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    sayuta38

    鍾魈短文格納庫

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    sayuta38

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    しょしょワンドロ1回目

    #鍾魈
    Zhongxiao

    背中合わせ 俺の名は鍾離。またの名を岩神モラクス。契約の神だ。
     一度契約を交わした内容は、それを反故にすることは絶対しない。それは当たり前のことではあるのだが……。
     俺には今、どうしても破棄したい契約がある。
    「魈……」
    「いけません。そういう契約をしたのですから」
    「しょう……」
     縋り付くような声色で名を呼んでみたのだが、ぴしゃりと拒絶の声音で返ってきた。さすがは俺に長年仕えているだけのことはある。融通が効かない。契約は絶対的である為に、二の句が告げなくなってしまった。
     ここは俺の寝台であり、俺が横になっている後ろ側の、拳一つ分くらい空間を空けた先に魈が横になっている。こんなに近くにいるのに、背中合わせで眠ることになってしまったのは、魈とそのような契約を交わしたからである。
     魈と共に夜を過ごしたい。共寝して欲しい。と頼んだところ「良いですが、一つ条件があります」と言われた。それが『背中合わせで眠ること』である。
     それでも魈が共に寝てくれるなら良いかと承諾したが、かえってこの距離感がもどかしい。腕を伸ばせば届く距離ではあるが、契約を破れば二度と共には眠りません。と魈に言われている為、それも叶わない。
     この状態が一ヶ月程続いている。魈は律儀に毎日俺が眠る頃にやって来て、共に眠った後は朝になると居なくなっている。眠った後の退出の頃合は契約にはない為、朝目覚める時に魈が居なくても問題はない。
     問題はないのだが少し寂しく思ってしまう。
     共に眠って欲しいのは勿論そうなのだが、折角だから、もっと近くに居て貰いたい上に、更に抱き締めたい気持ちが湧いてくる。魈の匂いを肺一杯に取り込んで、その香りに包まれたまま眠りにつきたい。と思ったところで、それは確かに魈からしてみればたまったものではないだろうと思い直し、この距離感に甘んじることにした。
     そもそも、魈は俺のことをどう思っているのか、確かめたことはない。俺はもう今すぐにでもこの家に住まわせたい程に魈のことを好いているのだが、思えばそれを魈に伝えたことはなかったように思う。
     このままでは眠れない。こういうものは言い時を逃してしまうと言えなくなってしまう。今しかない。そう思い、意を決して口を開いた。
    「魈。正直に言うが、俺はお前のことを好いている」
    「そうですか。…………はっ!?」
    「だから俺はもうこのまま背中合わせで眠ることに耐えられそうもない」
    「なっ、あ、あの、背中合わせですと、いつでも害から身を守れる故、そのような契約を交わしたのですが、これは夜の番を頼まれたのでは、なかったのでしょうか……?」
    「初めはそれで良かったのだが、足りなくなった。魈、こっちを向いてくれないか?」
    「む、無理です! そちらを向けば、明日からはもうここには来ません!」
     背中越しに明らかに同様と困惑が伺える声が返ってきた。しかし、拒絶されている訳ではなさそうだった。
    「では、今日が最後でも良い」
     布団から身を乗り出し、そっと魈の顔の横に手をついて上から見下ろした。ひぃっと声をあげた魈は、顔から首筋までをわかりやすいほどに朱に染めている。
    「鍾離様……我、我に近づくと業障が……」
    「あれだけ毎日共に寝ていて、今更影響が出ると思うか?」
     目を全く合わせず、必死に理由を探して視線をうろつかせている姿が可愛らしい。
    「あの、鍾離様」
    「観念しろ、魈」
    「わわっ」
     魈に覆いかぶさり、その小さな身体をぎゅっと抱き締める。魈を抱えたまま横になり、正面から抱き締め直した。魈の柔らかな髪が俺の頬をくすぐる距離。ずっとこうしてみたかったのだ。自分の腕の中にすっぽりと収まってしまう体躯が愛おしい。
    「明日からは、違う契約を交わしたいが、良いか?」
    「しかし、わ、我は鍾離様とそのような関係にはなってはいけない存在で……」
    「誰がそのように決めたのだ?」
    「我は、幸せになってはいけないのです!」
     魈は顔を背け、顔の前で腕を交差し、そう言い放った。魈は終わらない償いを抱えたまま生きている。それはもう俺がどう言いくるめた所で、魈の心の内は晴れないのだろう。
    「……俺とこうすることで、お前は幸せになってしまうということか……?」
    「っ……」
    「答えろ、魈。俺はお前の幸せを願っている。返答によってはお前のことをこのまま離せそうにない」
    「……だから、こちらを向かれるのは、嫌だったのです……」
     魈は目元を指先で覆い、ぽつりと呟いた。それは魈が俺を好いていると判断するに充分に値するものだが、俺とこういう関係になることに二の足を踏んでいるということでもある。
    「別に俺の気持ちには今すぐ答えなくて良い。俺はいくらでも待つつもりだ。しかし、明日からも共に眠る契約は交わして貰えそうか、返事が欲しい」
    「我は……我は……」
     魈は目元を隠したまま、しばらく沈黙した後に小さく頷いた。今はこれが精一杯という返事が愛おしい。
    「感謝する」
     そう返すと、魈は首を緩く振った。この距離が許されるならばと、魈を寸分の隙間もなく抱き締め直し、その日は眠りについた。
     次の日は契約を交わしてから初めて、朝目覚めた時に、まだ魈が布団の中にいた。こちらを向いたままあどけない寝顔を晒している魈の唇に口付けるのは、まだまだ先の話になりそうだ。

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