これは浮気じゃない・会話文
・いつもの本編後
・付き合ってる了遊
・半分は了見と巻き込まれたAiちゃんの会話
・運囚どっちも様子がおかしい
・秋要素はオマケと化した
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「遊作の様子がおかしい」
「……うん。この多忙なAiちゃんをわざわざ呼び出して何かと思ったら……何のことか知らねえけど、気になることがあるなら本人に直接聞けよ。オツキアイしてんだからさ」
「直接聞くのは最終手段だ。妙な行動をしているのは確かだが、証拠か動機を抑えなければ問い詰めたところで逃げられる。何か知らないか」
「知らなーい。そもそも遊作の何がどうおかしいんだよ」
「羨ましくも藤木遊作と暮らしておいて異変に気づいていないのか」
「異変っつってもねえ。最近は変な事件とか体調不良とかなーんもないし、遊作は変わりないぜ。考えすぎか勘違いか、いよいよ愛想つかされはじめてんじゃねえの?」
「AIのくせにお前の記憶領域はハリボテか? 先々週から日々の行動に変化があったはずだ。思い出せ」
「ええ? うーん……いや、やっぱりそんなことないって。強いて言えば最近夕飯外で済ませてくるの増えてたけど──あれ? 一緒じゃなかったの?」
「でなければお前にこうして聞きに来るはずがないだろう」
「あっ……。いやいや、でもそうやってピンポイントで分かってるなら遊作がどこに行ってるかなんてオレに聞く前にすぐ調べられるだろ」
「できたらとうにやっている」
「え? どういうこと?」
「以前から有事の際や遊作の動向が気になったときのためにデンシティ内の全ての監視カメラには手を回してあるのだが」
「ウン、知ってたけど改めてこえーな。聞いておいて何だけど堂々と犯罪告白やめようぜ」
「非常時ゆえ問題ない。データがないことのほうが問題だ」
「非常時……まあオマエがそう思ってるならそうなんだろうけどさ。つかデータがないって何? 監視カメラに映ってないところに行ってるってこと?」
「週に二、三度の放課後、通学ルート途中で足跡が消える」
「消えるって」
「携帯のGPSや監視カメラには学校内や店舗といった行動データが上がるが、精査したところダミーだった。そしてダミーデータを除去したが実際のデータは削除されていて見つからない」
「なるほど、そういう。……へえ、今見てみたけど監視カメラのデータを直接書き換えるタイプ仕込んでんな。バレそうだから見ないけど、GPSも似たようなことしてんだろうな」
「恐らくな。周到なことだ」
「単純だけど持ってるデータを直接変えるわけじゃないから発覚しづらいもんな。よく気づいたなこんなの」
「外食が増えてから情報精査した結果だ。過去分は洗いきっていないが実際時期的にはもっと前からかもしれない」
「ああ、そこでつながるわけね」
「件のプログラムの削除は簡単だが、それによってこちらが気づいていると気づかれて行動を戻される可能性がある。本人への確認も同じだ」
「確かにねえ。リンクセンスのせいかわりとそういうの敏感だしな遊作」
「──その様子だと、遊作の単独行動か」
「え?! オレのこと疑ってたの?」
「こういうとき共犯者として疑わしいのはお前とあの人くらいだからな」
「知ってたけど性格ワル〜! そーやって監視して束縛するから遊作ちゃんも息抜きしたいんじゃね?」
「束縛……」
「まあ遊作に限って浮気とかはないと思うケド」
「……浮気……」
「うわその顔こわッ いや、もののたとえっていうか、昼ドラでそういう流れあったなーって」
「フォローになっていない」
「ゴメンナサイ」
「しかし……万が一にもそのようなことになっていたなら一体私はどうしたら……」
「あの〜、ホントゴメンナサイ」
「相手を消すのは簡単だが……今後は監視だけではなくやはり監禁を……しかしそれでは昔を繰り返すことに」
「いやいやいやいや落ち着けって! それ一番ダメなやつだから! えーっとほら、逆に聞くけど遊作が浮気なんてすると思う? あの遊作だぞ?!」
