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    sayuta38

    鍾魈短文格納庫

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    鍾魈現パロ小話 隠し事をするしょに対してそれを聞きたい先生の話

    #鍾魈
    Zhongxiao

    やきもちその③ 近頃、バイトからの魈の帰宅時間が遅い。時間で言うと三十分程度なのだが、訳を尋ねても「少し……」と言うばかりだ。それ以上尋問する気はないが、普段寄り道をしない魈が、こうも連日訳も話さず帰りが遅いのは気になる。バイトが終わる頃に車で迎えに行こうかと打診してみたが、断られてしまった。
     魈にも生活があり、今や鍾離と二人だけの世界という訳でもない。友人と食事に行くことは喜ばしいし、彼が外へ興味を持つことは良いことだと感じる。それはそれなのだが、気になることには変わりない。
     魈は世間の移り変わりがよく知れる。という理由で書店でバイトをしている。バイトの終わり時間は二十二時。そこから三十分もすれば帰ってくるのだが、今日も二十三時近い帰宅であった。
    「ただ今戻りました」
    「おかえり、魈」
     その『少し……』とやらの内容を知りたいと思うが、魈は自分に言えないことの一つや二つあるかもしれない。魈のことは何でも知りたいが、なんでもかんでも知りたいと思うのはただのエゴでしかない。
    「今ご飯を温めよう」
     魈がバイトの日は、鍾離が夕飯を作っている。魈もバイトがない日は、夕食を作って鍾離の帰りを待ってくれている。
    「あ、ありがとうございます。いただきます」
     魈はスマートフォンをテーブルに置いて手を洗いに行った。鍾離が電子レンジの前に立っていると、ピロリン。と魈のスマホからメッセージの入る音がする。気になるが気にしない。ご飯をよそってテーブルへ置くと、またピロリン。と音がしてメッセージの通知が画面に映る。
    『今日もありがとう』
     一瞬見えたメッセージ。差出人はバイト先の人と予想がつく。『今日も』ということは、もしかすると魈の帰宅が遅い理由はこの人物にあるのかもしれないと思った。
    「鍾離様、今日は白ご飯だけなのでしょうか。別に我は構いませんが……」
     気付けば魈が戻ってきて、席に座ろうとしていた。魈はスマホを見て数回画面をタップして、画面を下にしてテーブルに置き直している。
    「ああ、すまない。今用意する」
     味噌汁と焼き魚を温めテーブルに置き、向かいに座る。魈が食べ始めるのを見ながら、彼が帰ってくるまで読んでいた書物の続きに目を通す。
     『今日はありがとう』その内容が頭に浮かび、本の内容が頭に入らない。魈は優しく責任感がある。礼を言われるようなことは日常に於いてごまんとしているだろう。魈は何と返事をしたのだろうか。相手は誰だ。気になって仕方ない。
    「魈、今日のバイトはどうだった?」
    「特に変わったことはありませんでした」
    「……そうか」
     いつも同じようなやり取りをしているが、何か隠されているような気がしてならなかった。魈の中で変わったことに該当する事柄は少ない。それは昔からあまり変わらない所だった。
    「魈、もう少し詳しく教えて欲しい」
    「?」
     魈は小さく口を動かしながら、白ご飯を咀嚼し、少し首を傾げた。
    「今日も少し帰宅が遅かったな。何かあったのではないか?」
    「それは……少し……」
     少し。その先を聞きたかったが、魈は口を閉じてしまい、味噌汁を口に含んで飲んでいた。会話がそこで終わったのだ。言いたくないものは仕方がない。しかし、鍾離には言えない何かがあるのは明らかだ。
    「鍾離様……その……」
    「なんだ?」
    「あ、いえ……なんでもありません」
    「余計に気になる言い方をするのはお前の悪い癖だぞ、魈」
    「……すみません……」
     やっぱり魈はその先を言わなかったが、鍾離の言い方も悪く魈は口を閉ざしてしまった。食事をした後は自分の茶碗を洗って片付け、早々に部屋に帰って行った。一人リビングに残された鍾離は、モヤモヤした気持ちがつのるばかりであった。

