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    sayuta38

    鍾魈短文格納庫

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    sayuta38

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    しょしょドロライ20回目
    16回お題から「おかえり/ただいま」

    #鍾魈
    Zhongxiao

    ただいまとおかえり 鍾離が帰ってくるのを待つ生活を始めてから、数日が経った。
     夕暮れと共に暗くなってくるリビングに、そろそろ灯をつけなければと魈は立ち上がる。電気をつけると部屋の中にぱっと暖かみが増す。晩御飯を作りだすのに良い時間だと、炊飯器のセットを始めた。
     ガチャガチャ。晩御飯も無事に作り終えた頃に、玄関から音がした。鍾離がリビングに入ってくるまでのちょっとした時間は、未だに少しだけ緊張してしまう。家の中のどこにいようか。すぐ顔が見えるリビングのソファで座っているのが良いか、それともすぐに晩御飯が食べられるようにキッチンに行って用意を始めるのが良いか。無駄に家の中をウロウロしてしている間に、鍾離が廊下を抜けてリビングへと入ってきていた。
    「ただいま、魈」
    「お、おかえりなさいませ、鍾離様」
     結局リビングの真ん中で棒立ちしたまま、魈は鍾離を出迎えてしまった。
     一日仕事をして来たであろう鍾離だが、衣服に一つの乱れもなく、朝と同じ姿で魈の目の前にいる。
     魈の顔を見た後は、鞄やジャケットを自分の部屋に片付け、手洗いなどを済ませてから再び鍾離はリビングに戻ってきていた。
     魈はその間に器を棚から出して、料理をテーブルに並べていく。今日はご飯と卵焼きと味噌汁だ。お世辞にも綺麗な形にできたとは言い難いが、魈は工程が複雑な料理は作れないので、ただ焼いたものや煮たものを作ることが多かった。
    「俺も手伝おう」
     鍾離はそう言うと、味噌汁をよそってテーブルに運んでくれていた。運ぶものは運んだので、あとは座って食べるだけだ。
    「魈」
    「んむ」
     鍾離が近付いてきたと思った途端、肩を抱かれ口付けをされた。軽く触れ、二度目は少しだけ深くなって、そして離れていった。
    「ただいま」
    「……おかえりなさいませ」
     じっと石珀色の瞳に見つめられて、魈は息をするのも忘れてしまいそうになった。少しの間をおいて、鍾離が柔らかく笑みを見せる。その後にゆっくりと抱擁されて、もう一度だけ鍾離は「ただいま」と言っていた。ふわっと香る鍾離の匂いに、少しだけ顔が熱くなった。
    「……自分の家に魈がいて、帰りを待ってくれているのは嬉しいものだな」
    「あ、はい……」
     気の利いた言葉が思いつかず、魈は素っ気ない返事をしてしまった。お役に立てて良かったです。と返答するのも何か違う気がする。鍾離はこの数日、隙あらば抱擁してくるのだ。魈が家にいて、と共に暮らし始めたことをより実感したいのだと鍾離は言っていた。
    「すまない、せっかくの料理が冷めてしまうな。いただこう」
    「……承知しました」
     各々席について、食事を始める。今日の学校の様子を聞かれた後は、だいたい鍾離が主に話をしている。休みの日以外は一日数時間しか共に過ごせないと思うと、少しの会話も貴重な時間に感じるのだ。
    「明日はバイトがあるのか?」
    「はい。なので、帰りは二十二時を過ぎると思います」
    「そうか。ならば明日は俺がおかえりを言う番だな」
    「……そうですね」
     家に帰ると鍾離がいる。毎日おかえりとただいまを言い合って過ごす日々に、魈も少しずつ鍾離と暮らしているのだと実感が湧いてきた所だ。一人暮らしの時に、例え玄関の扉を開けて真っ暗でも特に寂しさなどは感じていなかった。しかし、自分を待ってくれている人がいるというのは、帰宅するのことが楽しみに思えてくるから不思議である。
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    sayuta38

    DONEしょしょドロライ10回目
    (お題9回目)ホワイトデー
    ホワイトデー「この日に手伝いを頼みたいのだが、空いているだろうか」
     鍾離が指しているのは三月十四日だった。特に何の疑問も持たずに二つ返事で魈は了承し、当日鍾離の家へと訪れていた。
    「朝からすまないな。装具を外して上からこれを羽織り、そこの紙袋を持って俺と共に璃月港を回って欲しいんだ」
    「……承知しました」
     凡人に扮して鍾離の手伝いをして欲しいということなのだろう。手伝いならばといそいそと葬具を外し、身の丈程の長い外套を羽織った。紙袋はいくつも用意してあり、確かに鍾離一人で持ち歩くには大変そうだった。
    「では行こうか」
    「はい」
     璃月港を鍾離と共に歩く。何処へ向かうのかと思ったが、三歩程歩いたところで鍾離が女人に話し掛けていた。魈の知らないただの凡人へ、鍾離は紙袋から一つ包みを渡し手短に会話をした後、別れの挨拶をしていた。そして、また三歩程歩いては別の女人へと声を掛けに行っている。何用で女人へ話し掛け、何用で包みを渡しているのか、魈へ説明がなかったので想像もできなかった。これは一体どういうことだろうか。疑問を口にしたくても次から次へと鍾離は女人に包みを渡すべく声を掛けているので、口を挟むこともできなかった。
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