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    ここのか

    @d9_bond

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    ここのか

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    多少関係が解消されて一緒に出掛けるようになったりしてる了遊(つきあってない)の話
    いたずら(健全)されたし菓子もとられた

    ※ハロウィンに大遅刻して出しそびれた
    ※いやむしろこれは350日くらい先走ったとも言える
    ※了見が開き直っている

    ハロウィン了遊 ハロウィンはコスプレをやるとは聞いていた。
     元々当日いつもの広場でハロウィンイベントが行われる事、広場内では仮装OKという話も聞いていた。この手のイベント大好きなAiが食いつくのも予想していた。カフェナギでもやろう、とAiが草薙に提案し、何やら相談していたのも知っていた。
     が、遊作本人は全くやるつもりはなかった。
     元々人出が見込まれるハロウィン当日は、調理側を草薙と遊作、接客側を仁と臨時バイトのAiが担当する予定だった。そのため仮装するのは表に出る二人だとばかり思っていたのだ。
    (やられた)
     手触りの良さそうな黒の猫耳と長いしっぽ、金の鈴の付いた深緑のリボンチョーカー。
     遊作の分ね、と差し出された衣装を前に遊作は呻いた。
     当初断固拒否の構えだった遊作だが、Aiが「ガチな奴より抵抗感ないでしょ」と予防線を張り、黒の犬耳をつけた仁が「お揃いで、と思ってたけど遊作は猫っぽいなって」と嬉々として猫耳を差し出し、草薙が後ろで感慨深げに「こんな風にイベントを楽しめるなんてなあ」などと呟いているのを聞いてしまい拒否しきれなかった。こういう時やってやってと一番騒ぐはずのAiが静かだったので、遊作が草薙兄弟に弱いのを分かっていて搦め手できたのは明白だった。AIは計算が得意。
     ちなみに草薙は、魔法使いだとフード付きの短いマントを羽織っていただけなのでちょっとずるいと思った。言い出しっぺのAiは小さい黒い羽と角をつけており、曰く「悪魔と魔法使いとその使い魔たち」というコンセプトらしい。
     ともかく逃れようもなく不本意ながら遊作は猫耳猫しっぽ首に鈴という簡素ながら立派なコスプレを披露することになった。主戦場がキッチンスペース内であるしそう目には付かなそうなのが不幸中の幸いだ。
     つけてみれば皆似合ってるを連呼し、鏡で見れば癖のある髪に紛れて猫耳は案外違和感なく見えたので遊作はホッとした。



     当日は目が回るような忙しさだった。
     イベントは午後からだったが昼過ぎにはコスプレをした人たちが広場を大勢行き来し、スクリーンでもリンクヴレインズ内の賑わいを流しておりお祭り騒ぎだ。
     それでも遅い昼のピークを終え、広場でイベントが始まると客足は一段落した。
    「今のうちに交代で休憩いれとくか」
     草薙が言ったとき、Aiが「あ!」と大きな声を上げた。
     何事かと見やると店の前に了見が立っていた。トリックオア、とAiが言いかけたところで何かの包み(後で確かめたら有名ブランドの菓子だった)をAiに放り投げると、何事もなかったように草薙へこんにちはと声をかける。
    「コラー! 雑な対応するんじゃねえ!」
    「店員のセリフかそれは。──ホットドッグ5つ、テイクアウトで」
    「いつも悪いね」
     どっちの意味だが分からない草薙の言葉にAiが何やら騒ぎそうだったので、遊作はAiを呼んで黙らせた。
    「あ、遊作はこのまま休憩入って良いぞ」
    「え?」
     了見の注文分の作業にかかろうとしていた遊作に、草薙はひらひら手を振る。
    「品物出来たら呼ぶからな」
    「そうそう、せっかく来てくれてるんだし」
     続けて仁に言われて、遊作は了見と顔を見合わせた。
     了見は別に遊作に会いに来たわけではないはずだが、草薙も仁もなにか勘違いしているようだった。だが了見がこくりと頷いたので、遊作も頷いて、厚意に甘える事にした。
    「遊作!」
     バンを出ようとしたところで、はいこれ、と飛んできたAiが菓子の詰まったカゴを押しつけてくる。
    「トリック・オア・トリートってアイツが言ったら、ちゃんと全力で投げつけて追っ払えよ」
    「それは仮装側のセリフだし、そもそも節分か何かと勘違いしてないか?」
    「男はみんなオオカミなんだよ」
     特にアイツはタチが悪いから、とよく分からない事を言うAiに適当な返事をして遊作はとりあえずカゴを受け取った。

