離という男を見た瞬間、なぜだか以前会ったような気がしてならなかった。丹精な顔立ち、宝石のように美しい石珀色の瞳を持つその男は、歳の割には上質のパリッとしたスーツを着ているように思えた。短髪かと思われたが後ろで一つに括っており、実際の髪は腰あたりまで届くくらい長いようである。美丈夫という言葉が似合いそうなその男は、一度見たら忘れることはできないだろうと思った。だから、余計にどうして以前会ったことがあるなどと思ってしまったのか、不思議でならなかった。
    「普段は歴史の研究をしている。少しでも歴史に興味を持ってもらえるよう努めていくのでよろしく頼む」
     鍾離は教室を見渡しては、生徒と目を合わせ頷いていた。律儀な男のようだ。女子生徒からは「かっこいい……」と感嘆の吐息が漏れているのが聞こえたが、気持ちはわからないでもないと魈も思う。
    「……っ?」
     魈とも目が合った。その瞬間、鍾離は少しだけ口角を上げ微笑んだように見えたのだ。その途端、頭に突き刺す痛みを感じて手で押さえた。するとすぐに痛みは引いていったので、気の所為だったと思い鍾離の講義を受けた。
     だが、鍾離の声を聞く度にやはりどこかで聞いたことのある気がしてならなかった。異様に耳に馴染むこの声は一体どこで聞いたのだろう。同時に少しずつ頭が重く、目の前が霞んでくる。しぱしぱと強く瞬きをして軽く擦るとマシにはなるのだが、講義の最中鍾離と目が合う度に、それはどんどん酷くなっていくような気がしていた。
     そればかりか、胸が苦しくなってきて呼吸も浅くなってきた。講義内容なんてどうでもいいから、この鍾離という男がどこで会った誰なのかが知りたくて堪らなくなった。しかし、考えれば考える程に頭が締め付けられるように痛み出したので、机の上に伏してそれに耐えた。そんなことをしている間に講義が終わり、挨拶をして鍾離は教室から去って行った。すると、先程までの痛みが嘘のようになくなり頭が軽くなったのだ。一体なんだったのだろう。
    「魈、大丈夫? 具合悪そうだったけど……」
    「……ああ、大丈夫だ。問題ない」
     隣の席には幼馴染の空が座っていたのだが、気にされてしまったようだ。幼い頃から唯一といっていい程傍にいた友人である。
     そうだ。空に聞けば鍾離のことが何かわかるのではないか。魈はそう思い、尋ねてみた。
    「空。あの鍾離という男だが……お前はどこかで会ったことがあるか?」
    「鍾離先生? ない……かな?」
    「……そうか」
    「魈はあるの?」
    「わからない。会ったことがあるような気もするのだが、全く思い出せずにいる」
    「鍾離先生なんて、一回見たら忘れなさそうだもんね」
    「ああ」
     答えの出ないことに悩んでいても仕方がない。空も見たことがないのであれば、魈の思い違いであると結論づけることにした。
     今日の講義内容が終わり、魈は帰宅するべく教室を出る。サークル活動などで賑わう声を聞きながら渡り廊下を通り、階段を降りて校舎の出口へと向かう。
     その時だ。先程講義を受けたあの男が向こうから歩いてきたのである。
    「あっ……」
    「君は……確か魈といったか。気をつけて帰るんだぞ」
    「は、い……」
     まただ。石珀色の瞳と目が合った瞬間頭が痛み出した。それも、先程よりも強い痛みを感じる。次第に頭が割れそうな程の激痛に変わってきたので、早くこの男から離れなければと思った。
    「さようなら……鍾離先生……っ」
     せめてもの礼儀として名前を呼んだだけのはずであったのだが、その名を口に出した瞬間胸が苦しくなり、その場に立っていられなくなってしまったのだ。
    「魈……?」
    「名を、呼ぶ、な……」
     ずるずるとその場に蹲り、膝をついてしまった。頭が割れそうに痛くてぎゅっと目を閉じる。
    「大丈夫か魈!」
    「……触るなっ、ぅ」
     鍾離がしゃがみ込んで魈の肩に触れた途端、今度はなぜか訳もなく目尻に涙が溜まり、やがて溢れ止まらなくなった。身体が変だ。自由が効かなくて、今にも床に倒れ込んでしまいそうだった。
    「は……っ、は……」
     とうとう座っていることもできなくなったが、冷たい床へ倒れ込む前に鍾離に抱き留められた。男の匂いがふわっと香る。通常男に抱き締められるなど嫌悪感しか抱かないはずなのだが、この時の魈は違った。
    「鍾離、様……?」
