ラズベリー取りゲーム「ラズベリー取りゲームをやりたい人~!」
「……鍾離様は……このゲームの内容をご存知でしょうか」
考えもせずすぐに質問するのはいけないとは思っているものの、聞かずにはいられなかった。こそっと耳打ちするように背を伸ばすと、鍾離は身体を傾け、魈の言葉に耳を傾けてくれていた。
「実は俺もよくは知らない。こういったものは実際やってみる方が早いかもしれないな。手をあげてみるか」
「な、あ、はい」
岩王帝君でも知らないゲームがあるのかと、魈は驚いてしまった。しずしず「やらせてもらおうか」と言いながら手をあげる鍾離に合わせ、魈も手をあげた。
テーブルの上にはラズベリーが置いてあり、テーブルの回りには小さなハムスターが立っている。「よ~い……」というアルパカの号令と共に、ハムスターはぐるぐるとテーブルの周りをスキップしだしたので、ハムスターの間に入り、鍾離とテーブルの周りを一緒になって歩いてみた。
アルパカが「取る!」と言った時にラズベリーを取ると勝ちのようだ。ラズベリーを見つめながら小さな歩幅で歩いていると「取る!」と突然アルパカが言った。瞬時にラズベリーを鷲掴むと、ハムスター達に「早い!」と言われ、なんとも言えない気持ちになってしまった。反射で取ったものの、ハムスターに比べると随分早く取ってしまった。……勿論鍾離よりも早くに、だ。
「はは、さすがは魈だ」
ハムスターと一緒になり、鍾離は魈に賞賛の言葉を述べ拍手をしている。ハムスター達もラズベリーを取ってはいたが、一匹は取れなかったようで少し気落ちした表情をしていた。そして、鍾離もラズベリーを手にしていなかった。
「し、鍾離様!?」
「ん? どうした?」
鍾離の瞬発力であれば、ハムスターより早くにラズベリーを取れていただろう。敢えてラズベリーを取らないで見ていたことに魈は気づいてしまった。魈、或いはハムスターに花を持たせたのだ。そう思うと、いち早くラズベリーを取ってしまった事が恥ずかしくなってきてしまった。
「今度は難易度が上がるぞ!」
アルパカがそう言うと、ラズベリーは消え、ラズベリーとオレンジがテーブルに現れた。
「ラズベリーを取った人のみ、報酬を獲得できる」
アルパカの説明と共に、ハムスター達は再度テーブルの周りを歩き出した。ラズベリーはテーブルの上に二つしかない。鍾離も歩き出したので、魈もラズベリーを見つめながら歩く。アルパカがやけに息を溜めながら「よ~い……」と言っている。先程よりも魈は緊張していた。
出来ることならば次は鍾離に取ってもらいたいが、また鍾離はこのゲームを見ているだけなのだろうか。その場合は魈が取らなければ、そもそもこの勝負に勝つことができないので魈がラズベリーを取る方が良いだろう。
鍾離の顔とラズベリーを交互に見る。鍾離の表情からは何一つ次の行動が見えない。そればかりか、鍾離は口角をあげ笑みを返してきた。鍾離の真意が笑みからはわからない。どうすべきか、魈はまだ決められないでいる。
アルパカが「ラズベリーを取る!」と言うまで、あと数秒。