「無論、藤木遊作が誠実な人間であることはよく知っている。不貞を疑う余地はない」
「だろ?」
「だが……そんな遊作にもしそうさせたとしたら、それは私という存在が引き金になっていることもまた疑う余地はない……。すまない遊作……」
「なんで急にそこ自信無くしてんだよ!」
「私とて、恋人の行動や嗜好や体調を把握するために行動範囲の電子データを遍く確認している行為が一般的とは思っていない。信頼されていないと取られて愛情が目減りしたとしても咎められるはずもない」
「自覚はあったのかよ! 分かってるならやるな! あとオマエがそこまでやってるって遊作知ってるし、知ってて許容してきてるのも大概だし今更だろ! オレも許してもらえたしそこは多分大丈夫だから絶対変なこと考えるなよ⁈」
「『オレも許してもらえた』? 何の話だ。聞き捨てならんな」
「あーっと、今はオレじゃなくてそっちの話だろ!」
「しかし」
「しかしも何もないから! 話戻すけど、そこまで分かってるならもういっそダイレクトアタックしろよ。ああまで徹底されてたらこれ以上できることもないし、絶対蓋を開けたら大したことないやつだって!」
「──ふむ」
***
「ということで遊作、話がある」
「何だ了見、急に訪ねてきたと思ったら改まって」
「というかさァ、そういう話にオレ巻き込む必要ある? オレ外すからあと若い二人でやってくんない?」
「近頃、私の目を盗んでコソコソ何処かへ行っているようだが」
「無視すんなー! あと初手から尋問になってる、穏便にいこうぜ! なあ!」
「それは、その」
「え? 遊作、何その顔色」
「まさかとは思うが……浮気しているのか」
「──っ! まさか了見、あれを見ていたのか」
「……。そうだと言ったら?」
「違う! 誤解だあれは浮気じゃない! そんなつもりじゃないんだ!」
「待って遊作、マジで浮気してんの?」
「違うと言っている!」
「浮気かどうかはこちらで判断する。詳しく聞かせてもらおうか」
「待ってセンセ落ち着こうか! なんで流れるように鎖付いた手錠取り出してんの気楽に持ち歩く物じゃないだろ怖いって!」
「あれはその──出来心というか気の迷いみたいなもので、決して俺の中の一番が変わったわけじゃないんだ!」
「遊作も落ち着こうぜ、墓穴掘ってる! 掘り続けてる! なんで浮気してる人の常套句並べるんだよ」
「そもそも浮気じゃないと言うなら行動を隠す必要はないだろう」
「それは……」
「ゆ、遊作……?」
「……了見、確かにお前の言うとおりだ。俺は浮気のつもりはなかった、それは本当だ。だがそうとられても仕方ないとも思っていたのも確かだ。どうせ期間限定のことだから、不用意に波風を立てるくらいならいっそ誰にも知られなければそれでいいと、その方がいいと思ったんだ」
「なるほどな?」
「なあ了見、真顔やめよーぜ怖いすごく怖い! その首輪もしまって行動じゃなくてまず言葉で解決しようぜ! 遊作も、浮気とか修羅場はドラマで見るのが楽しいんであってリアルではやめてほしいんだけど本当に本当」
「修羅場にはならない。草薙さんは優しい人だ、俺の裏切りを知っても許してくれるだろう。だが俺は──」
「えっ、ちょっと待って遊作」
「なんだ」
「ここでなんで草薙が出てくんの?」
「それは、……」
「……」
「……」
「! 了見、おまえ引っ掛けたな⁈ おまえたち本当は何も見ていないだろう!」
「私は『そうだと言ったら?』と訊ねただけだ。お前が勝手に思い込んだだけの事。元より後暗く思っているからこうなるんだ、観念して全部吐け」
「ぐ……」
「遊作〜、オレもこうなったら正直に全部話したほうがいいと思うよ? でないとまたリボルバー先生が犯罪行為に手を染めちゃうかも」
「……分かった。だがこのことは絶対草薙さんには言わないでくれ」
「まあ良いだろう。それで、どういうことだ?」
「──今、サルバーガーで月見バーガーというものを期間限定で売り出しているんだが知っているか」