     懐かしいと感じるそれに息を吐くと、身体の方は限界だったようで、目の前が真っ暗になった。


     目が覚めると、知らない場所にいた。保健室の硬いベッドではなく、ふかふかの布団に魈は寝かされている。ふと自分を見ると、元々着ていた衣服ではなく魈の身体より大きなサイズのパジャマを着せられていた。
     いっそ誘拐でもされてしまったのだろうかとも思ったのだが、意識がなくなる寸前まで一緒にいたのは鍾離であったということを思い出した。寝返りを打つと、心做しか先程一瞬だけ感じた鍾離の匂いを感じる気がする。袖口に手を当てて再度スンスンと匂いを嗅ぐと、やはり鍾離のものだと思った。では、ここは鍾離の家なのだろうか。
     高い本棚にはびっしりと本が詰められている。歴史を担当していると言っていたが、歴史書だけに留まらず色んな系統の本を読んでいるようだった。
    「鍾離様は、相変わらず書物を読むのがお好きなようだ」
     勝手に口が言葉を発して納得していたことに気づき、魈ははっとして口元を押さえた。
     今、自分は何と言い、どうしてそう思ったのだろうか。
    「魈、気がついていたか。気分はどうだ」
    「鍾離様……はい、大丈夫です」
     部屋の扉が空き、鍾離が顔を覗かせたので慌てて起き上がった。魈は石珀色の瞳を見たが、もう頭痛や胸の苦しさなどは感じなくなっていた。
     ただ、改めて顔を見るとはっきりとわかったのだ。目の前にいるのが、生涯の愛を誓った鍾離であるということに。
    「すまない。お前が倒れた後保健室まで運んだのだが、中々目が覚めなくてな。ご両親に連絡もつかなかったので、連れて帰ってきてしまった。しかしもう夜も遅い。心配されているだろうから俺から事情を話そう」
    「……親は仕事で家にいないことも多く、連絡はつかないと思います。一人暮らしなので特に心配もしていないかと。それより、鍾離様」
    「どうした」
    「その、鍾離様は……今日初めて我と会った訳ではないと思うのですが……その……」
     魈はその昔自分が夜叉であった頃の記憶を思い出していたが、思い出したのはついさっきの話である。鍾離が魈を覚えていない可能性もあり、再会を喜ぶには気が早いと思った。
    「魈」
    「はい……」
    「俺は、ずっとお前を探していた。やっと会えたんだ。魈」
    「鍾離様……! それでは」
    「ああ。魈は俺を覚えているか?」
    「はい。と言っても、思い出したのは今なのですが……すみません……」
    「構わない。忘れたままであったなら、また一から出会おうと思っていた」
     鍾離がベッドの上にあがり、近くで石珀色の瞳にじっと見つめられる。少しずつ鍾離との距離が近くなっていき、久しぶりの再会に胸が高鳴って仕方なかった。
    「触れてもいいか?」
    「……はい」
     控えめに頷くと、鍾離にぎゅう、と抱き締められた。魈。と名前を呼ばれ、はい。と返事をする。聞き慣れた鍾離の声と体温に、今度は胸がいっぱいになってじわじわと眼の前がぼやけてくる。おずおずと鍾離の背中に手を回して、魈もぎゅっと鍾離に身を寄せた。
    「我はずっと、誰かを探していると思っていました。それが誰のことであったのか、今わかって嬉しいです」
    「魈……また、俺と共に人生を歩んでくれるか?」
     記憶が戻ってから、まだ数時間も経っていない。魈はもうすぐ二十歳にはなるが、まだ婚姻を結ぶには若いと言えるだろう。早急すぎる告白に、鍾離らしくないなと魈は可笑しくなって、思わず笑みが溢れる。鍾離は何度生まれ変わってもこうして求婚してくれるのだ。生涯の伴侶の契約を結んだものの、その気持ちが変わっていないのかを確かめたいのだと言う。
    「はい、もちろんです。鍾離様」
     魈が頷くと、手を取られ甲に口付けをされた。
    「ありがとう。ずっと愛している」
     再び骨が軋む程力強く抱き締められ、耳元で再度愛の言葉を告げられる。何一つ変わらない、魈に愛を注ぎ続けるあの時別れた鍾離のままだった。何度も名前を呼ばれ、返事をすると魈の涙腺が決壊したようにぽろぽろと雫が落ちていく。
     魈。鍾離に貰ったその名と共にまた鍾離と過ごせると思うと嬉しくなって、魈も少しの隙間も開けずに抱きつき身を寄せた。もう少し触れていたいと思ってしまう。このまま体温をもっと感じていたくて仕方ない。
    「……っ」
