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    sayuta38

    鍾魈短文格納庫

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    鍾魈短文、だきまくら。鍾離にだきまくらにされる魈のはなし

    #鍾魈
    Zhongxiao

    抱きまくら 珍しく夜通しで業務に当たった。堂主の仕事の振り方は、こちらが元岩神である事を知っているかのように容赦がない。
     陽の光が海を照らし始め、璃月を今日も輝かせている。その景色を見ること自体は好んでいるのだが、些か目に染みるような気もした。身体が休むことを欲しているのは、少し凡人の生活にも慣れてきたということなのだろう。
     ようやく自宅へ辿り着いたが、今日も午後から来て欲しいと堂主に言われているため、一休みした後に家を出なければならない。神であった頃の忙しさとはまた違う種類の忙しさに、疲労とはこのようなことを言うのだろうか。と玄関の扉を開けた。
     昨日窓掛けを開けたまま出掛けていたので、程よく居間には太陽の光が入っていた。外套を脱ぎ洋服棚へ納め、折角休むならと睡衣に着替えた。
     寝室の扉を開け寝台に目を向けると、そこには柔らかい光に照らされ、眩いばかりに光り輝く翡翠色の髪が視界に入った。美しくも神々しいその姿に、一瞬目を奪われて立ち止まる。されど数回瞬きをして、金色の輪郭をしっかりと捉えた。
    「魈……?」
     鍾離の寝台には、何故か魈が横たわっていた。寝台の上、布団もかぶらずに端の方にやや身を丸めて眠っている。幻想かと思い目頭を押さえて再度見てみたが、やはりそこにいるのは魈であった。
     何か体調に悪い所があったりなど、急用があったのだろうか。わざわざこの家を訪ね、鍾離が帰ってくるのを待ってくれていたのだろうか。
     頬から首にかけて手を触れる。熱などの異常はなさそうだ。背中にも触れてみる。漏れ出すような業障の気配も感じられない。では何故、彼はここで眠っているのだろう。
     ここは起こすべきなのか。魈がいるから寝台が狭いということもないので自分が休むことにはなんの支障もない。ただ、なぜ魈がここにいるのか、疑問が浮かんで仕方なかった。
    「ん……」
     いっそ神聖な気配すら感じる仙人様を見つめていると、微かな呻き声と共に、琥珀色をした瞳が薄っすらと見え隠れした。僅かに身動ぎしているが、まだ微睡みの中にいるようだった。
    「魈。起きたのか」
     柔らかい翡翠色をした髪に触れる。これだけでも気分が安らぐ気がした。
    「……帝君……? なぜ、ここへ……?」
    「……ここは、俺の家だが」
    「……?」
     魈がゆっくり起き上がり、ふと視線を周りに移した。その後この場所が何処か気づいたようで瞬時に飛び上がり、寝台から転げ落ちるようにして膝をつき、額を床へ擦り付けていた。
    「ひっ!? あ、わ、し、鍾離様! も、申し訳ございません。一介の夜叉が勝手に寝台で眠りこけることなどあってはならない事です! 今すぐ消え去りますのでお許しください」
    「待て、待て待て」
    「罰でしょうか。承知しました。何なりとお受け致します」
    「言ってない」
     いつも静かに話をする魈が、異様に早口で捲し立て口を動かしていることにおかしさすら感じてしまう。
    「魈。ここに上がりなさい」
     鍾離はすぐ隣をトントン、と叩いた。しかし、魈は床から額を離すことなく首をブンブン振っている 
    「罰はない。何もしないから寝台にあがってくれないか」
    「しかし……」
    「お前は俺に何か用があってここに来ていたのではないのか?」
    「それが……よく覚えていないのです……」
     覚えていないと魈は言う。無意識にでもここに帰って来てくれる事は単純に嬉しく思う。
    「ほう……? 丁度良い。俺は今帰ってきた所だ。少し時間はあるか?」
    「こんな明朝に帰宅されるとは……益々我は居ない方が良いかと存じます」
    「魈」
     全く顔を上げない魈に焦れてしまい、少し言い聞かせるような強い口調で名前を呼んだ。
    「わ、わかりました……」
     魈は床から擦るようにして、実に低い姿勢でおどおどしながら寝台へ上がった。お前は仙人で高貴な夜叉なのだ。そのような行動を取らずとも良いのに、どうしてそうなってしまうのかと深い息を吐く。すると彼の肩が跳ね上がってしまった。視線は俯いたまま、正座をして拳を太ももの上に置いてじっとしている。
    「横になって布団に入ってくれるか」
    「その……夜伽を所望されているということでしょうか」
     魈はぎゅっと拳を握った。ちなみに、夜伽の相手を魈にお願いしたことはない。
    「違う。ただ抱き枕になって欲しいだけだ」
    「だ、だきまくら……?」
     ぱっと魈が顔をあげた。今日初めて目が合った。魈は緊張した表情から一転して、困惑の表情を浮かべている。
    「そうだ。短時間で高品質な睡眠を取る為に、お前に抱き枕になって欲しい」
    「わ、我がですか……?」
     降魔大聖を抱き枕にしたいなどという願いを叶えられるのは、自分くらいなものだろう。
    「他に誰がいる? 甘雨に頼めというのか?」
    「いえ! いえ……それは……少し……」
    「少し……?」
    「い、嫌……です」
     嫌。嫉妬という言葉すら知らなさそうな魈から、はっきりと口にされたその言葉に口角が少し上がってしまう。
    「はは。ならばお前にしか頼めないだろう。昼過ぎにはまた出る。それまでの時間だ」
    「……承知しました……」
     おずおずと布団に入り、鍾離に背を向けて魈は横になった。鍾離も布団に入り、魈を背中越しにぎゅうっと抱き締めた。先程まで陽が当たっていた髪は良い香りがする。程々に腕にすっぽりと収まる体躯は最高の抱き心地である。
    「こっちを向いてはくれないのか?」
    「抱き枕の抱き心地を考えると、こちらの向きの方が良いのかと思いまして……」
    「はは。そうだな」
     ぎゅうっと更に力を込めて肩口に顔を埋めると、魈の手がそっと腕に触れてきた。なるほど。あながち魈の申し出も悪くない。
     嗚呼、最高の夢が見れそうだ。この後どんな業務が待っていても、あと三日くらいは働けそうな気がしてくる。
     起きたら何か魈には褒美を取らせないとな。鍾離はそう思いながら、僅かな休息に微睡んでいった。
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