「知ってる〜、あちこちでCMいっぱいやってるやつだよな」
「ああ。あれを一度食べたところ思いの外おいしくて……今だけしか食べられないと思うと余計に気になってしまって、皆に隠れて食べに通っていた」
「えっと……それが浮気?」
「浮気じゃないと言っている」
「いやまあね、それはそうなんたけどそもそもそうじゃないっていうかね?」
「お前がカフェナギ以外のファストフードとは珍しいな」
「財前葵に連れられて食べにいったのがきっかけだ。以前にLVのアバター修正を相談されて手伝った礼ということで奢ってくれた」
「そいやそんな事やってあげてたね」
「監視カメラログにはなかったが──なるほど、その件からデータを差し替えていたということか」
「ああ」
「えっと、Aiちゃんの分析結果だと一般的にハンバーガー屋通い云々よりも女子と放課後二人で会ってた事が浮気疑惑抱かれそうに思うんだけど、そこはどーなのよ?」
「Ai、了見はそんなことで疑念を抱いたりはしない。それに財前と一緒に行ったのは一度きりだ」
「あっそうだね。だってさ〜、よかったな了見」
「遊作の言う通り私はそんなことで騒ぎはしない」
「いやいやいや、何しれっと当然ですみたいな涼しい顔してんの? 浮気された可能性示唆しただけでやべーこと口走ってたのオレは記録してるからな?」
「何もなかったのだから問題ない」
「じゃあその手に持ってる物騒なもんしままおうぜ」
「……仕方あるまい」
「しかたなくない。──ま、遊作ちゃんは、そうやってたまたま食べた月見バーガーがすっかり気にいっちゃって食べに通ってたってワケね。それで夕飯いらないってのが続いてたんだ」
「ああそうだ。いや、決して草薙さんのホットドッグがどうと言うわけじゃない。あれは俺の好物に変わりない。ただ月見バーガーはジャンルが違って、それはそれでとても美味しく感じられた。しかしやはりカフェナギの店員として、ホットドッグ好きとしてライバル店に通う罪悪感が拭えず俺は、」
「いや、うん、もう大体全部分かっちゃったから大丈夫だよ遊作……知られたくなかったからってデータ改ざんしたり差し替えたりまでするのは意味わかんないけど」
「Ai。おまえは口止めしても絶対口を滑らせるだろう」
「ウッ……それ言われると否定できねえわ。(そもそも黙ってる必要性感じないし)」
「了見には、連日ハンバーガーを食べているのがバレたら止められるだろうと思って」
「確かに夕飯がホットドッグかハンバーガーの二択というのは褒められたものではない。止めただろうな」
「そういうわけだ。隠そうとした結果おまえたちに変に勘繰らせる結果になってしまったのはすまないと思う。──だがさっきも言った通りあれは決して浮気などではないんだ」
「あーうん、草薙も絶対そう思わないから大丈夫だと思うぜ。俺も了見も言いふらしたりしないし、な? 了見もほら、良かったな! 愛想つかされたんじゃなかったぜ!」
「そのようだな。ところで遊作、ちょっとそばへ来てくれ」
「何だ?」
「手を出してくれないか。両手だ。ああ、それでいい──よし」
「アッ」
「……おい了見。なぜ俺に手錠をかけた」
「なに、散々心配をかけてくれた件と食生活の乱れについてじっくり話し合った方が良いと思ってな」
「話すのは良いから放せ……! こんなことして絶対ろくなこと考えていないだろう! Ai、見てないで了見を止めてくれ!」
「というかさァ、結局この話にオレ巻き込む必要なかったよね? オレ外すからあと若い二人でやってくんない?」
「だそうだ。気の利く相棒で良かったな」
「そうそうAiちゃんとーっても気が利くから。じゃーね!」
「Ai! 俺を置いて逃げるな! ──了見、まて、話し合おう。なんならデュエルでもいい。俺が悪かった。だから──」
「話し合おうと私もさっきから言っているだろう。問題ない」
「………………………………」
***
「……大変な目にあった」
「まあ、それで済んで良かったと思いなよ遊作……」