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    sayuta38

    鍾魈短文格納庫

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    sayuta38

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    鍾魈短文「ままならない」
    現パロ。魈くんが部屋にこもって出てこなくなったので心配する先生の話。

    #鍾魈
    Zhongxiao

    ままならない 寝室を別にしているのは、何も明確な理由がある訳ではない。勿論共に眠るのは至福のひとときなのだが、眠る時間も起きる時間も違う。敢えて理由をつけるなら、魈は俺が後から布団へ入ったり寝返りを打つ程度でも一瞬目を覚ましてしまうので、ゆっくり眠って欲しいと思った。ということと、たまにお互いの部屋へ行って眠ると新鮮な気持ちになって、心が少し踊ってしまう。ということだろうか。
     朝、日の出と共に目覚め、関節を伸ばしながら起き上がる。洗顔などを済ませた後、湯を沸かして珈琲豆を挽く。全自動のコーヒーメーカーをそろそろ購入しても良いのだが、自分の挽き方で味が変わるのが面白く、なんとなく自分でゴリゴリと豆を挽いている。たまに魈が豆を挽いてくれるが、物凄く細かく粉にしてくれるので、その時の珈琲は割と苦い仕上がりになる。それすら楽しいと思ってしまうのだから、どうしようもない。
     魈も俺も今世ではただの凡人だ。いつも人間という訳でもない。鳥の時もあれば猫の時もある。それでも出会っては一緒にいる。記憶はなんとなくあるので、どうしても探してしまうのだ。
     魈も凡人なのだから、しっかり食べさせようと思うのだが、相変わらず少食で薄味を好んだ。朝は食べなくても良いです。と言われたが、いつも簡単なサラダだけ作って置いておく。俺の方が朝出る時間が早いのだが、帰って来るとちゃんと食べている様子はある。
     魈の部屋には勝手には入らないようにしている。魈は、特に隠すものはないのでいつでもどうぞ。とは言っているが、魈も魈で俺の部屋には勝手に入っては来ない。そもそも、お互いなんとなくずっとリビングにいるので、部屋に行くのは寝る時だけとも言える。
     そんなある日、夕方帰って来ても朝用意して置いたサラダがそのままテーブルにあった。リビングに魈の姿は見えない。かといって、玄関に靴はあったので外へ出ている。ということでもなさそうだ。
    「魈?」
     自分の部屋にいるのだろうと思い、ドアをノックしてみたが、返事はなかった。眠っているのだろうか。それとも、課題でもしていて集中しているので声が聞こえていないか。
     集中しているのであれば、邪魔をしてはいけない。いつもなら晩御飯の用意を魈がしてくれていたりするが、何の用意もされていなかった。そんな日もあるか。と、簡単な料理を作り、魈の分を取り分け、後で部屋から出てきたら食べられるようにラップをしておいて置いた。久しぶりに一人で食事をしながら、向かい側に置かれた料理が冷めていくのを眺めているのは、なんとも寂しい気持ちになった。
     結局、俺が寝る時間になっても魈が姿を見せることはなかった。
     次の日の朝、昨晩夕食に作ったものはそのままの姿でテーブルに置かれていた。
     一体どうしたのだろう。
    「魈」
     再びドアの向こうへ声を掛けるが、返事はない。スマートフォンはあるので何かあればメッセージでも入れてくれれば良いのだが、それもない。
     部屋の前を無駄にウロウロして考える。最近の魈の様子と、己の言動と、己の行動を省みる。特に喧嘩になった覚えもなければ、魈がムッとした顔をしていた覚えもない。平穏な、ただの日常が流れていただけのように思う。
    『何かあれば連絡してくれ。心配する』
     魈のスマートフォンへメッセージを送り、仕方がないので仕事場へ向かうことにした。
    『我の部屋にはしばらく入らないでください』
     それだけのメッセージが昼頃に届いた。それ以上は何もメッセージが来なかった。女々しいと思われるかもしれないが訳を聞きたい。何か不快な思いをさせてしまったのなら、謝罪をするし改善もする。
    『わかった。ご飯くらいはちゃんと食べなさい』
     それだけ送ってみたが、夕方になっても既読にはならなかった。余計に魈の事が気になってしまい、早々に仕事を引き上げて、残りは家でやろうと書類を持って帰った。
     しんとした家だ。冷えた空気を感じる。朝、もしかして食べるかもしれないと置いたサラダはやはり食べられた様子はなかった。
     しばらく、とは、何日くらいだ。
     お前はご飯も食べずに何をしている。
     何も伝えようとしない魈に、少なからず苛立ちを感じた。何でも言えばいい。課題が難しくて困難だ。学校でこんなことがあって嫌な気持ちになった。なんでも。なんでもだ。
    「ケホッ、ゴホッ」
    「……?」
     僅かに咳が聞こえた。魈の部屋からだ。その後も息苦しそうな咳が聞こえる。なるほど。風邪を引いている可能性を考慮していなかった。
     俺に移したくない。しんどくてご飯が食べられない。部屋から出られない。
     容易に想像がついた。
    「全く……言えばいいものを」
     しばらく入るなと言われた魈の部屋の扉を、ノックも声掛けもせず問答無用で開けた。
    「し、鍾離様……! ゲホッ、ゲホ」
     ベッドの上で、口元を押さえ魈は咳き込んでいる。寒くて暖房もついていない部屋。空になったまま置きっぱなしのコップ。いつからだ。いつからお前はそうなっているんだ。
    「寒くはないのか?」
     出来るだけ冷静に声を掛ける。そうしないと今すぐこの部屋から連れ出してしまいそうだった。
    「布団の中は温かいです……それより、早く部屋から出てってください」
    「薬は飲んでいるのか?」
    「何か食べないと薬は飲めないと書いてあったので……食欲もないので……その……」
    「何故同じ家にいるのに連絡しない?」
    「鍾離様に迷惑を掛けたくなく……ケホッ」
    「明日病院へ行こう」
    「そんな……ただの風邪です。熱もおそらく下がったので、そろそろ大丈夫かと」
    「熱もあったのか……? 魈。今のお前は凡人だ。俺も凡人だ」
     今更迷惑を掛けたくないなどいう魈に苛立ちが止まらない。何千年一緒にいると思っているんだ。
    「はい。わかってます」
    「いいや、わかっていない。人の身は弱い。今はもう俺もお前も仙力でどうにかならんのだぞ」
     ぐっと拳を握る。相手を覇気で跪かせる力を今は持っていない。
    「……鍾離様、何か怒ってますか……?」
    「ああ。怒っている。久々に怒りを感じている」
    「……申し訳ありません……」
     言葉だけの謝罪ということはすぐにわかった。迷惑を掛けたくなくて俺を頼らなかったことに俺が怒っている。ということがわかっていない。
    「……いい。俺も、今言うことではなかった。すまない。言われた通りに出ていこう」
     静かに部屋を出て、扉を閉める。ひとまず状況がわかった。理解できた。それだけでいい。
     魈は昔からそういうところがある。わかっていた。わかっていたじゃないか。


