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    sayuta38

    鍾魈短文格納庫

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    sayuta38

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    現パロ鍾魈「こたつ」

    #鍾魈
    Zhongxiao

    こたつ 想い人の傍であれば、例え無言で時が流れようと、それぞれが別のことをしてようと、気にならないものだ。
     テレビも特に必要に感じていなかったのでこの家にはない。共に暖まるのが面白そう。ということで鍾離が購入したこたつに入り、向かい合って座っている。
     なるほど、暖かくてここから出たくない。という学友の言葉もわからなくはない。
     などと思いながら、魈は冬休みの宿題に手を伸ばした。
     今日はバイトも夕方からで、昼過ぎまでは時間が空いている。朝早く目覚めなくとも良いのだが、なんとなく身体が起きてしまう。
     それは同居している鍾離も同じようで、休みの日だからとだらだら惰眠を貪るようなことはしていなかった。
     朝食を終えた後は、各々温かい飲み物を用意して、好きなことをしている。
     当初一緒に住み始めた時には、朝食も飲み物も鍾離が起きてくるより先に用意しようと思ったのだが、各々出来ることは自分ですれば良い。と言われてしまった。しかし、鍾離の方が目覚めが早く、魈が起きた時には簡単なサラダがいつも用意されくれているので少し申し訳なく思っている。
     珈琲の香りは好きだが、飲むとなると少し味が苦手である。しかし鍾離はこの苦味が好きなようで、一日に何杯も飲んでいる。鍾離が豆を挽き、お湯を注ぐ度に珈琲の香りがリビングに充満する。その瞬間が好きだった。
     リビングにはダイニングテーブルもある。寒くなる前はだいたいそこで過ごしていたのだが、こたつが来てからはこたつで過ごすようになった。
     各々部屋は一応あるのだが、ほぼ荷物置き場になっており、勉強などもリビングで行っている。それは鍾離も同じようで、鍾離の部屋には天井近くまである本棚が三つ程はあるが、本を読んだりするのは専らリビングのようだ。
     これは特に取り決めも交わしていないのだが、自然にリビングに集まってやりたいことをしている。この距離感が心地良くて、好きだった。
    「手が止まっているな。難しい問題にでも当たったか」
     珈琲を飲みながら歴史書を読んでいた鍾離であったが、ふとペーシを捲る手を止めて、こちらに視線を向けた。
    「……いえ……もうすぐ解けそうなので、大丈夫です」
     今日は数学の宿題を解いていた。公式と睨めっこしながら式を埋めていく。二学期の成績も悪くはなかった。むしろクラスでは良い方だったように思う。成績表を鍾離に見せると、頑張ったな。と頭を撫でられ褒められたことを思い出したところで、ハッとして再び問題に向き合った。
    「見ようか?」
    「いえ! ……鍾離様の手を煩わせる訳には……」
     向かい側から鍾離がずい。と身を乗り出して問題を見ている。額が触れ合いそうな距離感に、思わず身を引いてしまった。
    「ふむ。少々複雑であるようだな」
    「そのようで……」
     鍾離は大学で教授をしている。自分の専門分野に留まらず、普段から幅広く知識を取り込んでいるので、このような問題など朝飯前であろう。
     教わるのは簡単である。しかし、自分の力で考えなければ己の学力には繋がらない。それなのに、鍾離もじっと見ていると思うと、余計に頭が回らなくなってしまい、解に辿り着けなかった。
    「この公式を使うといい。あとは……そうだな。ここを解いて……そうだ。解けたな」
    「はい。ありがとうございます」
     鍾離は微笑ましく笑顔を向けた後、自分の位置に戻り再度歴史書に目を通していた。
     いくら勉学に励んでも鍾離との知識量の差は埋まらない。
     追いつきたい。隣に並びたい。役に立ちたい。
     焦っても仕方がないのだが、今は自分も凡人の身である。悠長にしていると今世が終わってしまう。それを鍾離に伝えれば、いつの世でも追いつく必要はないと言われてしまう。
     凡人は助け合って生きていくものだ。俺がお前の手を取ることは何もおかしいことではない。
     鍾離は事ある毎にそう言っているが、魈が鍾離のために出来ることなどほぼ何もない。それが申し訳なくて歯痒い。
    「まだ何か悩み事か?」
    「いえ……」
     少しぼんやりしてしまった。続きの問題も解き終え、今日の宿題範囲はこんなものだろうかとノートを閉じた。
    「そろそろ昼食の時間か。外へ食べに行こうか。そのままバイト先まで送ろう」
     鍾離も本を閉じ立ち上がる。バイト先まで送られるということは、迎えに来てくれることと同義だ。
    「帰りの時間はいつだ? それまでに晩飯を作っておこう」
    「あ、えぇと……」
     鍾離の方が歳上ということもあり、鍾離は何かと魈の世話を焼きたがった。今日は講義が早く終わった。などと言って学校に迎えに来ることも度々あった。いちいち校門で騒ぎになるので控えていただきたいのだが、虫除けは定期的にしておかなければならないからな。と訳の分からないことを言われて流されてしまう始末である。
    「鍾離様に返せるものが何もなく……いつも鍾離様にして貰うばかりで……我は……」
     いつもと同じやり取りのはずなのに、急に胸が苦しくなって手のひらで押さえた。あまりにも不釣り合いだ。と自分が認めてしまっているからだろう。
    「魈、どうした……?」
     突如として漠然とした不安が襲ってきて、呼吸が浅くなる。何故かその場から動けなくなってしまった。
    「何でもないのです。なんでも、ありません……」
    「俺は……お前が何も出来なくても、何もしてくれなくても、傍に居てくれればそれで良いと思っている」
    「そんな……」
     鍾離に気に入られる為に勉学に励んでいる訳ではないのだが、そこまで頑張らなくても良いと遠回しに言われ、ぼう然としてしまう。
     魈の様子が変であることを気取られ、鍾離が傍に来て頬に手を添えられる。何故だか涙が出そうで堪らなかった。
    「魈、何を不安になっているか知らないが、俺という人間は完璧ではない。話が長いと呆れられることもあるし、俺にも人の好みはある。魈のことが好きであることに変わりはない」
    「はい……わかっています」
     魈のことを好んでいる。これは何万回も聞かされている言葉である。
    「いいや、わかっていないな。昼食に出かけるのは止めて、こたつで暖まろうか」
     鍾離が魈の傍でこたつに足を入れ寝転び始めた。ぐいっと腕で引き寄せられて、抱き枕のように抱えられてしまった。魈も強制的にこたつで寝る体勢になってしまったのだ。
    「ああ、暖かいな。こたつで暖まるのも、こうしてうたた寝するのも、お前と一緒が良い」
    「……こたつで寝ると風邪を引くと聞きますが」
    「なら二人で風邪を引こう。たまにはだらだら過ごすのも良い」
    「風邪を引くのは嫌ですが……すみません……では、しばし休みます」
    「うん。そうしてくれ。俺もそうする」
     魈は瞳をゆっくり閉じた。こたつが暖かいのは勿論なのだが、鍾離の体温も暖かく心地が良い。春の陽だまりにいるような気分だ。不安だった心が溶けていく。鍾離もそう思ってくれていると良いな。と思いながら、うとうとと意識を落としていった。
     ……次に目を開けた時には、バイトに行く出発時間ギリギリに目覚めてしまい、結局は鍾離にバイト先まで車で送られてしまう、魈なのであった。
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