     今日も魈はバイトへ行った。夕方から雨が降るかもしれないので車で迎えに行くと言うと、やはり断られてしまった。
     微妙な空気が流れている気がする。断られはしたが、気になることをそのままにしておけない性分なのもあり、ついにはこっそり迎えに行くことにした。バイトが終わる少し前から書店の駐車場にて待機していると、二十二時を過ぎたあたりで魈が出てきた。その一歩後ろから魈と同じ歳くらいの女性も店から出てきて、魈と並んで歩き出した。ほう。あれが魈のバイト仲間か。と納得したが、女は突如魈にしがみつくように腕を組んできたのだ。普段の魈なら、触るな。と言って止めさせるであろう光景だが、魈は何も言うこともなく前を向いて歩いている。
     …………どういうことだ?
     唖然としてしまい、魈に声を掛けられなかった。まさか魈に限って今更浮わついた行動などしないと思っていたが、年頃の男女は並んで歩くとお似合いに見えた。
     二人の姿が見えなくなったので、車のエンジンを掛け二人を追跡することにした。声を掛けるタイミングを逃してしまったのだ。魈は駅までの道のりを歩いていたが、駅を通り過ぎ少し歩いた先のマンションの前で立ち止まった。どうやら女性の家はそこらしい。女性は魈から離れ、手を振った。魈も小さく手をあげ踵を返し、元来た道を歩き出した。
    「!」
     女性は魈に駆け寄り、後ろから抱きついた。魈はそれにちらりと一瞥し、何でもなかったかのように手で振り払い、また歩き出した。
     なんだ、この光景は。毎回このようなことを魈はされているのか?
     車を停車したまま呆然としていると、コツコツ、と窓を叩かれる。振り向くと魈がいた。尾行していたことに魈は気付いていたのだ。
    「鍾離様」
     名を呼ばれ、助手席側に回った魈はドアを開けて車に乗り込んだ。
    「魈……」
    「すみません」
    「何が、すまないのだろうか」
    「……それは」
    「……俺に隠し事をしていたことか? 女と腕を組んだり抱擁されていたことか? それを言えないというのは、やはりあの女にお前は気があるのか?」
     ついに聞いてしまった。気になっていたことが口から次から次へと出ていく。
    「鍾離様、落ち着いてください」
    「お前が何も言わないからだろう!」
    「っ………………申し訳ありません…………」
     久しぶりに頭に血が上って、つい声を張り上げてしまった。魈の肩はびくりと震え、途端に身を縮ませ俯いている。
    「いや、すまない。お前は言いたくなかった事柄だったのに、俺が勝手に迎えに来てしまったのだ。俺が悪かった」
    「いえ……我がちゃんとお伝えしなかったのが悪いです……しかし、そのようなつもりはありませんでした……」
     膝の上で拳を握り小さくなっている魈を見て、自分の行いを即座に省みる。ただ、目の前にいる想い人を大事にしたいだけなのに、これでは全くもって逆効果である。
    「家に帰ったら、話しますので……どうか……お許しください。それとも我は、あの家に帰らない方が良いでしょうか……それならば、出ていきます」
     魈の拳は震えている。お許しください。魈は夜叉の時代に、失態を犯した際によくそう言っていた。しかし今や鍾離は神ではないので許しを乞う必要はない。なんということだろう。それ程までに、魈をたった一言で怯えさせてしまったのだ。
    「出て行かれる方が心配だ。お前の帰る場所はあの家だろう?」
    「その、バイトも辞めた方がいいなら辞めます。外に出るべきではないのなら、大学も辞めます。なので、どうか、どうか鍾離様……」
    「俺がお前の好きに生きて欲しいと願うのは変わらない。とりあえず家に帰ろう。家でゆっくり話をしようか、魈」
    「はい……」
     車を発進させ、しばらくすると鼻水を啜る音が聞こえてくる。今は何を言っても話し合いにはならないだろう。完全にこれは鍾離が悪い。泣かせるつもりなど全くなかったのだ。
     家に着くと、玄関で魈は立ち尽くしてしまった。
    「我は……まだこの家の敷居を跨ぐことを許されているのでしょうか……」
