Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    sayuta38

    鍾魈短文格納庫

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 71

    sayuta38

    ☆quiet follow

    鍾魈小話。現パロ。
    鍾離が飲み会に行くので魈も飲み会に行く話

    #鍾魈
    Zhongxiao

    飲み会の日 今日は珍しく、鍾離が飲み会で夜にいない日だった。散々魈もやれ大学やらバイト先やらの人と飲みに行っているので、飲み会に鍾離が行くこと自体は別に何とも思わない。しかし魈を気遣ってか、大抵の飲み会はいつも断って帰ってくる。何千年も一緒にいるのに、同じ家に帰ってきて食事をするのを楽しみにしている。と言われてしまえば返す言葉に詰まってしまい、そうですか。としか言えなくなる。
     他に誰も居ない、二人だけの家で生活を始めて数年が経った。最低限の物音しかしない静かな暮らしだ。
     鍾離は近くにいることはわかっていたが、高校へ行っていた時にたまたま実習生として授業に来ていたことで再会を果たせた時には、訳もわからず涙が溢れて仕方がなかった。高校卒業と同時に鍾離の家に転がり込んでいるような状況だが、鍾離の家は元からいつ魈が来てもいいように一部屋開けてあったらしい。
     よもや金輪際感じることがないと思っていた『幸せ』というものを噛み締めずにはいられない。もう二度と槍など持てなさそうな程、馬鹿みたいに幸せである。
     我も、鍾離様と食卓を囲むのを楽しみに思っています。
     そう言えばいいのに、中々言い出せない。いつまでも気恥ずかしい気持ちは収まらなくて、しかし鍾離以外とこんな風に過ごすことは考えられない。それを言えばいいのに、どうしても素直に言えなかった。
     鍾離の居ない夜は、大抵空が一緒に夕食を食べてくれる。なんでも、鍾離から連絡がいくそうだ。特に一人でも問題はないのだが、目を離すとすぐに魈が食事を抜こうとするのを鍾離はよく思っておらず、見張り役も兼ねているようだった。
     鍾離と食事をするのは楽しいが、特に食事自体に興味がある訳ではない。料理自体は面倒だが、鍾離とする料理は楽しく感じる。一人でも問題なく生きているが、鍾離がいないと生きていけない。再会してしまった以上離れるという選択肢がなく、どうしようもない。
     今日も空と夕食は一緒だが、もともとクラスの飲み会があったのでそれに二人で参加した。前もって鍾離に自分も飲み会に行くことを告げると、自分が迎えに行けない日に魈が飲み会に行くことに難色を示していた。幼子ではないし、この身体も二十歳は超えている。いつも迎えに来てもらっている事が申し訳なく少し口論になってしまったが、最終的には鍾離より先に帰宅していることを条件に、向こうが折れた。
     軽く食事だけして帰ろうと思ったが、存外空と話も弾んでお酒も進んだ。空は酒に強いが、魈はそこまで強くない。同じペースで飲んではいけないと思いつつ楽しく会話をした結果、知らない間に結構飲んでしまったようだった。瞼がしょぼしょぼする。空は何度も、大丈夫? それ以上飲んで帰れる? と心配してくれていたが、大丈夫と答えた結果がこうだ。いつもは飲みすぎても鍾離が迎えに来てくれることもあり、あまりどれだけ飲んでいるかを気にしていなかったのだ。
     飲み会が終わり、二次会組と帰宅組で別れた。勿論魈は帰宅組である。いつもは二次会に行く空も、今日は魈の隣を歩いていた。
    「空は、二次会に行かなくても良かったのか?」
    「魈をちゃんと駅まで送るって、先生に約束してるからね」
    「まったく……」
     まったく……は鍾離に対してである。この根回しの過保護が過ぎて、時折ため息をつきたくなる。
    「電車逆だから魈の最寄り駅まで行けないけど……帰れそう?」
    「ああ。大丈夫だ」
     空は今や同い年と言えど、心配されるような魈ではない。そう思いホームで別れたが、電車に乗ると調度良い振動が眠気を更に誘発し、段々瞼が落ちてくる。仙人の時はよく立ったまま眠っていたな。と昔を思い起こしてはハッと瞼を開けて、駅のアナウンスを聞き漏らさないように耳を立てた。仙術を使えば一瞬で帰宅できたが、そのような術はもう使えない。そうこうして揺られている間に、魈の住んでる駅に着いたので降りた。