     目が合うと、触れるだけの口付けをされた。この身では初めてのキスだったように思う。その後も二度、三度と唇を啄まれ、頬が熱くなっていく。舌も触れ合わない簡単な口付けではあるが、このまま夜を共に過ごしたとしても何らおかしくはない雰囲気になっていた。
    「魈……」
     シーツの上に押し倒され、再度唇を啄まれる。とろんとした瞳で鍾離を見れば、石珀色の瞳にも熱が灯っていて、ああ、これから鍾離に抱かれるのだと思った。
    「駄目だな。これ以上すると帰したくなくなってしまう。今日は家まで送ろう」
    「鍾離様……」
     ところが、鍾離は起き上がってベッドから降りていった。拍子抜けしてしまい、魈も起き上がってシーツの上に座り直した。魈は学生ではあるが、もう二十歳になるのだ。何らこの後を過ごしたとして問題ないはずである。
     魈の衣服はハンガーに掛けられていたようで、それを持ってきた鍾離に着替えるように促された。
    「その、とりあえずと俺のパジャマを着せたのだが……案外いいものだな」
    「いささかサイズが大きいように感じます」
    「それが良いのだが……まぁ良い。すまない。今日はお前に会えたのが嬉しかったのだが……性急過ぎたな。今度はちゃんと泊まりにこれるように用意をしておこう」
    「泊まり……そうですね」
     再会したからといっても、元々の生活もあるのだからすぐに一緒に暮らせる訳でもない。わかってはいるのだが残念な気持ちになり、気落ちしてしまう。
    「お前は一人暮らしなのか?」
    「そうですね。早く家を出た方が良いかと思い……あ、特に親と不仲という訳ではないのですが」
    「そうか。どうせなら二人で家を借りて暮らすのも悪くないと思ったのだが……まだ早いのならお前が仕事を始める頃でも構わない」
    「な、あ、鍾離様、その」
    「どうした?」
    「我が……待てそうに……ないです」
    「……ははっ。そうか」
     鍾離は嬉しそうに笑って魈の頭を撫でていた。就職をする頃ということは、早くても鍾離と暮らせるのは二年も先ということになる。仙人であれば二年など瞬きの間に過ぎないのだが、凡人の身では充分に気が変わってもおかしくはない月日でもある。
    「俺も明日にでもお前と暮らしたい気持ちはある。だからそんな顔をするな。ちゃんと迎えに行くから安心して欲しい」
    「はい……」
     いくら生涯の愛を誓ったとはいえ、その契約を終わりにすることだっていつでも出来るのだ。魈の気が変わることなどないのだが、鍾離から終わりにしようと言われれば、いつでも受け入れるつもりでこの契約を結んだのである。
     今の世に生まれてから今まで、恋愛事に全くといっていい程興味はなかった。同級生の恋愛ごとの話を聞くことはあっても、自分には縁のないものだと思っていた。それがどうだろうか。さっき出会ったばかりの鍾離と離れたくないとまで思ってしまっている。
     仕方なく元々着ていた衣服に着替え、鍾離に自宅まで車で送ってもらった。助手席に座るよう促され、シートの真ん中にちょこんと小さく座る。鍾離が隣で運転しているのだと思うと勝手に鼓動が早くなっていくので、ハンドルを回す鍾離の姿が見れなかった。しかし、実に丁寧な運転だったように思う。
     お互い気持ちが変わっていなかったことに安堵はしたが、今の自分もちゃんと鍾離の隣に並び立てる姿をしているのか、少しだけ不安に思ってしまった。しかしそれは今聞いてはいけないような気がして、口を噤んだ。
     鍾離は、魈の家からは少し距離があるマンションに住んでいるようだった。とは言っても、璃月港から望舒旅館よりは近い距離と言えるだろう。
     車を走らせている間も、今までどのような暮らしをしていたか少しだけ話を聞いていたのだが、とにかく魈を探すために非常勤講師を始めたと聞いた時には驚いてしまった。しかし、自分たちはもう仙人ではない為、気配を追って探し合うということがもうできないのだ。その上今回は魈に記憶もなかったので探すのに苦労したと言っていたので少し申し訳なく思った。
     しかし、魈に記憶が戻らなくても傍に居られればそれも悪くないかと思っていたと言われて、また頬が熱くなった。
    「きっと……鍾離様に出会ったら、我は何度だって好きになっていることでしょう」
     魈がそう伝えると、鍾離はまた柔らかく微笑み、嬉しそうな顔をしていた。
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