    「当たり前だ。ほら、おいで」
     手を引いて入室を促す。背を丸めたまま、魈はリビングへと入っていく。これではまるで魔神から魈を解放したばかりの頃に逆戻りだ。
     魈をテーブルに座らせた。食欲がなく晩御飯はいらないと言うのでホットミルクを入れて差し出す。しばらくして一口、二口、とそれを飲み、ようやく魈は口を開いた。
    「あの者が……最近バイトの帰りにつけられている気がするので、一緒に帰って欲しいと言ったのです」
    「それで魈は、毎回家まで送っていたのか?」
    「……はい」
    「俺に相談すれば良いだろう。車でその子も送ることくらい、容易いことだ」
    「……きっと鍾離様はそう仰ると思いました。なので言い出せず……」
    「む。なぜだ」
    「毎回その者を送る手間を鍾離様にお掛けするのは……それに、遠い距離でもないので我だけで事足りると思ったのです……あの者が我に触れてくるのも、尾行者へのアプローチなのだと言って、その……」
    「そうか。わかった。話してくれて感謝する」
    「すみません……」
    「隠し事をされている方が俺は嫌だった。お前が俺から離れることもあるのかと、少し考えた」
    「それはあり得ません」
     生涯の伴侶。魈とは、何度生まれ変わっても共に生きようという契約を結んだ。それを告げた時、魈は目を丸くして驚いていたが、生涯で一番の柔らかな笑みを一瞬だけ見せてくれた。それを悲しませてしまうのは、一番やってはいけないことだ。
    「こちらへおいで」
     鍾離はテーブルからソファに座り直し、ポンポンと腿を叩く。魈はそろりと立ち上がり、恐る恐るといった様子で鍾離の隣へ座った。
    「俺が怖いか」
    「いえ……はい……いえ、あの……」
     今や鍾離は怒りに身を任せて地形を変えるような力もない。正真正銘ただの凡人だ。
    「愛しいと思う気持ちは、いつになっても不自由でままならないものだ」
     魈を腕に抱き込んで、膝の上へ座らせた。ぎゅう、と抱き締めて魈の肩口に額を乗せる。
    「すまない。お前のことを知りたいあまりに、つい声を荒げてしまった。本当にすまないことをした」
    「…………鍾離様…………」
    「魈には魈の生活がある。俺の為にそれを辞めることは何一つない。ここに閉じ込めておくつもりもない。魈はいつでもしたいことをすればいい」
    「先程は……取り乱してすみませんでした……」
    「俺といることで不自由を感じるなら、この家からいついなくなっても、俺はもうそれを追うことはしない。どこかで幸せに暮らしてくれればそれで良いと思う」
    「我は……まだ、鍾離様と共にいたいです……。それに、岩王帝君の契約を我は破ることはありません。その覚悟で、あの時あなたの手を取ったのです」
     きゅ。と鍾離の腕に、少し小さな、槍を持たなくなった魈の手が絡まる。こうして何度も転生して、もう何度目かの人生を共に生きているというのに、まだ共にいたいと言ってくれる魈のことが愛しくてたまらない。
    「仲直りをする機会をくれないか。今日は共に眠りたい。駄目だろうか」
    「はい。我も……鍾離様と一緒に、眠りたいです」
     顔を見れば、誘われるようにして唇を重ねてしまう。重ねては離し、また重ね、どんどん深くなる。全部全部、欲しくなってしまう。
    「鍾離様、寝室へ行きませんか……」
     とろりと溶けた瞳は、可愛らしく夜を誘ってくる。埋まらない隙間を、何千年もかけて少しずつ埋めていく。
     今日も明日もその先も、俺は魈を生涯大事にすると決めたのだ。その為ならば、今は何の力も持っていなくても、何でもやってみせようと思う。

     後日、魈からストーカー疑いの人は居なくなったそうですと聞き、それはとても良かったな。と含みを持たせる笑みで返答してしまった。それに魈が気づいたかはわからないが、そんなことはどうでも良い事だ。
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