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    sayuta38

    鍾魈短文格納庫

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    鍾魈短文

    #鍾魈
    Zhongxiao

    いい夫婦の日「魈、今日は何処にも出掛けずに俺の洞天で過ごさないか?」
     朝、日の出と共に望舒旅館へ訪れた鍾離は、魈の部屋へ一歩入ると、椅子に座ることもなくそう仰った。
    「え、あ、はい……それは、降魔も行ってはならないということでしょうか?」
    「そうだ。今日のお前は何もしなくていい。ただし、やりたいことかあれば何でも言って欲しい。勿論降魔以外での話だが」
    「……? 承知しました」
     鍾離の真意がわからない。先程までだいたいの魔は屠ってきたため、しばらくは魔を掃討せずとも大丈夫ではあるのだが、何故突然このような誘いを受けているのかの説明がない。
    「では、早速向かうとしよう」
     手のひらをこちらに差し出され、握るように促される。説明を受けたところで断ることはしないのだから良いかと思いながら、そっと手のひらを重ね、軽く鍾離の手を握った。
     鍾離の仙術によって瞬時に鍾離の洞天へと辿り着く。手を引かれるままに邸宅の中へと入った。以前に来た時よりも飾ってある骨董品が増えている気がする。そのまま寝台のある部屋へと連れて行かれ、椅子に座るよう促された。なるほど。今日は伽の用事で呼ばれたのだろうと察しがついた。
    「ここで待っていてくれ。今茶を入れてくる。先程まで降魔をしていたのだろう? 寝台に横になっていても良いぞ。楽にしていてくれ」
     そういうと鍾離は部屋を出て行ってしまった。降魔が終わったばかりとはいえ、鍾離の寝台で横になれと言われても気分が落ち着かない上に、自身も綺麗とは言い難く不敬が過ぎるので、椅子に座ったまま窓の外の景色を見ながら待つことにした。窓のふちにはヤマガラが数羽何やら話をしている。それに耳を傾けていると、段々瞼が重くなってきた。鍾離が折角お茶を淹れようとしてくれているのに、眠りながら待つとは何事だ。と気を張ろうとするけれど、窓から差し込む太陽の光がどうにも温かく、この部屋の鍾離の匂いも相まってつい緊張が解れていってしまう。いつの間にか魈は椅子にもたれながら、ウトウトと眠ってしまっていた。

     ハッと目が覚めた時には目の前に鍾離が座って茶を飲んでいるところであった。慌てて立ち上がり、眠っていた非礼を詫びた。
    「鍾離様! も、申し訳ございません……叩き起こしてくださっても問題ありませんでしたのに……」
    「疲れている仙人様を叩き起こす凡人など罰当たりではないか? それに、あまり見れない魈の寝顔を堪能できて、俺は満足していたがな。寝台で横になっていても良いと言っただろう?」
    「まだ湯浴みを済ませていなかったため、そのようなことは不敬が過ぎます……」
     苦虫を噛み潰したような顔で鍾離に伝えると、鍾離はハッとした表情をして茶をテーブルに置いた。
    「そうか、湯浴みか。気が効かずすまない。今沸かしてくるから茶を飲みながら待っていてくれ」
    「っ鍾離様!」
     すかさず鍾離が立ち上がり、また部屋を出て行こうとしている。全く真意がわからない。伽ではないのか? どうして鍾離は今日こんなにも魈の世話を焼きたがるのだろう。
    「ん? なんだ?」
    「その……自分で風呂は沸かせます……これ以上あなたの手を煩わせるには……」
    「先程も言っただろう? 今日は俺が全部やると。そうだな。今日は俺がお前の身の回りの世話を全部したいんだ」
    「なぜなのでしょうか……聞くのは無粋とはわかっているのですが……一方的に世話を焼かれるのはどうにも性に合わず……」
    「今日がいい夫婦の日だからだ」
    「……は……?」
     しれっと答える鍾離に魈は困惑するしかなかった。なんだその日は。いい夫婦の日……。いい、夫婦……。夫婦……?
    「わ、我と鍾離様は……その」
    「先日伴侶の契約をしただろう?」
    「ぁ……はい……」
     かぁっと顔が熱くなって脳が揺れた。思わず俯いてしまう。確かに契約は交わした。それ以来これといって住まいを一緒にしたりということもなく、何かが変わった訳でもなかったので、半分鍾離の戯言かと思っていたのだ。
    「凡人が今日はいい夫婦の日と言っていてな。慌てて休みを取ってきてしまった。夫婦二人家の中で仲良く過ごす日だそうだ」
    「あぁ……そう、なの……ですか……」
     全く脳が理解出来ていないが鍾離は楽しそうだった。凡人の間ではそのような日があったとは……それを聞いて鍾離がお茶を淹れたり風呂を沸かそうとしてくれていると知って、頭がくらくらしてきた。
    「いつもお前には苦労を掛けているから今日は俺がやりたいと思ってな。風呂が沸いたら二人で入ろう。その後は……特に決めていないな。共に眠るのもいい。お前はどうしたい?」
    「ぁ、それは……うぅ……」
     ここは鍾離の洞天で、恥ずかしいからと逃げることは叶わない。その上ここに来て己は鍾離の伴侶なのだと自覚させられてしまった。顔ばかりか全身が火照ってくる。真正面にいる鍾離に己の要求を告げ叶えて貰う絶好の日ではあるのだが、突然そんなことを求められても既にいっぱいいっぱいで脳が破裂してしまいそうだ。
     おのれ……凡人の考えることは、まだまだ理解できそうにない。
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