     キッチンカーの裏側スペース、植え込みのレンガをイス代わりに了見とかける。Aiがオオカミ云々言っていたが別に了見は仮装はしていない。
    「そっちも忙しいんじゃないのか」
     問うと了見はあっさり首を振る。
    「幸い今のところ大きな問題は無い。が、浮かれている者は多いな」
    「そうか」
    「それにしても」
     遊作の姿を改めて目にして了見は呟いた。
    「……笑うな」
    「笑ってはいない。よく似合っていると思っただけだ」
    「ああ、これは仁がAiと一緒に作ってくれたんだ。良く出来ているだろう」
     よく見せてやろうと遊作は頭をかがめる。了見は、似合っているといったんだが、と呟きつつ手を伸ばした。
    「お前の髪色に合わせてあるな。確かに良い出来だ」
     言いながら手触りのいい生地で出来た三角耳をつまんでみたり撫でたりしはじめる。長い指がカチューシャ部分をなぞり、さらりと髪を梳く。その思いの外優しい指先が心地よくて、猫が撫でられるとこんな感じなのだろうかと思いながら遊作はしばしされるがままでいた。
     指先はするりと耳の裏を撫で、首元に降りる。
    「チョーカーも手製か」
    「これは市販だな」
     問われて遊作は素直に顔を上げた。顎を軽く持ち上げられたので、よく見えるように喉元を晒して見せると了見は目を細めた。いい色だと褒めながらリボンチョーカーと首の境をゆるゆるなぞる。
     喉元を這う指先の感覚に小さく身体が震えて、リボンの鈴が音を立てるに至って遊作はようやく我に返った。
    「っ……もういいだろう」
     言いながら慌てて了見から離れる。
     了見は何か言いたげな顔をしたものの、そうだなと素直に手を下ろした。
    (何か、変な空気になりそうだった)
     遊作はこっそり冷や汗を拭う。以前からたまに了見はこうして触れてくる事があったが、いつものそれとは違う感じがした。Aiの「菓子を投げつけろ」という言葉が浮かんで、いやそれはどうかと首を振る。
     そんな遊作の心を知ってか知らずか、了見は小さく笑った。
    「誰の発案だか知らないが、お前が猫というのは良いセンスだ──お前は、撫でられるのが好きなようだからな」
    「なっ……!」
     図星をさされて遊作は小さく唸った。頬が熱くなる。
    「それは、あれだ……おまえが撫でるのが好きみたいだから、合わせてるだけだ」
     苦し紛れの言い訳をするが当然意に介す訳もない。それはどうもとちっとも信じていない口調で返される。
    「あまり人をからかうな」
     むくれてみせると了見はふと、真顔になった。
     遊作に目線を合わせるように身をかがめる。
    「……からかっていると思ったか」
     真っ直ぐに覗き込む淡色の目に戸惑っていると、了見は口の端を上げた。遊作の耳元へ口を寄せる。
    「そう思うなら、私の前であまり隙を見せない事だ」
    「──!」
     かかる息に遊作が身を竦めると了見はまた、笑ったようだった。
     遊作の頬をするりと撫でて立ち上がり、膝に乗ったままのお菓子カゴからマシュマロをひとつつまみ上げる。
    「今日はこれで。──休憩に、邪魔をしたな」
     何事もなかったような顔をしてそんな事を言うと、了見は店の表へ行ってしまった。
     遊作はその後ろ姿を見送ったままの姿勢でしばし呆然としていた。
    「……だから、仮装側のセリフじゃないのかあれは」
     呟く。
     膝上でお菓子カゴが、かさりと乾いた音をたてた。
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