    「その……鍾離様……おはようございます」
     次の日になり、気まずそうな顔をしながらもリビングへと姿を現した。挨拶をした後、テーブルにサラダがあるのを見つけ、礼を言いながらそれに手をつけ始めた。
    「ああ、おはよう。もう体調は良いのか?」
    「はい。今日からは学校へ行こうと思います」
    「そうか。寝たきりで急に動くと辛いぞ。それにまだ少し咳が出ているだろう? 送っていく」
    「いえ……その、目立つので……」
    「では近くの駅まで行こう。帰りは何時だ? 迎えに行く」
    「鍾離様は仕事があるのでは……」
    「合間に抜け出すことくらいなんでもない。家族の体調不良の他に優先すべきことなどないからな」
    「あ……はい……ありがとうございます……」
     家族……と魈が口で転がして、少しだけ頬を朱に染めている。
    「家族には、体調が悪くなったら……それを伝えるべきですか?」
    「当たり前だ。業障ではないのだぞ? 病を長引かせる理由はない。むしろ長引いて何日も顔を見せない方が心配になる」
    「……はい。申し訳ありませんでした……。鍾離様は、まだ怒っていらっしゃいますか……?」
    「怒っていると言ったらどうなる?」
    「えと、鍾離様の言うことを何でも聞くので、と許しを請います」
    「普段から聞いているように思うが……?」
    「……それでも、です」
     魈は俺の機嫌を取りたいらしい。よく凡人ではケーキを買ってきたりするといった話を聞いたことがあるが、魈にはそのような発想はないのだろう。まぁ、俺も魈がケーキなど買ってこようものなら、怒りなど忘れて驚きのあまり硬直してしまうかもしれないが。
    「では、今日は共に眠ろうか。俺の部屋で」
    「……はい! ……そんなことでいいのですか……?」
    「ああ、充分だ」
     深く頷くと、魈はほっとしたように息を吐いた。
     その夜は、狭いシングルベッドに二人で身を寄せ合って眠った。いつもより部屋の温度も、布団も温かく感じる。
     本当に凡人というのはままならない。だからこそ、面白いと思う。



     そんな出来事があってから随分経った頃のことだ。
    「その、鍾離様……喉に違和感があり、少しだけ熱っぽさを感じます。風邪を引いたようです。なので、しばらくリビングで過ごすのを控えようと思います」
     体調の変化はなるべく早めに伝えてくれと言われたので、普段なら何も言わずに部屋に籠るところを申し出てみた。この程度の風邪なら大事には至らずに治るだろう。しかし、どちらにしても鍾離様が心配してしまうと言っていたので、少し学んで改善してみようと思ったのだ。
    「熱は測ったのか……?」
    「いえ……」
     鍾離様はリビングで本を読んでいらした。我が伝えたことも本を読みながら聞いていたし、返事をする時も目線は文字を追っていた。だから、鍾離様の中でも些末な出来事として処理されたであろうと思ったのだ。
     パタン。と本を閉じ、鍾離様は立ち上がった。無言で我の方へ歩み寄り額に手を添えられる。続いて顎から首元にも指を這わせて、ふむ。と言っていた。納得されたのだろうか。ちなみに鍾離様は医者ではない。
    「よし、病院へ行こう。今ならまだ午前診療もやっている。急ごう」
    「は、え……?」
    「風邪は引き始めが肝心だ。そうだ、粥も作らなければ。お前は体調が悪くなるとすぐにご飯を抜くからな。少しでも食べれるものがいい。やはり杏仁豆腐が良いだろうか。それなら病院帰りに買って帰ろう」
    「いや、あの、鍾離様、この程度……」
    「今日は学校は休みなさい」
    「いえ、学校へ行こうと思っていました」
    「駄目だ。俺も仕事を休もう」
    「あぁ……」
     有無を言わさない力強い声で鍾離様が言う。我はこの後病院へ連れて行かれてしまうのだろう。あまつさえ粥を食べさせようとしてくるかもしれない。この程度、本当に何でもないのに。
     鍾離様には我のことは気にせず仕事に行って欲しい。寝ていれば治るのだから。
     やはり……この程度で言うのは控えよう。
     そう思わずにはいられない、我であった。
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