     降りた瞬間視界が歪んで、頭がクラクラした。吐きそうなのか、それもわからない。動悸がするので胸を抑えて、降りたホームのベンチにひとまず座った。いつの間にか呼吸が荒い。一度座ったら、もう立ち上がれそうになくなってしまった。どうしたら良いと思うが、頭が回らない。鍾離に連絡をした方が良い気がする。とスマートフォンを取り出して、鍾離のアイコンをタップしてコールをかけた。しかし、難色を示していた鍾離の顔を思い出して慌てて止めた。鍾離にも用事があり、鍾離の世界がある。自分を優先して貰う訳にはいかない。今回は自分の足で帰らなければ。
     せめて駅を出てタクシーを拾って帰るところまで頑張らねばいけないと思い至って、しばらくその場で休むことにした。
    「ねぇ、君大丈夫? 具合悪そうだね」
     ホームの電球で影になってよく見えなかったが、誰かに話しかけられ、顔を覗き込まれていた。先程電車で降りてきた乗客のようだった。男か、女か、声からはよくわかなかった。
    「水とか飲む? 買ってきてあげるよ」
    「いや、不要だ。問題ない」
    「でもすごく具合悪そう。寝転んだ方がいいんじゃない?」
     肩を押され、抗うことも出来ずベンチに上半身が沈んだ。見下ろされているが、未だにそいつの顔は見えない。
    「綺麗な顔してるね。誰かを待ってるの?」
    「ま、ってる」
    「そう。もうすぐ終電だけど、ほんとに来るのかな? 近くで一緒に休んであげようか……?」
     無骨ではなく、どちらかといえば綺麗な指が、するっと頬に触れてきて寒気がした。蹴り飛ばしてやりたいが、今の自分の身体はてんで力が入りそうにない。髪も撫でられて、吐き気が止まらず思わず嗚咽したしまった。
    「失礼しちゃうよね。面倒見てあげてるだけなのに」
     よっこいしょ。とそいつは隣に腰掛けていた。鞄からペットボトルを取り出して水を飲んでいる。
    「次が終電だよ。君の待ち人は来るかな?」
     飲む? とペットボトルを差し出されたので首を振った。そう。と言いながらまたそいつは水を飲んでいる。
     最終電車が来た。ドアが開いて、乗客がちらほら降りて来るのが目に入る。鍾離がこれに乗っている保証はない。もしかしたら鍾離の方が先に帰っているかもしれないと流れ行く人を見つめていると、人々に逆行して走ってくる人影があった。走る姿など見たのは久々で、振り返って見ている人の視線も諸共せずにこちらに向かって走ってくる、鍾離の姿があった。
    「……魈に何もしていないだろうな?」
    「え~? 人聞きが悪いなぁ。ボクは見ていてあげただけなのに、酷い言い草だよね。君もそう思わない?」
     開口一番、魈ではなく鍾離は隣の人に話しかけていた。今にも掴みかかりそうな程の怒気を孕んで睨みつけている。男の態度からして、二人は知り合いなのかもしれない。
     問いに対し、魈が何も答えないのを見てふっと息を吐き、じゃあボクは行くから。またどこかでね。と言い残して去って行ってしまった。誰も居なくなったホームに残されたのは魈と鍾離の二人だけだった。
    「鍾離様……」
    「本当にあいつに何もされてないな?」
     頬と髪に触れられたのは、何かされた内に入るのだろうか。緩く頷くと、深いため息をつかれてしまった。
    「良かった。さて、帰ろうか」
     問答無用で横抱きにされ、鍾離に運ばれてしまっている。このままホームを出るのは少し恥ずかしいが、鍾離に会えたことにほっとして胸に身を預けた。結局は迷惑を掛けることになって、鍾離は怒っていないのだろうか。
    「申し訳ありません……」
    「何がだ?」
    「いえ……」
     鍾離の歩く音と振動が心地良くて、瞼を閉じてしまう。鍾離がいることに安心してしまって、何も考えられない。
    「ありがとうございます」
     それだけ伝えて夢の世界へと意識を飛ばす。声色から魈へ怒っているような感じはしなかった。心なしか額に柔らかいものが触れ、抱き締める力が強くなったような気がする。
     鍾離の心地良さを手放さないように、ちゃんと鍾離の忠告は聞こうと思う、魈であった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works